77 / 84
あなたは何タイプ?③
しおりを挟む
ここまで三人の描いた絵を見せ合ってきたわけだが…。
遂にこの時が来てしまった。世界の終焉の時が。
「なんだかとっても失礼なことを考えているような顔をしているね?レイ。」
「いやなにも?」
「この中で一番絵を描いている経験があるってことよね?ウィル、早く見せてよ!」
「ゆ、ユイさん…。悪いことは言わないから、その…ちょっと距離を取ってみたほうが…。」
絵を見るのに距離を取る。決して目を労わってのことではない。
労わるのは精神だ。
それぞれの思いを抱え、満を持してウィルの描いた絵が目の前に…。
「「「…。」」」
「どう?何が感じ取れた?」
バーン、と自信満々に掲げられた絵を確認したオレたち。ニコニコと好評を待ちわびているウィルとは対照的に、オレたち三人は一言も発していなかった。
「…おい、大丈夫かユイ。」
「…はっ。」
「い、意識が戻ってきたみたい…。よかった…。」
「本当に失礼だな。」
「こ、これは、一体…。何が描かれているの…!?」
震える手で指をさすユイ。その表情は引き攣っている。
気持ちは察するぞ。少し前までの能天気な自分を殴ってしまいたい気分だろう。
「何って…風景画だけど?」
「私が見ている世界の太陽に、顔なんてついてません!」
そう、なぜかウィルの奴が描く絵に登場するやつは、無機物だろうが関係なく表情が付与されているのだ。しかもそれがニコニコ笑っているものならばいいが、なぜかバキバキに見開いているものがほとんどだ。
お前にはこの世界どう見えてんだよ…。
「太陽はいつも空の上から俺たちを見守ってます、って気持ちを込めて描いているんだけど。」
「このかっ開いた目じゃ見守るというより監視してんだろ。」
「ち、小さい失敗も、絶対に見逃してくれなさそう…。」
「しかも何!?この迫りくる無数の手は!誰か連れ去ろうとでもしてるの、この太陽とやらは!」
「ち、違うよ!これは降り注ぐ日の光を、温かく差し伸べられる手として表現してるだけで…。」
「どう見ても砂糖菓子で子供を誘拐しようとしている不審者の手。」
「な、なんて恐ろしい…!」
「もうレイ、アレックス!お前たち黙っててくれよ!!」
「しかもこの周りの木!全部こっちを見て狂気じみた笑みを浮かべてるんだけど!?」
「えぇ!?これは木々のざわめきが歓声となって俺たちをいつでも歓迎してくれている、って表現なんだけど。」
「どう見ても『生贄が来たぞ』って歓喜しているようにしか見えない。」
「き、気がついたらこいつらに取り囲まれてて、逃げられなさそう…。」
「だから!変こと言うなって!!」
想像していた反応が返ってこないことに、さすがのウィルも焦っているようだ。いや、ユイに本気でドン引きされていることが堪えている、といった方が正しいだろうか。
オレとアレックスには慣れたように返しているが、ユイに対しては必死に説明している。だがなウィル、その必死さが時には狂気的にも見えるもんなんだぜ…。ユイとの物理的な距離を見ろ。
めっちゃ遠い。
「どうして伝わらないかな…。」
「ここにはお前と同じような感性の人間はいないってことだな。…あと少なくとも、『風景画』っていって描いててこんな感じの作品にはならない。」
「そんな…。」
「やぁ四人ともお揃いで!何をしているんです?」
「わぁ!」
まったく相手にされないどころか距離を取られてしまっていることにショックを受け、肩を落としているウィルの背後に、急に人が生えた。
誰がって、王子が。
「うわ出た!」
「カイン王子!」
「声を小さくしてくれますか、目立ちたくないもので。…その反応、人を何だと思っているのでしょうか?」
「いやだって…王子ともあろう人がこんなところにいるなんてよ…。」
「まぁこれにはきちんとした理由があってですね。」
「理由。」
「えぇ。」
王子が言うには。先のハナビが街で大きな話題となってしまい、オレたちが城で説明をする羽目になったんだが…。その時にこの王子がそういった文化があるなら見てみたいと、オヤカタとの橋渡しを持ちかけてきたのだ。もちろんオヤカタに説明したらあの性格だ。快諾してくれて早々に王子との謁見となった。そこへ同席はしなかったのだが、風の噂でオヤカタの技を芸術でと絶賛したとか何とか…。そこから正式に、今後その技術のお披露目を依頼したいといろいろ動き出している、ということなんだそうだ。
「…ということで、突貫とはいえハナビが披露されたこの広場を視察しようというわけです。」
「なるほど、ある意味公務というわけね。…お付きの人は?」
「彼らは忙しいみたいでしたから!」
「置いてきたのか。」
「結局抜け出してるんじゃない!」
城の奴らには同情するぜ。今頃大騒ぎになっているだろう。
「でもこうして、実際にハナビに立ち会った四人に出会えたのは幸運です!いろいろ話を聞きたいですから。」
「オレたちに話せることは、もう十分話したと思うが…。」
「何度聞いても聞き足りません!…ところで、みなさんここで何を?」
「あ、えと…その、やっと涼しくなったから、絵でも描いて、ゆっくりしないかって…。」
「絵。いいですねぇ、芸術です!芸術は心を豊かにしてくれますからね。それぞれ描いていたんですか?ちょっと見せていただけます?」
「え、あ、ちょっと…!」
抵抗する間もなく、王子はオレたちの手に握られていた絵をサッと取り上げてしまった。
これはまずい。
オレたちの気持ちは全く伝わらず、王子はうんうんと頷きながら誰かしらが描いた絵に目を通している。そして、恐れたいたことが…。
「…こ、これは…っ!」
誰かの絵を目にした途端、王子が動きを止める。いや誰の絵なんてわかりきったことだ。
終わった。約一名を除いたオレたちの心が一致した瞬間だった。
遂にこの時が来てしまった。世界の終焉の時が。
「なんだかとっても失礼なことを考えているような顔をしているね?レイ。」
「いやなにも?」
「この中で一番絵を描いている経験があるってことよね?ウィル、早く見せてよ!」
「ゆ、ユイさん…。悪いことは言わないから、その…ちょっと距離を取ってみたほうが…。」
絵を見るのに距離を取る。決して目を労わってのことではない。
労わるのは精神だ。
それぞれの思いを抱え、満を持してウィルの描いた絵が目の前に…。
「「「…。」」」
「どう?何が感じ取れた?」
バーン、と自信満々に掲げられた絵を確認したオレたち。ニコニコと好評を待ちわびているウィルとは対照的に、オレたち三人は一言も発していなかった。
「…おい、大丈夫かユイ。」
「…はっ。」
「い、意識が戻ってきたみたい…。よかった…。」
「本当に失礼だな。」
「こ、これは、一体…。何が描かれているの…!?」
震える手で指をさすユイ。その表情は引き攣っている。
気持ちは察するぞ。少し前までの能天気な自分を殴ってしまいたい気分だろう。
「何って…風景画だけど?」
「私が見ている世界の太陽に、顔なんてついてません!」
そう、なぜかウィルの奴が描く絵に登場するやつは、無機物だろうが関係なく表情が付与されているのだ。しかもそれがニコニコ笑っているものならばいいが、なぜかバキバキに見開いているものがほとんどだ。
お前にはこの世界どう見えてんだよ…。
「太陽はいつも空の上から俺たちを見守ってます、って気持ちを込めて描いているんだけど。」
「このかっ開いた目じゃ見守るというより監視してんだろ。」
「ち、小さい失敗も、絶対に見逃してくれなさそう…。」
「しかも何!?この迫りくる無数の手は!誰か連れ去ろうとでもしてるの、この太陽とやらは!」
「ち、違うよ!これは降り注ぐ日の光を、温かく差し伸べられる手として表現してるだけで…。」
「どう見ても砂糖菓子で子供を誘拐しようとしている不審者の手。」
「な、なんて恐ろしい…!」
「もうレイ、アレックス!お前たち黙っててくれよ!!」
「しかもこの周りの木!全部こっちを見て狂気じみた笑みを浮かべてるんだけど!?」
「えぇ!?これは木々のざわめきが歓声となって俺たちをいつでも歓迎してくれている、って表現なんだけど。」
「どう見ても『生贄が来たぞ』って歓喜しているようにしか見えない。」
「き、気がついたらこいつらに取り囲まれてて、逃げられなさそう…。」
「だから!変こと言うなって!!」
想像していた反応が返ってこないことに、さすがのウィルも焦っているようだ。いや、ユイに本気でドン引きされていることが堪えている、といった方が正しいだろうか。
オレとアレックスには慣れたように返しているが、ユイに対しては必死に説明している。だがなウィル、その必死さが時には狂気的にも見えるもんなんだぜ…。ユイとの物理的な距離を見ろ。
めっちゃ遠い。
「どうして伝わらないかな…。」
「ここにはお前と同じような感性の人間はいないってことだな。…あと少なくとも、『風景画』っていって描いててこんな感じの作品にはならない。」
「そんな…。」
「やぁ四人ともお揃いで!何をしているんです?」
「わぁ!」
まったく相手にされないどころか距離を取られてしまっていることにショックを受け、肩を落としているウィルの背後に、急に人が生えた。
誰がって、王子が。
「うわ出た!」
「カイン王子!」
「声を小さくしてくれますか、目立ちたくないもので。…その反応、人を何だと思っているのでしょうか?」
「いやだって…王子ともあろう人がこんなところにいるなんてよ…。」
「まぁこれにはきちんとした理由があってですね。」
「理由。」
「えぇ。」
王子が言うには。先のハナビが街で大きな話題となってしまい、オレたちが城で説明をする羽目になったんだが…。その時にこの王子がそういった文化があるなら見てみたいと、オヤカタとの橋渡しを持ちかけてきたのだ。もちろんオヤカタに説明したらあの性格だ。快諾してくれて早々に王子との謁見となった。そこへ同席はしなかったのだが、風の噂でオヤカタの技を芸術でと絶賛したとか何とか…。そこから正式に、今後その技術のお披露目を依頼したいといろいろ動き出している、ということなんだそうだ。
「…ということで、突貫とはいえハナビが披露されたこの広場を視察しようというわけです。」
「なるほど、ある意味公務というわけね。…お付きの人は?」
「彼らは忙しいみたいでしたから!」
「置いてきたのか。」
「結局抜け出してるんじゃない!」
城の奴らには同情するぜ。今頃大騒ぎになっているだろう。
「でもこうして、実際にハナビに立ち会った四人に出会えたのは幸運です!いろいろ話を聞きたいですから。」
「オレたちに話せることは、もう十分話したと思うが…。」
「何度聞いても聞き足りません!…ところで、みなさんここで何を?」
「あ、えと…その、やっと涼しくなったから、絵でも描いて、ゆっくりしないかって…。」
「絵。いいですねぇ、芸術です!芸術は心を豊かにしてくれますからね。それぞれ描いていたんですか?ちょっと見せていただけます?」
「え、あ、ちょっと…!」
抵抗する間もなく、王子はオレたちの手に握られていた絵をサッと取り上げてしまった。
これはまずい。
オレたちの気持ちは全く伝わらず、王子はうんうんと頷きながら誰かしらが描いた絵に目を通している。そして、恐れたいたことが…。
「…こ、これは…っ!」
誰かの絵を目にした途端、王子が動きを止める。いや誰の絵なんてわかりきったことだ。
終わった。約一名を除いたオレたちの心が一致した瞬間だった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる