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~ 第三章 反撃の狼煙 ~
第三十四話 練習は本番のように。本番は練習のように。
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透き通るように淡く光る栗色の髪に、ブルースピネルのようなグレーがかった青い瞳。
快晴は学ランと中華服をミックスしたような、白のセットアップを着用していた。腰位置までの丈が短めなジャケットに、ロールアップされたパンツの裾には金の刺繍が施され、腰にはベルトの代わりに房の付いた組紐が巻かれている。
氷雨と湯月が中性的なのに対し、快晴はどちらかと言えば男性的で、「王子様」と言う形容がピッタリ当てはまるような外見だった。
湯月がフローズンレインのモデルとして参加することが面白くないのか、その麗しい顔を歪ませ忌々しそうに氷雨を睨んでいる。
しかし氷雨がモデルたちの衣装の調整を始めると、ふいっと顔を背けパーテーションの奥に消えていった。
あちらもあちらで準備に忙しいのだろう。
いきなり喧嘩を売られなくて良かったと思いつつ、快晴がなぜそこまで氷雨を目の敵にするのか、玲旺には不思議だった。
氷雨も快晴に良い感情は持っていないようだが、睨みつけるほどの嫌悪感はなさそうだ。
今だって、快晴はあれ程氷雨を意識しているのに、氷雨は快晴を視界の隅にも入れていない。
二人の間には、微妙な温度差がある。
初めは湯月の取り合いかとも思えたが、そう言う訳でもなさそうだ。
「あっ! どうしよう」
ぐるぐる巡る玲旺の思考は、女子生徒の悲痛な叫びでプツリと途切れる。
「どうしたの」
玲旺がすぐさま駆け付けると、女の子は取れてしまったスカートのホックを手のひらに乗せ、今にも泣き出しそうな顔で玲旺を見上げた。
直ぐに状況を理解した玲旺は、「大丈夫だよ」と安心させるように微笑む。氷雨を呼ぼうと少女から周囲へ視線を移すと、既に隣には氷雨が来ていて、ごそごそと自分のポケットを漁っていた。
「おっけーおっけー、全く問題ないよ。針が刺さっちゃうと危ないから、ちょっと動かないでね」
ポケットから取り出した黒塗りの安全ピンを二つ、ホックのあった位置にクロスさせるように留める。
「あら。これはこれでカッコイイわね。今度安全ピンを使ったデザインしてみようかな」
氷雨が笑いかけると、女子生徒は心底安堵したようにうなずいた。周りでヒヤヒヤしながら見守っていた生徒らも、ホッとしたように胸を撫で下ろす。
その様子を見た氷雨が人差し指を顎に当て、少し考えるような仕草をした後「ねぇ、聞いて」と生徒たちに声を掛けた。
「あのね、ショーにはトラブルが付き物なの。ホントに思ってもみないことが起こったりするから、何があっても焦らないでね」
氷雨の周りには自然と生徒たちが集まって来る。本人は嫌がっていたが、その姿は本当に教師のように見えた。
神妙な顔で話を聞く生徒たちを見回しながら、氷雨が言葉をつづける。
「例えばもしランウェイで靴が片方脱げちゃったら、いっそ両方脱いで手に持ってスキップしながら戻っておいで。ボトムの留め具が取れても、腰に手を当てて押さえながら、胸を張って堂々と歩くんだよ。もし転んでも、ペロっと舌出して笑っちゃえばいいよ」
張り詰めていた生徒たちの表情が、少しずつ解れていくのが手に取るようにわかった。
「大丈夫、不具合なんて何とでもなるから。そういう演出だって顔して、何事もなかったように振舞ってごらん」
氷雨の言葉が生徒たちに優しく降り注ぐ。初舞台を踏む彼らにとって、こんなに心強いアドバイスは無いだろう。
玲旺が胸を熱くしながら見守っていると、会場からまるで物語のプロローグのようなサウンドエフェクトが流れ始めた。
「練習は本番のように。本番は練習のように。始まっちゃえばあっという間よ。悔いが残らないように、最善を尽くしましょ」
快晴は学ランと中華服をミックスしたような、白のセットアップを着用していた。腰位置までの丈が短めなジャケットに、ロールアップされたパンツの裾には金の刺繍が施され、腰にはベルトの代わりに房の付いた組紐が巻かれている。
氷雨と湯月が中性的なのに対し、快晴はどちらかと言えば男性的で、「王子様」と言う形容がピッタリ当てはまるような外見だった。
湯月がフローズンレインのモデルとして参加することが面白くないのか、その麗しい顔を歪ませ忌々しそうに氷雨を睨んでいる。
しかし氷雨がモデルたちの衣装の調整を始めると、ふいっと顔を背けパーテーションの奥に消えていった。
あちらもあちらで準備に忙しいのだろう。
いきなり喧嘩を売られなくて良かったと思いつつ、快晴がなぜそこまで氷雨を目の敵にするのか、玲旺には不思議だった。
氷雨も快晴に良い感情は持っていないようだが、睨みつけるほどの嫌悪感はなさそうだ。
今だって、快晴はあれ程氷雨を意識しているのに、氷雨は快晴を視界の隅にも入れていない。
二人の間には、微妙な温度差がある。
初めは湯月の取り合いかとも思えたが、そう言う訳でもなさそうだ。
「あっ! どうしよう」
ぐるぐる巡る玲旺の思考は、女子生徒の悲痛な叫びでプツリと途切れる。
「どうしたの」
玲旺がすぐさま駆け付けると、女の子は取れてしまったスカートのホックを手のひらに乗せ、今にも泣き出しそうな顔で玲旺を見上げた。
直ぐに状況を理解した玲旺は、「大丈夫だよ」と安心させるように微笑む。氷雨を呼ぼうと少女から周囲へ視線を移すと、既に隣には氷雨が来ていて、ごそごそと自分のポケットを漁っていた。
「おっけーおっけー、全く問題ないよ。針が刺さっちゃうと危ないから、ちょっと動かないでね」
ポケットから取り出した黒塗りの安全ピンを二つ、ホックのあった位置にクロスさせるように留める。
「あら。これはこれでカッコイイわね。今度安全ピンを使ったデザインしてみようかな」
氷雨が笑いかけると、女子生徒は心底安堵したようにうなずいた。周りでヒヤヒヤしながら見守っていた生徒らも、ホッとしたように胸を撫で下ろす。
その様子を見た氷雨が人差し指を顎に当て、少し考えるような仕草をした後「ねぇ、聞いて」と生徒たちに声を掛けた。
「あのね、ショーにはトラブルが付き物なの。ホントに思ってもみないことが起こったりするから、何があっても焦らないでね」
氷雨の周りには自然と生徒たちが集まって来る。本人は嫌がっていたが、その姿は本当に教師のように見えた。
神妙な顔で話を聞く生徒たちを見回しながら、氷雨が言葉をつづける。
「例えばもしランウェイで靴が片方脱げちゃったら、いっそ両方脱いで手に持ってスキップしながら戻っておいで。ボトムの留め具が取れても、腰に手を当てて押さえながら、胸を張って堂々と歩くんだよ。もし転んでも、ペロっと舌出して笑っちゃえばいいよ」
張り詰めていた生徒たちの表情が、少しずつ解れていくのが手に取るようにわかった。
「大丈夫、不具合なんて何とでもなるから。そういう演出だって顔して、何事もなかったように振舞ってごらん」
氷雨の言葉が生徒たちに優しく降り注ぐ。初舞台を踏む彼らにとって、こんなに心強いアドバイスは無いだろう。
玲旺が胸を熱くしながら見守っていると、会場からまるで物語のプロローグのようなサウンドエフェクトが流れ始めた。
「練習は本番のように。本番は練習のように。始まっちゃえばあっという間よ。悔いが残らないように、最善を尽くしましょ」
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