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◇第1章 裸の王様◇
渋谷のヴァンパイア②
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「は? このお店のルール知ってる? 僕から話しかけるのは良いけど、僕に話しかけちゃいけないの。せっかく桐ケ谷クンとの距離詰めてる時に邪魔しないで」
氷雨が話し終わらないうちにスタッフが風のように現れて、あっという間に女性客を店の外へ連れ出してしまった。「ごめんなさいぃ」と言う声がどんどん遠ざかる。
「何なの、この店」
ローカルルールにも驚きだが、素直に従う客もどうかしている。氷雨に抱きしめられたまま、玲旺は体をのけ反らせて思い切り顔をしかめた。氷雨とは一体何者なんだと怪しがる。
「キミ、まさか僕を知らないの? 僕ねぇ、いわゆるカリスマ店員ってヤツ。雑誌にコラムも持ってるし、フォロワーも何十万人もいるの。このお店は僕が仕入れを担当していてね、僕が選んだ商品ってだけで、大注目されちゃうんだ。凄いでしょ?」
なるほど、久我の言っていた「確実に評価が上がる」とはこの事かと合点がいったが、今の状況には納得いかなかった。
「氷雨さんでしたっけ。すみません、離していただけますか」
努めて冷静に告げたつもりだったが、思った以上に発した声色は刺々しいものだった。それでも氷雨は楽しそうに、腰に回した手をジワジワと下へ移動させる。
「どうして? キミと仲良くなりたいだけよ。僕の顔、もっとちゃんと見て。人形みたいに綺麗って、みんな褒めてくれるの。キミも好きになってよ」
「氷雨さん、今日はどうしたんですか」
流石に様子がおかしいと思ったのか、久我が間に入って止めようとした。氷雨は玩具を横取りされそうな子供のように、更に玲旺を強く抱きしめる。
唇が触れそうなほど顔を寄せると、玲旺の腰から下をゆっくり撫でた。その手に力を込めると、氷雨の白く細い指が玲旺の尻の肉に食い込む。その瞬間に我慢の限界が訪れて、玲旺は気付くと氷雨の胸ぐらを掴んでいた。
「オマエ調子に乗りすぎ。生憎、自分の顔を鏡で毎日見てるんでね。綺麗な顔なんてもう飽き飽きしてんだよ」
「桐ケ谷、暴力はやめろ」
久我に制止され、玲旺はゴミでも投げ捨てるように氷雨から乱暴に手を離す。勢いが余って氷雨はよろめき、ディスプレイ棚にもたれかかった。驚いて見開かれた氷雨の赤い目は、直ぐに恍惚の色に染まる。
「うっそ。その顔で俺様とかマジ? 僕に向かって『オマエ』とか言っちゃうの? 綺麗な顔は見飽きてるって? なんかもう、全部最高なんだけど」
乱れた襟元を直しながら、氷雨が舌なめずりをする。また抱き付きそうな勢いだったので、久我は玲旺を引き寄せ、自分の背に隠した。
「また出直します。今日は部下が手荒な真似をしてすみませんでした。でも、氷雨さんも度が過ぎましたよ」
「久我クンも、僕に向かって遠慮がないよね。そういうトコ大好きだけど。桐ケ谷クン、ごめんなさいね? だって僕、夢中になっちゃうと歯止めが利かないから。またお話しましょ。会いに来てね」
「二度と来るかよ、バーカ」
「桐ケ谷!」
久我に強く窘められても、玲旺はツンとそっぽを向いたままだった。
氷雨が真っ赤な唇の両端を上げて、楽しそうににんまりと笑う。玲旺は嫌悪を露わにし、こめかみに青筋を立てた。
「ホント、吸血鬼みたいで気味悪ィ」
「お褒めにあずかり光栄だわ」
余裕ありげな氷雨の態度が気に入らず、玲旺は無言のまま踵を返して店の外へ飛び出した。久我が詫びている声が後ろで聞こえたが、振り向くことなくそのまま駐車場へと向かう。
小さな社用車を見て、またコレに乗るのかとうんざりしながらドアを引いたが、びくともしなかった。
「あれ? 何で開かねーんだよ」
力任せに何度もドアノブを引いていると、背後で呆れたようなため息が聞こえた。
氷雨が話し終わらないうちにスタッフが風のように現れて、あっという間に女性客を店の外へ連れ出してしまった。「ごめんなさいぃ」と言う声がどんどん遠ざかる。
「何なの、この店」
ローカルルールにも驚きだが、素直に従う客もどうかしている。氷雨に抱きしめられたまま、玲旺は体をのけ反らせて思い切り顔をしかめた。氷雨とは一体何者なんだと怪しがる。
「キミ、まさか僕を知らないの? 僕ねぇ、いわゆるカリスマ店員ってヤツ。雑誌にコラムも持ってるし、フォロワーも何十万人もいるの。このお店は僕が仕入れを担当していてね、僕が選んだ商品ってだけで、大注目されちゃうんだ。凄いでしょ?」
なるほど、久我の言っていた「確実に評価が上がる」とはこの事かと合点がいったが、今の状況には納得いかなかった。
「氷雨さんでしたっけ。すみません、離していただけますか」
努めて冷静に告げたつもりだったが、思った以上に発した声色は刺々しいものだった。それでも氷雨は楽しそうに、腰に回した手をジワジワと下へ移動させる。
「どうして? キミと仲良くなりたいだけよ。僕の顔、もっとちゃんと見て。人形みたいに綺麗って、みんな褒めてくれるの。キミも好きになってよ」
「氷雨さん、今日はどうしたんですか」
流石に様子がおかしいと思ったのか、久我が間に入って止めようとした。氷雨は玩具を横取りされそうな子供のように、更に玲旺を強く抱きしめる。
唇が触れそうなほど顔を寄せると、玲旺の腰から下をゆっくり撫でた。その手に力を込めると、氷雨の白く細い指が玲旺の尻の肉に食い込む。その瞬間に我慢の限界が訪れて、玲旺は気付くと氷雨の胸ぐらを掴んでいた。
「オマエ調子に乗りすぎ。生憎、自分の顔を鏡で毎日見てるんでね。綺麗な顔なんてもう飽き飽きしてんだよ」
「桐ケ谷、暴力はやめろ」
久我に制止され、玲旺はゴミでも投げ捨てるように氷雨から乱暴に手を離す。勢いが余って氷雨はよろめき、ディスプレイ棚にもたれかかった。驚いて見開かれた氷雨の赤い目は、直ぐに恍惚の色に染まる。
「うっそ。その顔で俺様とかマジ? 僕に向かって『オマエ』とか言っちゃうの? 綺麗な顔は見飽きてるって? なんかもう、全部最高なんだけど」
乱れた襟元を直しながら、氷雨が舌なめずりをする。また抱き付きそうな勢いだったので、久我は玲旺を引き寄せ、自分の背に隠した。
「また出直します。今日は部下が手荒な真似をしてすみませんでした。でも、氷雨さんも度が過ぎましたよ」
「久我クンも、僕に向かって遠慮がないよね。そういうトコ大好きだけど。桐ケ谷クン、ごめんなさいね? だって僕、夢中になっちゃうと歯止めが利かないから。またお話しましょ。会いに来てね」
「二度と来るかよ、バーカ」
「桐ケ谷!」
久我に強く窘められても、玲旺はツンとそっぽを向いたままだった。
氷雨が真っ赤な唇の両端を上げて、楽しそうににんまりと笑う。玲旺は嫌悪を露わにし、こめかみに青筋を立てた。
「ホント、吸血鬼みたいで気味悪ィ」
「お褒めにあずかり光栄だわ」
余裕ありげな氷雨の態度が気に入らず、玲旺は無言のまま踵を返して店の外へ飛び出した。久我が詫びている声が後ろで聞こえたが、振り向くことなくそのまま駐車場へと向かう。
小さな社用車を見て、またコレに乗るのかとうんざりしながらドアを引いたが、びくともしなかった。
「あれ? 何で開かねーんだよ」
力任せに何度もドアノブを引いていると、背後で呆れたようなため息が聞こえた。
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