されど服飾師の夢を見る

雪華

文字の大きさ
7 / 46

【3話】 unexciting

しおりを挟む
 高架下で青春の一ページのような喧嘩をしてから約一カ月。啓介は相も変わらず平凡で退屈な毎日を送っていた。

 正確には一度、くぬぎ高校の生徒にいつもの河川敷で待ち伏せされ、否応なしに大乱闘に巻き込まれたのだが、特に面白くもなかったのでそれはノーカンだ。

「いや、直人のおとーさんはちょっと面白かったかな」

 教室の窓側の一番後ろという特等席で、啓介はこっそり思い出し笑いをする。

 前回、三人では啓介に全く歯が立たなかった椚高の生徒らが、今度は節操なく頭数を増やし、高架下で待ち構えていた。直人が一緒の時で良かったと思いつつ、啓介はシャツを汚さないようにしなきゃと呑気に考える。
 いつも通り一人ずつ沈めていけばいいと殴り合いを始めたのだが、流石に数が多くてされた。一撃で仕留められず、手数が増えて体力を消耗させられる。

 ニヤニヤしながら奴らが「さっさと剥いて、ヤッちまおうぜ」と言っているのを聞き、その意味を理解した瞬間、血の気が引いた。ただ単純に殴り倒されて終わりということではなく、袋叩きにあった後、さらに地獄が待っているらしい。
 途中から啓介は、シャツの汚れを気にする余裕を失った。

 息を切らして四方から伸びる腕をかわしながら、あまり力の入らなくなった拳を何とか振り下ろす。
 しぶとく反撃を続ける啓介と地面に転がる仲間たちを見て、苛立ったようにリーダーと思しき男が「クソッ」と叫んだ。早々に決着を付けようとしたのかもしれない。河原から木材のようなものを拾いあげる姿が目の端に映り、啓介は流石に戦慄した。
 その棒切れを持ったまま直人に近づく様子を目の当たりにして、啓介は顔面を殴打されるのも構わず「避けろ!」と叫ぶ。

「何やってるんだ!」
 
 渾身の啓介の叫びすらも掻き消すような、野太い男の怒鳴り声が辺りに響いた。
 空気をビリビリ震わせる迫力に、そこに居た者たちは思わず一斉に動きを止める。声のした方に視線を向けると、土手の上から仁王立ちでこちらを見下ろす男の姿があった。
 逆光に浮かび上がるシルエットを見ただけでも、格闘技の経験者だろうと思わせるような体躯だ。誰もが「何者?」と警戒する中、直人だけが嫌そうに「マジかよ。親父」とこぼした。 

「その制服、くぬぎ高だな。今のアタマはどいつだ。たった二人を相手にこんな大人数を用意したなんて、情けねぇ」

 言いながらこちらに向かってくる直人の父親に、生徒達は身構える。

「誰だてめえ」

 木材を手にしたまま、リーダー格の生徒が睨み返した。しかし直人の父親は、今にも殴り掛かってきそうな生徒を前にしても、少しも怯まない。

「お前ら椚に通ってんなら、一度くらい『陣野』って名前を聞いたことがあるんじゃねえか?」
「陣野って……まさか、あの」

 明らかに顔色が変わった椚高の生徒を見て、直人の父親がニヤリと笑う。

「そうだ。俺があの・・陣野だ。あんまりみっともねぇことして椚の看板汚すなら、俺がお前らブッ潰すぞ」

 低い声で凄まれて、椚高の生徒が震えあがった。陣野という人物は、彼らにとって特別な存在のようだった。そしてそれも納得してしまう程の気迫が、直人の父親から溢れている。

 啓介は呆気にとられながらも、これで助かったと安堵する。ホッとしたせいか、殴られた頬が今更になって痛んできた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

私の守護霊さん

Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。 彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。 これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。

たかなしポン太
青春
   僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。  助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。  でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。 「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」 「ちょっと、確認しなくていいですから!」 「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」 「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」    天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。  異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー! ※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。 ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~

美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。 貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。 そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。 紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。 そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!? 突然始まった秘密のルームシェア。 日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。 初回公開・完結*2017.12.21(他サイト) アルファポリスでの公開日*2020.02.16 *表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。

おじさん、女子高生になる

一宮 沙耶
大衆娯楽
だれからも振り向いてもらえないおじさん。 それが女子高生に向けて若返っていく。 そして政治闘争に巻き込まれていく。 その結末は?

処理中です...