脳内殺人

ふくまめ

文字の大きさ
15 / 22

陰れ、太陽③

しおりを挟む
「えーっと…と、いうことで、そのー。」
「何ですか安田さん、はっきり言ってくださいよ!」
「急かさないでくださいよ、大久保さん。こっちも初の試みなんだから…。」

数日後、またもやご息女が体調不良とかで中村は早上がり。今回は奥さんの実家からお母様が来られているとかで、病院の受診さえ終われば再度出勤するとのことだったが、それもよく分からない。
小さな子供の受診って、どう考えても大人が病院に行くよりも大変だろうし。
そんな時、安田がオフィス全体に呼び掛けたのだった。

「んん、えっと、皆も知っての通り、先日中村が育休から復帰しています。いったん職場から離れているし、家庭では育児もあって大変だろうから、少しずつ以前の感じに戻せたらってところだったんだけど…。子供さんが体調崩しがちで、その対応のために休みがちだったり早上がりが増えたり、正直当初の予定通りとはいってない状況です。」

珍しく真剣な表情で話す安田。内容についてもみんな思うところがあるのか、全員が静かに耳を傾けている。

「そこで、中村の方から勤務の仕方について相談がありました。時短勤務ができないか、と。残念ながら、我が社には前例がなく、上の方に相談するのも、少しハードルが…ねぇ?」
「ねぇ?って安田さん…。そんなだから奥さんに…。」
「今回はそんなこと言っている場合じゃないのよ、大久保さん。これは我が社の今後を左右する問題にもなりかねないの。」
「…。」
「今回の中村の要望を叶えてやりたいのは、そう。でもこれを前例として、今後続く人が出てくるとすれば、慎重にならざるを得ない。だって、今は何とか対応できたとしても、これからもずっとやり続けられるか分からない勤務体制って、どう思う?『数年前は時短勤務が認められてたのに、今はそれができない』って言われて、納得できないでしょ?それこそ、労働者側の権利がどうなっているのかって、平等じゃないじゃないかって話になる。…お偉いさんは、それが心配なんだよ。」
「…でも、今時代それが普通になっていきますよ!それがこの会社の売りに…。」
「そうかもしれない。でもそれを保証できる?何より、今こうして中村が休んで誰がその分の仕事をカバーするの?高橋さん、フォローに入れる?」
「それは…全部は無理ですけど…。」
「他の人はどう?中村が希望する通りに、現実的に、叶えてやれそう?」
「…。」

現実的ではない。
ここにいる全員がそう思っているだろう。確かに中村の言っていることは分かる。今後社会全体がそうなるべきだ。誰もがそう望むに違いない。
しかしそれは『制度を使う側』の感覚だ。その制度を『支える側』からしてみれば、また違った言い分になるのは仕方のないことだろう。

「…会社としても、中村の言い分は分かる。これからの社会を考えたら、それがいいってことも。だけどそれを実行できるだけの力が、今ないんだよ。無理に実行すれば、皆に負担を強いることになる。具体的な相談はこれからになるけど、中村の要望を全面的に受け入れることは、かなり難しい。」

だから、きっと揉めるだろう。
そう言った安田の言った通り、会社としての見解を伝えられたであろう中村は、これまでの明るさが嘘のように、荒れた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

公爵令嬢は結婚式当日に死んだ

白雲八鈴
恋愛
 今日はとある公爵令嬢の結婚式だ。幸せいっぱいの公爵令嬢の前に婚約者のレイモンドが現れる。 「今日の結婚式は俺と番であるナタリーの結婚式に変更だ!そのドレスをナタリーに渡せ!」  突然のことに公爵令嬢は何を言われたのか理解できなかった。いや、したくなかった。 婚約者のレイモンドは番という運命に出逢ってしまったという。  そして、真っ白な花嫁衣装を脱がされ、そのドレスは番だという女性に着させられる。周りの者達はめでたいと大喜びだ。  その場所に居ることが出来ず公爵令嬢は外に飛び出し……  生まれ変わった令嬢は復讐を誓ったのだった。  婚約者とその番という女性に 『一発ぐらい思いっきり殴ってもいいですわね?』 そして、つがいという者に囚われた者の存在が現れる。 *タグ注意 *不快であれば閉じてください。

近すぎて見えない物

あんど もあ
ファンタジー
エルリック王子と一夜を共にした男爵令嬢。エルリックの婚約者シルビアが、優しく彼女に言った一言とは。

サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします

二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位! ※この物語はフィクションです 流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。 当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。

処理中です...