某勇 ~一方その頃、編~

ふくまめ

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魔法の言葉

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「こないださ、ギルドに子供連れの家族が来てたんだ。」
「何だよ急に。その家族がどうかしたのかよ。」

ある日のギルド「冒険者」にて。ここを開設してからというもの怒涛の日々で、さらには先日レイの結婚式なんかもあったからこうして初期メンバーで顔を合わせるなんてことはなかなかできないでいた。そんな中、偶然とはいえ奇跡的に全員が集合、しかもそれぞれ用事が立て込んでいないなんて状況。これはお茶の一杯でも飲もうではないかというユイの音頭で、こうして急遽お茶会が開催されているのだった。
なんてことはない会話を楽しんでいたのだが、ふとギルドを訪ねてきた家族のことを思い出した。魔獣退治も定期的に行われたり警備もよりしっかり行われるようになったりと、ある程度安全に人が行きかうことができるようになった最近では見かけるようになった光景だ。

「うん…。その子供、小さい姉弟だったんだけど。手続している親御さんを持っている間、ギルドの中を見て回ってたんだ。そしたらさ…。」
「それ、もしかしてこの間の家族?確かそのあと、入ってきた配達業者の人とぶつかりそうになって転んじゃったのよね。弟君の方だったっけ。」
「そうそう。俺も声をかけられないくらい一瞬のことだったからさ。その子は相当驚いたと思うんだよね。」
「それがどうしたってんだ?」
「も、もしかして、大けがしちゃったとか?」
「いや、そんなことはなかったんだけど…。とにかく泣いちゃって泣いちゃって。」
「親御さんすら困ってたわね。」

その場にいたのは俺とユイさん。その時の光景を思い出すと、つい二人とも苦笑をこらえられない。この程度の軽い説明でも状況が想像できてしまったのか、レイとアレックスも似たり寄ったりな表情をしている。特にレイは双子とはいえ手のかかる妹を持ったという自負があるのだろう。徐々に眉間にしわが寄っていく。

「…まぁ、子供ってのは感情が爆発するもんだしな…。」
「あはは、うん。でも、周りの大人たちがどうしたらいいもんか考えてたらさ、その子のお姉さんが近づいて、『痛いの痛いの飛んでいけ』って頭撫でて慰めてたんだ。」
「…そ、それはまた…。」
「平和な光景だったわー。周りの大人皆でほっこりしちゃった。」

お姉さんとはいえ、さして歳の変わらないであろう女の子が慰めている姿には感動してしまった。実際弟君も驚くほどすぐに落ち着いてしまったので、普段からそう言った慰め方をしているのであろうと想像がつく。そこでふと気になったのだ。

「それでさ、『痛いの痛いの飛んでいけ』って不思議だよね。今言われても何にもならないけど、子供の頃はそれで良くなるような気が本当にしてたんだから。」
「魔法の言葉よね。」
「んーそうかぁ?オレはどうだったかな…。多分ルゥのおもりでそれどころじゃなかっただろうし。」
「ルーナさんに言ったりしなかったの?それこそ、この間の姉弟みたいに。」
「ルゥはあまり耳に入らなくなるタイプだからな。」
「「あぁ…。」」

そう言われてしまえば、幼少期を一緒に過ごした俺たちは何も言えなくなってしまう。大人になってから会っているユイさんは少し不思議そうにしているが、子供の頃はすごかったんだ、それはそれはね…。

「で、でも、僕も言われたことないよ…。」
「そりゃ親が医者だったらそうだろ。」
「周りの大人も言いづらいわよね。」
「言葉だけでどうこうしようとするくらいなら、必要な薬処方しそう。」
「そ、そっかぁ…。」

ちょっとそういうのに憧れてたんだけどなぁ、と残念そうに笑うアレックス。そう考えると、それぞれの家で違うんだなぁ。

「ねぇ、みんなの思う魔法の言葉って何?」
「何だよ、そのバカみたいな質問。」
「うるさいわね!だって、子供の頃しか効かないような魔法みたいなもんじゃない、『痛いの痛いの飛んでいけ』って。」
「そう、かなぁ?」
「あ、でも、そういうので言ったら、僕は『ありがとう』だと思うよ…。その言葉を聞いたら、あったかくなるから。」
「そう!そういうのよ、アレックス!見習いなさいよ、レイ。」
「オレかよ。」
「『大好き』とか?」
「…意外とロマンチスト。」
「オレは言葉より、物くれたほうが機嫌直ると思う。」
「現実主義ねー、つまんない。何か言葉で思いつくものないの?ほらほら。」

何でもない話題のつもりだったんだけど、なんだか大喜利のようになってきた。とはいえ、完全にレイは現実的なタイプだし、なかなか思いつかないみたい。俺とアレックスは逆にハートフル方向しか思いつかなくて、同意も納得もできるけど面白みに欠けるようだ。
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