脳内殺人

ふくまめ

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飛び散れ、お花畑②

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「…ここまでになると、もはや壮観ね。」

すっかり高橋夫妻の姿は花に埋もれ、声も聞こえないほどになってしまっていた。周りも花が咲き誇り、オフィス一杯に花の匂いが充満している。
花が満開になったことを確認すると、ペルは様変わりしたオフィス内をトコトコと見て回っている。高橋夫妻を中心に、職員のデスク周りにも花が咲いている。たくさんの種類があって、一つ一つ匂いを嗅いでいるのかフスフスと鼻先が音をたてている。あまり花に詳しくないので、想像上の花も多くあるだろう。匂いも然り。とりあえず、『花の匂いだな』って感じでしか再現できていないと思う。

「…あら、ここは?」
「…。」

オフィスの隅々まで見て回っていたペルが、不思議そうに首をかしげている。
私はその理由をすぐに察した。

「このデスク周りだけ、花が咲いてないわね。」
「…。」
「妙に物も置いてなくて、生活感がないっていうか。」

ペルがぶつぶつ言いながらデスクをのぞき込む。その瞬間、花がぱっと弾けるように散っていく。一つ、二つと連鎖するようにあちこちで、次々に花びらが舞う。

「わぁ…!結構綺麗ね…。」
「…そうだね。」

生活感のないデスク。変化を拒むように花も咲かない。
ペルは、その理由を知っているはずだ。
なのにそれを初めて見たと言わんばかりの反応に、少し腹が立つ。
そんなペルも、花が次々に散っていく様子に夢中になっている。まるで普通の猫のように、散っていく花びらをあちらこちらと追いかけている。
最後に残った、大きな花の塊。まるで花束のようにも見えるそれは、かつての高橋夫妻の姿だ。
それがシャボン玉が割れるように弾けて、消えた。



カタカタカタ…

「…。」

カタカタ…タン

「…。」

タタン…カタカタ…

「…高橋、今日どうしたの。もう定時過ぎているけど…。」
「…はい、大丈夫です。」
「そう、は見えないけど…。」

ここ最近、いやそれ以前から残業なんてめったにしない高橋が、すでに定時を過ぎたこの時間になっても帰り支度を始めもしない。
一体何事か。

「…あ、小野さん、その書類ファイリングですか、やりますよ。」
「え、いいの?」
「はい。…門田さんそのデータ打ち込みください、やりますので。」
「これ?これ別に急ぎじゃないけど…。」

しかも次から次へと仕事を引き受けている。こんな高橋は見たことがない。緊急性のないものにまで手を出すその姿はもはや恐怖すら感じる。先ほどコピー用紙の補充をしている姿を見て満足げに頷いていた大久保さんも、今では引いてしまっている。

「…高橋、今日何かある?」
「え、えっと…ファイリングとデータ打ち込みと…あ、物品の発注。それから…。」
「それもういいから。」
「え、いやいや…。そんな訳には。」
「いいから。全部急ぎじゃないんだし。そもそも高橋の仕事じゃないじゃない、どうしたの。」
「…。」
「この後、ちょっとご飯でも…行こうか。」
「…はい。」

らしくないことをしている高橋を見て、私もついらしくなくご飯に誘ってみるのだった。高橋自身も思うところがあるのか、静かにバッグを手に取った。



「…それで、進んで残業するなんて珍しいじゃない。本当はダメなんだよ、残業って。」

知ってる?と適当に話しかけながら注文パネルを操作する。外食慣れしていない私が選ぶことができたのは結局ファミレス。高校生かよ、って感じの店選びだったが、覇気のない高橋は何のコメントもなく着いてきた。
これ大丈夫か…?

「…もう、嫌になってきて。」
「えぇ?」
「定時に帰って、彼と一緒に過ごして。幸せだったはずなんですけど…。最近母が来たんです。その時に私たちの生活を聞いて、『周りの人たちを巻き込んで何やってるの』って怒られちゃって。冷静に考えてみたら、なんか恥ずかしくなってきて。社会人になってこんなにはしゃいで、何してんだろうって…。」

ようやく気づいたか。

「だから平日に出かけるとか、そういうのはやめようと思います。これからは週末デートだけで、我慢します!あ、今度有給使ってちょっとした旅行を計画してるんです!どこがいいと思います?」

知らんがな。こいつのメンタルの波どうなってんだ。
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