8 / 46
unexciting②
しおりを挟む
「おい、お前ら帰るぞ」
大人しくなった椚高の生徒を一瞥し、陣野が啓介たちに声をかける。ズンズンと大股で土手を登り、停めてあった軽トラックの荷台に啓介と直人の自転車を積み込み始めた。白い軽トラのドア部分には『陣野酒店』と大きく表記されている。
配達途中だったのかなとぼんやり考えていたら、直人に肩を掴まれた。
「啓介、顔殴られたのかよ。お前がやられるなんて珍しいな」
「あー。直人が木材で殴られそうになってたから、ちょっと気を取られて油断しちゃった」
「ごめん。俺のせいだな」
「違うよ」
笑いながら啓介は首を振ったが、直人は申し訳なさそうに腫れた頬に触れ、もう一度「ごめん」と小さく呟く。
啓介の鼓動が、ほんの少しだけ早まった。どくどく跳ねる心臓をなだめていると、「おい」と自転車を積み終えた陣野に手招きで呼ばれる。
「お前、直人の友達か? こんな細い腕で、よくあいつらと渡り合ったな。よし、気に入った。今日はうちで飯食っていけ」
陣野が啓介の腕をまじまじと見ながらそう言った。ぽかんとして啓介は首を傾げたが、次第に笑いが込み上げてくる。
「あははは。直人のおとーさん、超面白いね。『気に入った』なんて、面と向かって言われたの初めて。僕、このまま帰ったら母親にめちゃめちゃ怒られるんで、ちょっと避難させてもらえると助かります」
「そうか。俺も『超面白い』なんて言われたのは初めてだ。そりゃ、そんなナリで帰ったら母ちゃんもビックリすんだろ。だったら今日は泊ってけ。明日にゃ腫れも、少しはマシになってんだろ」
「やったー。ありがとうございます。直人のおとーさん」
あっさり馴染んだ啓介に向かって、直人が呆れたように「お前、順応力すげーな」とこめかみの辺りを押さえた。
結局、翌日には汚れの落ちきらなかったシャツと腫れの引かなかった頬を千鶴に気付かれ、散々小言を言われてしまったのだが。
授業終了のチャイムを聞きながら、啓介は机に突っ伏してククッと肩を揺らした。何度思い出しても笑える。
「何一人で笑ってんだよ、気持ち悪ぃな」
啓介の席までやってきた直人に頭をはたかれて顔を上げた。
「直人のおとーさん思い出してた。だって、あんな漫画のキャラみたいな人、そうそういないよ? 椚高校の伝説の番長とか、面白過ぎるでしょ」
「酔って武勇伝語ることはあったけど、絶対盛ってると思ってたんだよなぁ。まさか本当だったとはね」
言いながら、直人が啓介の頬をさする。
「腫れが引いて良かった」
「そうだね。僕の綺麗な顔にキズが残ったら、直人に責任とってもらうところだったよ」
「責任?」
「そー。僕をお嫁に貰ってもらわなきゃ」
「あっはっは。おー。いいぞ、嫁いで来い。親父も喜ぶしな」
嫁に貰えと言われたんだから少しぐらい動揺すればいいのにと、啓介は口を尖らせた。
大人しくなった椚高の生徒を一瞥し、陣野が啓介たちに声をかける。ズンズンと大股で土手を登り、停めてあった軽トラックの荷台に啓介と直人の自転車を積み込み始めた。白い軽トラのドア部分には『陣野酒店』と大きく表記されている。
配達途中だったのかなとぼんやり考えていたら、直人に肩を掴まれた。
「啓介、顔殴られたのかよ。お前がやられるなんて珍しいな」
「あー。直人が木材で殴られそうになってたから、ちょっと気を取られて油断しちゃった」
「ごめん。俺のせいだな」
「違うよ」
笑いながら啓介は首を振ったが、直人は申し訳なさそうに腫れた頬に触れ、もう一度「ごめん」と小さく呟く。
啓介の鼓動が、ほんの少しだけ早まった。どくどく跳ねる心臓をなだめていると、「おい」と自転車を積み終えた陣野に手招きで呼ばれる。
「お前、直人の友達か? こんな細い腕で、よくあいつらと渡り合ったな。よし、気に入った。今日はうちで飯食っていけ」
陣野が啓介の腕をまじまじと見ながらそう言った。ぽかんとして啓介は首を傾げたが、次第に笑いが込み上げてくる。
「あははは。直人のおとーさん、超面白いね。『気に入った』なんて、面と向かって言われたの初めて。僕、このまま帰ったら母親にめちゃめちゃ怒られるんで、ちょっと避難させてもらえると助かります」
「そうか。俺も『超面白い』なんて言われたのは初めてだ。そりゃ、そんなナリで帰ったら母ちゃんもビックリすんだろ。だったら今日は泊ってけ。明日にゃ腫れも、少しはマシになってんだろ」
「やったー。ありがとうございます。直人のおとーさん」
あっさり馴染んだ啓介に向かって、直人が呆れたように「お前、順応力すげーな」とこめかみの辺りを押さえた。
結局、翌日には汚れの落ちきらなかったシャツと腫れの引かなかった頬を千鶴に気付かれ、散々小言を言われてしまったのだが。
授業終了のチャイムを聞きながら、啓介は机に突っ伏してククッと肩を揺らした。何度思い出しても笑える。
「何一人で笑ってんだよ、気持ち悪ぃな」
啓介の席までやってきた直人に頭をはたかれて顔を上げた。
「直人のおとーさん思い出してた。だって、あんな漫画のキャラみたいな人、そうそういないよ? 椚高校の伝説の番長とか、面白過ぎるでしょ」
「酔って武勇伝語ることはあったけど、絶対盛ってると思ってたんだよなぁ。まさか本当だったとはね」
言いながら、直人が啓介の頬をさする。
「腫れが引いて良かった」
「そうだね。僕の綺麗な顔にキズが残ったら、直人に責任とってもらうところだったよ」
「責任?」
「そー。僕をお嫁に貰ってもらわなきゃ」
「あっはっは。おー。いいぞ、嫁いで来い。親父も喜ぶしな」
嫁に貰えと言われたんだから少しぐらい動揺すればいいのにと、啓介は口を尖らせた。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
私の守護霊さん
Masa&G
キャラ文芸
大学生活を送る彩音には、誰にも言えない秘密がある。
彼女のそばには、他人には姿の見えない“守護霊さん”がずっと寄り添っていた。
これは——二人で過ごした最後の一年を描く、かけがえのない物語。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
キャバ嬢(ハイスペック)との同棲が、僕の高校生活を色々と変えていく。
たかなしポン太
青春
僕のアパートの前で、巨乳美人のお姉さんが倒れていた。
助けたそのお姉さんは一流大卒だが内定取り消しとなり、就職浪人中のキャバ嬢だった。
でもまさかそのお姉さんと、同棲することになるとは…。
「今日のパンツってどんなんだっけ? ああ、これか。」
「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。
イケメン副社長のターゲットは私!?~彼と秘密のルームシェア~
美和優希
恋愛
木下紗和は、務めていた会社を解雇されてから、再就職先が見つからずにいる。
貯蓄も底をつく中、兄の社宅に転がり込んでいたものの、頼りにしていた兄が突然転勤になり住む場所も失ってしまう。
そんな時、大手お菓子メーカーの副社長に救いの手を差しのべられた。
紗和は、副社長の秘書として働けることになったのだ。
そして不安一杯の中、提供された新しい住まいはなんと、副社長の自宅で……!?
突然始まった秘密のルームシェア。
日頃は優しくて紳士的なのに、時々意地悪にからかってくる副社長に気づいたときには惹かれていて──。
初回公開・完結*2017.12.21(他サイト)
アルファポリスでの公開日*2020.02.16
*表紙画像は写真AC(かずなり777様)のフリー素材を使わせていただいてます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる