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最終章
第45話 俺はきっと、この日の為に
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紗良は地面に横たえる御堂を抱き起こし、まだ温かい身体を大切そうに胸に擁する。
散らばった魂の欠片を集めた二匹の白狐が戻ってくると、尾崎は手をかざしてそれを一つの光にまとめた。そこに紗良の黒い髪の束を投じると、淡い光がだんだん強まり、青白く輝きだす。
「俺はきっと、この日の為に天狐になったんだな……」
尾崎は噛み締めるように呟くと、その光を拳ほどの大きさに凝縮した。バチバチと時折小さな稲妻が走り、暗い境内を照らす。片膝を付いた尾崎が、紗良に向かってその光を差し出した。
「この光が魂の代わりだとすれば、俺が出来ることはここまでだ。想い合ったキミにしか、禅の身体に魂を戻せない。ただ、この光は人間には強すぎる。キミも無事で済むかどうか……」
「どんな痛みだって耐えます。その光を禅に戻せば良いんですね?」
「ああ。心臓の位置に」
迷わず即答した紗良に、尾崎は躊躇いながらも光を移す。
瞬間、受け取った紗良の手のひらに、何千もの針が突き刺さるような衝撃が走った。気を失うかと思うほどの痛みに叫び声を上げそうになったが、目の前に横たわる御堂の顔を見れば、自分の成すべきことを成さねばと正気を保つことが出来る。
痛みに耐えながら光を御堂の心臓の位置に押し込めたが、反発するように戻されてしまい、紗良は両手で体重を掛けながら弾かれないように押さえつけた。
熱せられた鉄塊を当てられたような、身を焼かれる感覚に襲われ顔を歪める。左腕からは蒸気のような白い煙が立ち上っていた。
あまりの苦痛に、歯を食いしばる紗良の口からうめき声が漏れる。
少しずつ強い光は御堂の中に染み込み、発光したまま体の隅々まで行き渡っていく。光の全てを御堂に埋め込むと、痛みから解放された紗良はのけ反るように仰向けに倒れ、尾崎の胸に受け止められた。
「よく耐えたね、紗良。でも……酷い痣だ」
制服の半そでシャツから伸びる紗良の腕を見て、尾崎は苦し気な表情を浮かべた。
左腕の肘より上の部分に、まるで焼き印でも押し当てられたような赤い痣が浮かび上がっている。恐らく一生消えることはないであろうその痣は、ワイシャツの上からでも薄っすらと確認でき、鎖骨の辺りまで届いていた。それは尾をなびかせて駆ける、狐の姿のようにも見える。
「痣は痛む?」
「命を捧げる代わりだもの、痛みも覚悟の上です。それより、禅は?」
「キミは、ほんっとに……頼もしいけど危なっかしいな」
言いながら尾崎が視線を御堂に戻す。
「恐らく、理屈としては今の手順で体は生まれ変わったはずなんだ。後は、禅の魂が上手く戻って来れば……」
紗良は御堂の青白い顔を覗き込んだが、息を吹き返す気配がまるでない。御堂を抱き起し、震える指で頬を叩く。一向に精気が戻らず、先程まで確かに感じた温もりが失われつつあった。
恐ろしさに耐え切れず、上ずった声で懸命に呼びかける。
「禅、ねえ戻ってきて。私の側で生きてよ。大人になったらお嫁さんにしてくれる? きっと可愛い奥さんになるよ。家事もちゃんと覚えるから。真っ白い花嫁衣裳、見たくない? お願い、目を開けて。禅!」
御堂を揺さぶりながら、大きな声で名前を呼んだ。御堂の身体の中から放たれていた光が消え、辺りが一瞬で暗くなる。紗良の震える吐息が聞こえるほど、境内はシンと静まり返った。
散らばった魂の欠片を集めた二匹の白狐が戻ってくると、尾崎は手をかざしてそれを一つの光にまとめた。そこに紗良の黒い髪の束を投じると、淡い光がだんだん強まり、青白く輝きだす。
「俺はきっと、この日の為に天狐になったんだな……」
尾崎は噛み締めるように呟くと、その光を拳ほどの大きさに凝縮した。バチバチと時折小さな稲妻が走り、暗い境内を照らす。片膝を付いた尾崎が、紗良に向かってその光を差し出した。
「この光が魂の代わりだとすれば、俺が出来ることはここまでだ。想い合ったキミにしか、禅の身体に魂を戻せない。ただ、この光は人間には強すぎる。キミも無事で済むかどうか……」
「どんな痛みだって耐えます。その光を禅に戻せば良いんですね?」
「ああ。心臓の位置に」
迷わず即答した紗良に、尾崎は躊躇いながらも光を移す。
瞬間、受け取った紗良の手のひらに、何千もの針が突き刺さるような衝撃が走った。気を失うかと思うほどの痛みに叫び声を上げそうになったが、目の前に横たわる御堂の顔を見れば、自分の成すべきことを成さねばと正気を保つことが出来る。
痛みに耐えながら光を御堂の心臓の位置に押し込めたが、反発するように戻されてしまい、紗良は両手で体重を掛けながら弾かれないように押さえつけた。
熱せられた鉄塊を当てられたような、身を焼かれる感覚に襲われ顔を歪める。左腕からは蒸気のような白い煙が立ち上っていた。
あまりの苦痛に、歯を食いしばる紗良の口からうめき声が漏れる。
少しずつ強い光は御堂の中に染み込み、発光したまま体の隅々まで行き渡っていく。光の全てを御堂に埋め込むと、痛みから解放された紗良はのけ反るように仰向けに倒れ、尾崎の胸に受け止められた。
「よく耐えたね、紗良。でも……酷い痣だ」
制服の半そでシャツから伸びる紗良の腕を見て、尾崎は苦し気な表情を浮かべた。
左腕の肘より上の部分に、まるで焼き印でも押し当てられたような赤い痣が浮かび上がっている。恐らく一生消えることはないであろうその痣は、ワイシャツの上からでも薄っすらと確認でき、鎖骨の辺りまで届いていた。それは尾をなびかせて駆ける、狐の姿のようにも見える。
「痣は痛む?」
「命を捧げる代わりだもの、痛みも覚悟の上です。それより、禅は?」
「キミは、ほんっとに……頼もしいけど危なっかしいな」
言いながら尾崎が視線を御堂に戻す。
「恐らく、理屈としては今の手順で体は生まれ変わったはずなんだ。後は、禅の魂が上手く戻って来れば……」
紗良は御堂の青白い顔を覗き込んだが、息を吹き返す気配がまるでない。御堂を抱き起し、震える指で頬を叩く。一向に精気が戻らず、先程まで確かに感じた温もりが失われつつあった。
恐ろしさに耐え切れず、上ずった声で懸命に呼びかける。
「禅、ねえ戻ってきて。私の側で生きてよ。大人になったらお嫁さんにしてくれる? きっと可愛い奥さんになるよ。家事もちゃんと覚えるから。真っ白い花嫁衣裳、見たくない? お願い、目を開けて。禅!」
御堂を揺さぶりながら、大きな声で名前を呼んだ。御堂の身体の中から放たれていた光が消え、辺りが一瞬で暗くなる。紗良の震える吐息が聞こえるほど、境内はシンと静まり返った。
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