されど御曹司は愛を誓う

雪華

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~ 第二章 賽は投げられた ~

第二十六話 金のなる木

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 一体何者だったのだろう。
 次の日もまた尾行されるかと身構えたのだが、その後怪しい動きをする車が現れることはなかった。しばらく追い回される日々が続くかもしれないと覚悟したのに、何だか拍子抜けしてしまう。
 もしかすると、あの日たまたま玲旺の姿を見つけた野次馬が、興味本位で付いて来ただけかもしれない。風貌も、張り込みをするような記者には見えなかった。きっとマスコミじゃなかったんだ。
 その考えが半分当たりで半分外ハズレだったと気づいたのは、月島と待ち合わせをした週末の夜だった。

 ◆

 本人からの報告よりも先に、ネットニュースでコンテストの順位を知ってしまった玲旺は、「あーあ」とがっかりしたような声を出す。

「眞から直接結果を聞かせてもらいたかったんだけどなぁ」
『それならネットニュースなんか見なきゃいいのに』

 電話の向こうで、あははと月島が笑う。
 月島が出場したのは、世界的に有名なワインブランドが主催する国際料理コンテストだった。
 三十歳以下の若手料理人が対象で、世界一を決めるグランドファイナルの舞台に今年は日本が選ばれた。昨年はミラノで開催され、来年はパリの予定だと言う。
 ワインにさえ合えば料理のジャンルは問わず、イタリアンにフレンチ、和食に中華にエスニックと、出場者の専門分野も様々だ。
 若手料理人の登竜門的なコンテストなのでメディアからの注目度も高く、ネットでは速報として大々的に扱われていた。

「だってさ、記事のタイトルが『日本人快挙。準グランプリは若干二十五歳の月島眞』って書いてあるんだよ。嫌でも目に入っちゃうじゃん。でもまぁ、本当に凄いよね。おめでとう」
『ありがとう。イギリス料理が物珍しくて加点された気もするけどね。それでも準グランプリは準グランプリだし、日本で店を出す足がかりになったらいいな』

 普段は物静かな月島だったが、珍しく声が弾んでいて喜びがこちらにまで伝わってくる。玲旺も嬉しそうに、改めて「おめでとう」と告げた。

『それで、今日の待ち合わせなんだけど。記念撮影とか簡単な取材があるらしくて、三十分くらい遅れそうなんだ。でも、何があっても必ず行くから待っててよ』
「そっか。俺もまだ会社だし、こっちは大丈夫だから気にすんなよ。じゃ、また後で」

 電話を切ってから、玲旺はコンテストの記事に再び目を通す。第一報なので文字だけの情報だが、きっと取材された後は月島の写真も載るのだろう。
 黒髪に切れ長の瞳。スッとした輪郭。涼し気で整った顔は、イケメンと言うより男前と表現したくなるような硬派な印象だ。
 見目も良い月島は、ビジュアル的にも話題になるだろう。

「日本でイギリス料理の店か。眞の夢が叶うのも、そう遠くないな」

 友人の朗報に、自然と顔がほころんだ。

 待ち合わせ時間がズレた分、当初の予定より少しだけ遅くオフィスを出る。エレベータ―ホールへ向かう途中、外から戻って来た久我に廊下でバッタリ出会い、玲旺は思わず駆け寄った。
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