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沈め、お局④
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翌日。普段通りに出勤して、それとなく大久保さんのデスクを確認する。本人の姿はないが、すでにカバンが置いてある。彼女もまた、変わりなく出勤しているようだ。
「…ちょっと、菓子さん。聞いた?」
「あ、おはようございます。…何がですか?」
何が原因で絡まれるか分かったものではないので、さっさと席について準備を、と向かったところに数人のお姉さま職員が寄って来る。ヒソヒソと内緒話をするように話しかけてくるが、その内容に心当たりはない。
いや、もしかしたら、というものはあるが。
「大久保さん、今日すっごく元気ないのよ。もう気味が悪いくらい。」
「たまたま給湯室に行ったらね、もう大久保さんがポットの確認してたの。あ、タイミング間違えたなーと思ったら、ひたすらため息ついちゃって。」
「はぁ…。」
「鈴木さんの話によるとね、結婚した息子さん夫婦と一悶着あったらしいのよー。」
鈴木さんというのは、この職場のお母ちゃん的存在のお方で、皆に信頼される大ベテランなのだ。年齢的には大久保さんとそこまで変わらないだろうが、信頼度に関しては段違い。大久保さん本人も悩みを相談するほどなのである。そんな鈴木さんは、こうした噂話を積極的に流すようなことはしないだろうが、あまりにも大久保さんの様子が普段と違い過ぎるので、説明せざるを得なかったのだろう。
「いわゆる、嫁姑問題とか?姑が大久保さんだって考えたら、怖いわー。」
「どうせお嫁さんにも余計な口出して、絶縁でも切り出されたんじゃない?」
あり得る、と口々にする中、高橋も出勤してくるのが見えた。すかさずお姉さま方が取り囲んで、大久保さんの様子を説明しにかかっている。朝から元気だな。
さりげなく給湯室を確認すると、ちょうど大久保さんが出てくるところだった。確かに、お姉さま方が言うように、普段の様子からは考えられないほど覇気のない顔をしている。大久保さんは高橋の姿を捕えると、まっすぐに向かってきた。足取りは非常に遅い。しかしそれが異常に恐怖心を煽るので、お姉さま方は蜘蛛の子を散らすようにデスクへと戻っていく。あ、そろそろ始業時間ー、あたし朝一で提出の書類があるんだったーと小芝居を打つことも忘れない。
「…高橋さん。」
「あ、大久保さん、おはようございます。…何かありました?」
お姉さま方から詳しい話を聞くまでには至らなかったのか、様子がおかしい大久保さんに素直にお伺いを立てる高橋。いいぞ高橋。
「いえ、その…。高橋さん、新婚、だったわよね。旦那さんのご実家には、行ったことある?」
「はい、ありますよ。挨拶にも伺いましたし、お茶しに行ったりもします。」
「お茶…!?え、ど、どうして…?」
「どうしてって…彼のご両親、とってもいい人たちなんです!結婚前から良くしてくれて、もっと仲良くなりたいんです。」
「な、な、仲良く…!?」
大久保さんからの質問にニコニコと答える高橋とは正反対に、質問をしている側の大久保さんは目を白黒させている。これはお姉さま方の推測がドンピシャだったか…?いいぞ高橋、もっといけ。
「あ、そういえば、お義母さん大久保さんと同じくらいの年齢かも。もう少しで誕生日なんです!何をプレゼントしたらいいのか悩んでて…。どういう物が欲しいのか、意見もらっていいですか?」
「うぐっ!」
「あ、でも物だとちょっと場所を取っちゃいますよね。やっぱり食べ物のほうがいいのかなぁ、アレルギーはないって言ってたし、無難にお菓子とか?果物が好きって言ってたし。」
「好みの把握…ですって…?」
「はい、レーズンとかドライフルーツ系はあまり得意じゃないって言ってたから、それ以外かなーって。」
「はぁぁあぁ…!」
何やら大久保さんがダメージを受けている。普段であれば、頼られることはやぶさかではないタイプ。そんな大久保さんが頭を抱えている。これはいったいどういうことだろうか。いいぞ高橋、ドンドンいけ。
「お、大久保さん、本当に大丈夫ですか…?具合でも悪いんじゃ…。」
「はー、今日もセーフ!おはよう!」
さすがに尋常ではない様子に気づいたらしい、高橋が心配すると同時に駆け込み出勤の常連、安田が登場。相変わらず朝からうるさい。
「あれ、二人ともどうしたの、席にも行かないで。」
「あ…すみません…。」
「何々、大久保さん。体調悪いなら早退して大丈夫だけど。」
「いえ、体調は…。安田さん、ご自分の実家と奥様、仲良くされてますか…?」
「え、急に何。…まぁ仲良くはないかな。結婚する時結構親が余計なこと言っててさ。定期的に顔出すのがどうこう、子供がどうこうとかさ。いい大人なんだからほっといてくれって感じで。俺も奥さんもできれば近寄りたくない。半絶縁みたいな感じかなぁ。」
「あぁぁぁあぁあ…!」
何も知らない安田の悪意なき言葉が大久保さんを襲う。ついに大久保さんは膝から崩れ落ちた。訳が分からないながらも駆け寄る高橋。首をかしげる安田。
いいぞ高橋、もうやめてやれ安田。
「…ちょっと、菓子さん。聞いた?」
「あ、おはようございます。…何がですか?」
何が原因で絡まれるか分かったものではないので、さっさと席について準備を、と向かったところに数人のお姉さま職員が寄って来る。ヒソヒソと内緒話をするように話しかけてくるが、その内容に心当たりはない。
いや、もしかしたら、というものはあるが。
「大久保さん、今日すっごく元気ないのよ。もう気味が悪いくらい。」
「たまたま給湯室に行ったらね、もう大久保さんがポットの確認してたの。あ、タイミング間違えたなーと思ったら、ひたすらため息ついちゃって。」
「はぁ…。」
「鈴木さんの話によるとね、結婚した息子さん夫婦と一悶着あったらしいのよー。」
鈴木さんというのは、この職場のお母ちゃん的存在のお方で、皆に信頼される大ベテランなのだ。年齢的には大久保さんとそこまで変わらないだろうが、信頼度に関しては段違い。大久保さん本人も悩みを相談するほどなのである。そんな鈴木さんは、こうした噂話を積極的に流すようなことはしないだろうが、あまりにも大久保さんの様子が普段と違い過ぎるので、説明せざるを得なかったのだろう。
「いわゆる、嫁姑問題とか?姑が大久保さんだって考えたら、怖いわー。」
「どうせお嫁さんにも余計な口出して、絶縁でも切り出されたんじゃない?」
あり得る、と口々にする中、高橋も出勤してくるのが見えた。すかさずお姉さま方が取り囲んで、大久保さんの様子を説明しにかかっている。朝から元気だな。
さりげなく給湯室を確認すると、ちょうど大久保さんが出てくるところだった。確かに、お姉さま方が言うように、普段の様子からは考えられないほど覇気のない顔をしている。大久保さんは高橋の姿を捕えると、まっすぐに向かってきた。足取りは非常に遅い。しかしそれが異常に恐怖心を煽るので、お姉さま方は蜘蛛の子を散らすようにデスクへと戻っていく。あ、そろそろ始業時間ー、あたし朝一で提出の書類があるんだったーと小芝居を打つことも忘れない。
「…高橋さん。」
「あ、大久保さん、おはようございます。…何かありました?」
お姉さま方から詳しい話を聞くまでには至らなかったのか、様子がおかしい大久保さんに素直にお伺いを立てる高橋。いいぞ高橋。
「いえ、その…。高橋さん、新婚、だったわよね。旦那さんのご実家には、行ったことある?」
「はい、ありますよ。挨拶にも伺いましたし、お茶しに行ったりもします。」
「お茶…!?え、ど、どうして…?」
「どうしてって…彼のご両親、とってもいい人たちなんです!結婚前から良くしてくれて、もっと仲良くなりたいんです。」
「な、な、仲良く…!?」
大久保さんからの質問にニコニコと答える高橋とは正反対に、質問をしている側の大久保さんは目を白黒させている。これはお姉さま方の推測がドンピシャだったか…?いいぞ高橋、もっといけ。
「あ、そういえば、お義母さん大久保さんと同じくらいの年齢かも。もう少しで誕生日なんです!何をプレゼントしたらいいのか悩んでて…。どういう物が欲しいのか、意見もらっていいですか?」
「うぐっ!」
「あ、でも物だとちょっと場所を取っちゃいますよね。やっぱり食べ物のほうがいいのかなぁ、アレルギーはないって言ってたし、無難にお菓子とか?果物が好きって言ってたし。」
「好みの把握…ですって…?」
「はい、レーズンとかドライフルーツ系はあまり得意じゃないって言ってたから、それ以外かなーって。」
「はぁぁあぁ…!」
何やら大久保さんがダメージを受けている。普段であれば、頼られることはやぶさかではないタイプ。そんな大久保さんが頭を抱えている。これはいったいどういうことだろうか。いいぞ高橋、ドンドンいけ。
「お、大久保さん、本当に大丈夫ですか…?具合でも悪いんじゃ…。」
「はー、今日もセーフ!おはよう!」
さすがに尋常ではない様子に気づいたらしい、高橋が心配すると同時に駆け込み出勤の常連、安田が登場。相変わらず朝からうるさい。
「あれ、二人ともどうしたの、席にも行かないで。」
「あ…すみません…。」
「何々、大久保さん。体調悪いなら早退して大丈夫だけど。」
「いえ、体調は…。安田さん、ご自分の実家と奥様、仲良くされてますか…?」
「え、急に何。…まぁ仲良くはないかな。結婚する時結構親が余計なこと言っててさ。定期的に顔出すのがどうこう、子供がどうこうとかさ。いい大人なんだからほっといてくれって感じで。俺も奥さんもできれば近寄りたくない。半絶縁みたいな感じかなぁ。」
「あぁぁぁあぁあ…!」
何も知らない安田の悪意なき言葉が大久保さんを襲う。ついに大久保さんは膝から崩れ落ちた。訳が分からないながらも駆け寄る高橋。首をかしげる安田。
いいぞ高橋、もうやめてやれ安田。
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