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陰れ、太陽③
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「えーっと…と、いうことで、そのー。」
「何ですか安田さん、はっきり言ってくださいよ!」
「急かさないでくださいよ、大久保さん。こっちも初の試みなんだから…。」
数日後、またもやご息女が体調不良とかで中村は早上がり。今回は奥さんの実家からお母様が来られているとかで、病院の受診さえ終われば再度出勤するとのことだったが、それもよく分からない。
小さな子供の受診って、どう考えても大人が病院に行くよりも大変だろうし。
そんな時、安田がオフィス全体に呼び掛けたのだった。
「んん、えっと、皆も知っての通り、先日中村が育休から復帰しています。いったん職場から離れているし、家庭では育児もあって大変だろうから、少しずつ以前の感じに戻せたらってところだったんだけど…。子供さんが体調崩しがちで、その対応のために休みがちだったり早上がりが増えたり、正直当初の予定通りとはいってない状況です。」
珍しく真剣な表情で話す安田。内容についてもみんな思うところがあるのか、全員が静かに耳を傾けている。
「そこで、中村の方から勤務の仕方について相談がありました。時短勤務ができないか、と。残念ながら、我が社には前例がなく、上の方に相談するのも、少しハードルが…ねぇ?」
「ねぇ?って安田さん…。そんなだから奥さんに…。」
「今回はそんなこと言っている場合じゃないのよ、大久保さん。これは我が社の今後を左右する問題にもなりかねないの。」
「…。」
「今回の中村の要望を叶えてやりたいのは、そう。でもこれを前例として、今後続く人が出てくるとすれば、慎重にならざるを得ない。だって、今は何とか対応できたとしても、これからもずっとやり続けられるか分からない勤務体制って、どう思う?『数年前は時短勤務が認められてたのに、今はそれができない』って言われて、納得できないでしょ?それこそ、労働者側の権利がどうなっているのかって、平等じゃないじゃないかって話になる。…お偉いさんは、それが心配なんだよ。」
「…でも、今時代それが普通になっていきますよ!それがこの会社の売りに…。」
「そうかもしれない。でもそれを保証できる?何より、今こうして中村が休んで誰がその分の仕事をカバーするの?高橋さん、フォローに入れる?」
「それは…全部は無理ですけど…。」
「他の人はどう?中村が希望する通りに、現実的に、叶えてやれそう?」
「…。」
現実的ではない。
ここにいる全員がそう思っているだろう。確かに中村の言っていることは分かる。今後社会全体がそうなるべきだ。誰もがそう望むに違いない。
しかしそれは『制度を使う側』の感覚だ。その制度を『支える側』からしてみれば、また違った言い分になるのは仕方のないことだろう。
「…会社としても、中村の言い分は分かる。これからの社会を考えたら、それがいいってことも。だけどそれを実行できるだけの力が、今ないんだよ。無理に実行すれば、皆に負担を強いることになる。具体的な相談はこれからになるけど、中村の要望を全面的に受け入れることは、かなり難しい。」
だから、きっと揉めるだろう。
そう言った安田の言った通り、会社としての見解を伝えられたであろう中村は、これまでの明るさが嘘のように、荒れた。
「何ですか安田さん、はっきり言ってくださいよ!」
「急かさないでくださいよ、大久保さん。こっちも初の試みなんだから…。」
数日後、またもやご息女が体調不良とかで中村は早上がり。今回は奥さんの実家からお母様が来られているとかで、病院の受診さえ終われば再度出勤するとのことだったが、それもよく分からない。
小さな子供の受診って、どう考えても大人が病院に行くよりも大変だろうし。
そんな時、安田がオフィス全体に呼び掛けたのだった。
「んん、えっと、皆も知っての通り、先日中村が育休から復帰しています。いったん職場から離れているし、家庭では育児もあって大変だろうから、少しずつ以前の感じに戻せたらってところだったんだけど…。子供さんが体調崩しがちで、その対応のために休みがちだったり早上がりが増えたり、正直当初の予定通りとはいってない状況です。」
珍しく真剣な表情で話す安田。内容についてもみんな思うところがあるのか、全員が静かに耳を傾けている。
「そこで、中村の方から勤務の仕方について相談がありました。時短勤務ができないか、と。残念ながら、我が社には前例がなく、上の方に相談するのも、少しハードルが…ねぇ?」
「ねぇ?って安田さん…。そんなだから奥さんに…。」
「今回はそんなこと言っている場合じゃないのよ、大久保さん。これは我が社の今後を左右する問題にもなりかねないの。」
「…。」
「今回の中村の要望を叶えてやりたいのは、そう。でもこれを前例として、今後続く人が出てくるとすれば、慎重にならざるを得ない。だって、今は何とか対応できたとしても、これからもずっとやり続けられるか分からない勤務体制って、どう思う?『数年前は時短勤務が認められてたのに、今はそれができない』って言われて、納得できないでしょ?それこそ、労働者側の権利がどうなっているのかって、平等じゃないじゃないかって話になる。…お偉いさんは、それが心配なんだよ。」
「…でも、今時代それが普通になっていきますよ!それがこの会社の売りに…。」
「そうかもしれない。でもそれを保証できる?何より、今こうして中村が休んで誰がその分の仕事をカバーするの?高橋さん、フォローに入れる?」
「それは…全部は無理ですけど…。」
「他の人はどう?中村が希望する通りに、現実的に、叶えてやれそう?」
「…。」
現実的ではない。
ここにいる全員がそう思っているだろう。確かに中村の言っていることは分かる。今後社会全体がそうなるべきだ。誰もがそう望むに違いない。
しかしそれは『制度を使う側』の感覚だ。その制度を『支える側』からしてみれば、また違った言い分になるのは仕方のないことだろう。
「…会社としても、中村の言い分は分かる。これからの社会を考えたら、それがいいってことも。だけどそれを実行できるだけの力が、今ないんだよ。無理に実行すれば、皆に負担を強いることになる。具体的な相談はこれからになるけど、中村の要望を全面的に受け入れることは、かなり難しい。」
だから、きっと揉めるだろう。
そう言った安田の言った通り、会社としての見解を伝えられたであろう中村は、これまでの明るさが嘘のように、荒れた。
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