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~ 第二章 賽は投げられた ~
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早く唇に触れて傷を癒したいと思っていたら、車のエンジンがかかる音がした。運転席からは、「なるほど」と感心したように唸る声が聞こえてくる。
「そうすると、さしずめこの車はカボチャの馬車で、私は御者ですね。大変光栄です」
ジョークではなく本気で光栄だと思っていそうな藤井が、ゆっくりと車を発進させた。玲旺は久我と指を絡めたまま、身体を前に向けてシートに座り直す。
「藤井も今日は遅くまでお疲れ様。来てくれて助かったよ、ありがとう」
「いえ。むしろ玲旺様の危機に駆け付けられず万が一のことがあったなら、腹を切る所存です。今日もやはり店までお送りすべきだったと、大変悔やみました」
険しい表情の藤井が、怒りを抑えきれないというようにハンドルを強く握り締める。玲旺は「まぁまぁ」となだめながら、藤井に問いかけた。
「それで、原田は結局どうなったの?」
「警告書を発行し、一筆書かせました。次にまたフローズンレイン関係者につきまとい行為や迷惑行為をした場合は法的手段をとると告げてあります。近々イタリアに戻るようですし、接触する機会はもう無いでしょう。それから、やはり原田は音声を録っていたので、録音機器は没収いたしました」
藤井は視線をあちこちに飛ばし尾行を警戒しながらも、簡潔かつ的確に報告する。信号で車が停車すると、藤井は玲旺を振り返った。
「こちらは玲旺様のボイスレコーダーです。私の方でバックアップは取りましたから、お返しいたしますね」
藤井が胸ポケットからボイスレコーダーを取り出し、玲旺へ差し出す。それを受け取りながら、「原田の件はこれで一件落着かな」と玲旺が呟いた。
ピクリと久我の肩が跳ね、繋いでいた指先を解いて玲旺に向き直る。
「本当に申し訳なかった」
久我は両手を自分の腿に乗せ、深々と頭を下げた。まるで武士のようだと玲旺は思いながら、背が高い久我の普段めったに見られない頭頂部を眺める。
恋人の立場からすると「もういいよ」と声を掛けてやりたいところだが、これでも一応、玲旺は上司だ。ケジメはつけないといけないだろう。
「今後は久我さん自身が気を付けて貰うのは当然として、これからもマスコミや同業者が社員に近づく可能性は大いにあると思うんだ。だから、社員たちの自衛のために、対応マニュアルを作ろう。その作成、お願いしても良い?」
久我は顔を上げ、「ああ」と返事をしかけたのを止め、「はい」と改めて言い直した。何だか久我に上司だと認めてもらえたような気がして、玲旺は背筋を伸ばす。
「氷雨さんのフォローは俺に任せてもらっていいかな。尾行された者同士で、多少は氷雨さんも気を許してくれそうだし。再度謝罪が必要そうだったら、また知らせるね」
「よろしくお願いします」
あまりにも神妙な顔をして久我がうなずくものだから、玲旺は力を抜けと言わんばかりに肩を叩いた。
「大丈夫だよ、氷雨さんも解ってくれる。それじゃあ、これで仕事の話はお終いね。……今日は、久我さんの家に泊っても良いよね?」
パチンと手を打って空気を切り替えた玲旺に、久我は目を見開いてからふわりと笑う。
「もちろん」
言いながら、玲旺の髪を指で梳くように撫でた。
「そうすると、さしずめこの車はカボチャの馬車で、私は御者ですね。大変光栄です」
ジョークではなく本気で光栄だと思っていそうな藤井が、ゆっくりと車を発進させた。玲旺は久我と指を絡めたまま、身体を前に向けてシートに座り直す。
「藤井も今日は遅くまでお疲れ様。来てくれて助かったよ、ありがとう」
「いえ。むしろ玲旺様の危機に駆け付けられず万が一のことがあったなら、腹を切る所存です。今日もやはり店までお送りすべきだったと、大変悔やみました」
険しい表情の藤井が、怒りを抑えきれないというようにハンドルを強く握り締める。玲旺は「まぁまぁ」となだめながら、藤井に問いかけた。
「それで、原田は結局どうなったの?」
「警告書を発行し、一筆書かせました。次にまたフローズンレイン関係者につきまとい行為や迷惑行為をした場合は法的手段をとると告げてあります。近々イタリアに戻るようですし、接触する機会はもう無いでしょう。それから、やはり原田は音声を録っていたので、録音機器は没収いたしました」
藤井は視線をあちこちに飛ばし尾行を警戒しながらも、簡潔かつ的確に報告する。信号で車が停車すると、藤井は玲旺を振り返った。
「こちらは玲旺様のボイスレコーダーです。私の方でバックアップは取りましたから、お返しいたしますね」
藤井が胸ポケットからボイスレコーダーを取り出し、玲旺へ差し出す。それを受け取りながら、「原田の件はこれで一件落着かな」と玲旺が呟いた。
ピクリと久我の肩が跳ね、繋いでいた指先を解いて玲旺に向き直る。
「本当に申し訳なかった」
久我は両手を自分の腿に乗せ、深々と頭を下げた。まるで武士のようだと玲旺は思いながら、背が高い久我の普段めったに見られない頭頂部を眺める。
恋人の立場からすると「もういいよ」と声を掛けてやりたいところだが、これでも一応、玲旺は上司だ。ケジメはつけないといけないだろう。
「今後は久我さん自身が気を付けて貰うのは当然として、これからもマスコミや同業者が社員に近づく可能性は大いにあると思うんだ。だから、社員たちの自衛のために、対応マニュアルを作ろう。その作成、お願いしても良い?」
久我は顔を上げ、「ああ」と返事をしかけたのを止め、「はい」と改めて言い直した。何だか久我に上司だと認めてもらえたような気がして、玲旺は背筋を伸ばす。
「氷雨さんのフォローは俺に任せてもらっていいかな。尾行された者同士で、多少は氷雨さんも気を許してくれそうだし。再度謝罪が必要そうだったら、また知らせるね」
「よろしくお願いします」
あまりにも神妙な顔をして久我がうなずくものだから、玲旺は力を抜けと言わんばかりに肩を叩いた。
「大丈夫だよ、氷雨さんも解ってくれる。それじゃあ、これで仕事の話はお終いね。……今日は、久我さんの家に泊っても良いよね?」
パチンと手を打って空気を切り替えた玲旺に、久我は目を見開いてからふわりと笑う。
「もちろん」
言いながら、玲旺の髪を指で梳くように撫でた。
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