脳内殺人

ふくまめ

文字の大きさ
9 / 22

沈め、お局③

しおりを挟む
「私たちの誰が、大久保さんに環境整備のお仕事をお願いしたんです。環境を整えるために、全員が厳しく指導してほしいと、いつ依頼したんです?…全部あなたが勝手にやったことですよ。」
「…。」
「あなたが勝手にやって、勝手にみんなが協力してくれないと怒って、雰囲気を悪くしていることに気がつきませんか?ポットのお湯が無かったら、その時に水を淹れますよ。沸くまで少し待ったらいい、それだけです。お客様を待たせるかもしれない?それが起きる可能性がどれだけありますか。備えあれば憂いなしとは言いますが、それは個人で名指ししてまですることですか?」
「…。」
「あなたがやっていることで、誰が心地よく過ごせるんです?…あなたですよね。あなたが、誰かに指示を出して、その指示通りに動いていることで満足しているんじゃないんです?」

大久保さんは瞬き一つしない。私がそうするよう想像しているからだ。現実ではありえない、大久保さんが黙って此方の話を聞いているという状況。言いたいことが溜まりに溜まっている私の口は、なかなか強い口調で大久保さんに向けられる。本物に届かないというのに。

「…。」
「誰も求めていませんよ、そんなこと。あなた一人がやっている分にはどうぞご勝手に。でもあなたがやりたいことを、私たちに強制しないでくださいよ。勝手に期待して怒られるのは、はっきり言って迷惑です。…あぁ、でももし私たちのことを思ってくれているんだとしたら、一つお願いしたいことがあります。」

お願い。そう言った瞬間、大久保さんが立っている場所に巨大なポットが出現する。私の身長よりも大きなポット。ここから中身を見ることはできないが、中には大久保さんが入っている。私がそう想像したから。
フタは空いたままだが、大久保さんの声が聞こえてくることはない。そうこうしている間に、今度は室内であるにもかかわらず雨が降って来る。天井はある。見上げてみても雲はない。それでも雨はかなり局所的で、ポットの大きさと同じ範囲にだけ降っている。そして、雨水は順調にポットの中へと溜まっていく。

「そんなにポットのお湯が気になるなら、どうぞ管理を専門に行ってください。」

バシャバシャと水が跳ねる音がする。もはや雨の勢いは、滝のようになっていた。
水量を示すメーターが満水を示した時、唐突に雨が止む。次に出現させたのは脚立。それをポットの横に配置する。

「…アンタ、それで何するの?」
「中を確認するの。」

脚立が安定していることを確認し、一歩一歩慎重に段を上がってポットの中身を確認する。覗いてみても、そこに大久保さんの姿は見当たらない。
自分が想像した状況とはいえ、それを確認してゆっくりと降りていく。

「これで、よしっと。」
「よしじゃないわよ。どうなってんのよ、あのお局様どうしちゃったの?」
「あまりにポットに執着するから、本人がお湯になってくれたらいいと思って。」
「…アンタ、夢の世界に慣れ過ぎて結構過激になってきてない?」
「そう?まぁでも、現実に何の影響も出ないんでしょ?」
「それもそうね。」

最後の仕上げにポットのフタを閉める。
やれやれ、これで次の人は安心だというわけ、ですよね?
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

婚約者の私を見捨てたあなた、もう二度と関わらないので安心して下さい

神崎 ルナ
恋愛
第三王女ロクサーヌには婚約者がいた。騎士団でも有望株のナイシス・ガラット侯爵令息。その美貌もあって人気がある彼との婚約が決められたのは幼いとき。彼には他に優先する幼なじみがいたが、政略結婚だからある程度は仕方ない、と思っていた。だが、王宮が魔導師に襲われ、魔術により天井の一部がロクサーヌへ落ちてきたとき、彼が真っ先に助けに行ったのは幼馴染だという女性だった。その後もロクサーヌのことは見えていないのか、完全にスルーして彼女を抱きかかえて去って行くナイシス。  嘘でしょう。  その後ロクサーヌは一月、目が覚めなかった。  そして目覚めたとき、おとなしやかと言われていたロクサーヌの姿はどこにもなかった。 「ガラット侯爵令息とは婚約破棄? 当然でしょう。それとね私、力が欲しいの」  もう誰かが護ってくれるなんて思わない。  ロクサーヌは力をつけてひとりで生きていこうと誓った。  だがそこへクスコ辺境伯がロクサーヌへ求婚する。 「ぜひ辺境へ来て欲しい」  ※時代考証がゆるゆるですm(__)m ご注意くださいm(__)m  総合・恋愛ランキング1位(2025.8.4)hotランキング1位(2025.8.5)になりましたΣ(・ω・ノ)ノ  ありがとうございます<(_ _)>

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【本編,番外編完結】私、殺されちゃったの? 婚約者に懸想した王女に殺された侯爵令嬢は巻き戻った世界で殺されないように策を練る

金峯蓮華
恋愛
侯爵令嬢のベルティーユは婚約者に懸想した王女に嫌がらせをされたあげく殺された。 ちょっと待ってよ。なんで私が殺されなきゃならないの? お父様、ジェフリー様、私は死にたくないから婚約を解消してって言ったよね。 ジェフリー様、必ず守るから少し待ってほしいって言ったよね。 少し待っている間に殺されちゃったじゃないの。 どうしてくれるのよ。 ちょっと神様! やり直させなさいよ! 何で私が殺されなきゃならないのよ! 腹立つわ〜。 舞台は独自の世界です。 ご都合主義です。 緩いお話なので気楽にお読みいただけると嬉しいです。

🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。

設楽理沙
ライト文芸
 ☘ 累計ポイント/ 190万pt 超えました。ありがとうございます。 ―― 備忘録 ――    第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。  最高 57,392 pt      〃     24h/pt-1位ではじまり2位で終了。  最高 89,034 pt                    ◇ ◇ ◇ ◇ 紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる 素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。 隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が 始まる。 苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・ 消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように 大きな声で泣いた。 泣きながらも、よろけながらも、気がつけば 大地をしっかりと踏みしめていた。 そう、立ち止まってなんていられない。 ☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★ 2025.4.19☑~

処理中です...