6 / 68
◇第1章 裸の王様◇
渋谷のヴァンパイア①
しおりを挟む
渋谷駅から少し離れた神南エリアには、若者向けのセレクトショップが点在していた。どの店も個性的でセンスが良く、近所に住んでいながら今まで渋谷に興味のなかった玲旺でさえ、オフの日に改めて来たいと思えた程だ。
そのうちの一軒、ガラス張りで洒落た外壁の店舗の前で久我が足を止める。「ここだよ」と玲旺に笑いかけ、開け放たれた入り口をくぐった。
扉の木枠は、わざと塗装が剥がれて掠れたような風合いに仕上げられている。焦げ茶色の船の甲板みたいな床に、レンガの壁。錆加工を施した鉄のシャンデリア。吹き抜けになっている高い天井に、店の中央には螺旋階段。大きな窓からは太陽光が差し込み、程よく店内を照らしている。
インテリアだけ見るとアンティーク調だが、取り扱う商品は新進気鋭なデザインも多く、とてもカラフルだった。かと思えば、上品で質の良い服も陳列している。そのアンバランスさが絶妙で、かえってそれぞれの商品の良さを引き立たせていた。
「すっげえ……センスいいな」
玲旺は思わず呟きながら、店内を見回す。
「あら、嬉しい! 素直な子は大好きよ。あと、可愛い子も大好き。つまり、キミは僕のドストライク」
玲旺は声のした方を振り返り、すぐ後ろに立っていた人物を見上げて息を飲んだ。
真っ白い髪は前下がりのボブカットで、右側の髪だけ耳に掛けている。微笑みながら首を傾げると、大振りのピアスが揺れた。真っ赤な口紅と、赤いカラーコンタクト。肌は白く、黒いドレスシャツに黒のベストを合わせていた。足元はゴツいエナメルブーツで、ガーゼ素材のスカートと意外と良く合っている。
ゴシック風で個性的な装いは、まるで吸血鬼だと玲旺は思った。
黙っていれば長身で華奢な女性のようだったが、低い声と喉仏で男性なのだと解る。
「こんにちは、氷雨さん。今日はお時間を頂きありがとうございます」
「なぁに? 久我クンの秘密兵器? この子を差し出されたら、ちょっと心が揺れちゃうわ」
「やめてくださいよ、部下を手土産にしたりしませんから。今日から営業部に配属になった桐ケ谷です」
言いながら久我が玲旺に視線を送る。自己紹介を促されているのだと理解して、玲旺は一歩前に進み出た。
「桐ケ谷玲旺です。名刺がまだ出来上がっていないので、後日また改め……」
「いいわよ、名刺なんて。それよりプライベートの連絡先教えてくれたら嬉しいな」
そう言って氷雨が玲旺の手を取る。強く握りしめられたので思わず舌打ちしそうになったが、何とかこらえた。
「ねぇねぇ、お家はドコ? 今度あそぼ?」
「氷雨さん、新人をからかわないでくださいね。それより、服のサンプルをご覧に入れたくてお持ちしました。デザインはもちろん、生地も縫製もこだわっていて、このお店のコンセプトにも合っていると思いますよ。奥で詳しくご説明致します」
グイグイと迫る氷雨に、久我が危ぶみながら「スタッフルームへ移動しましょう」と声を掛ける。
「ごめんね久我クン、後にしてくれるかな」
久我を見ようともしない氷雨が、玲旺の腰に手を回して抱き寄せる。それを見た若い女性客が、悲鳴のような黄色い声を上げた。興奮した女性客は氷雨のすぐそばまで来てスマホを取り出し、震えながら懇願する。
「ひ、氷雨さん。お二人の写真、撮ってもいいですか? 私、氷雨さんの大ファンなんです! スーツのお兄さんも凄く綺麗で、お二人がとっても絵になるからッ」
玲旺に向けていた満面の笑みを一瞬で消し去った氷雨が、彼女を冷たく見下ろした。
そのうちの一軒、ガラス張りで洒落た外壁の店舗の前で久我が足を止める。「ここだよ」と玲旺に笑いかけ、開け放たれた入り口をくぐった。
扉の木枠は、わざと塗装が剥がれて掠れたような風合いに仕上げられている。焦げ茶色の船の甲板みたいな床に、レンガの壁。錆加工を施した鉄のシャンデリア。吹き抜けになっている高い天井に、店の中央には螺旋階段。大きな窓からは太陽光が差し込み、程よく店内を照らしている。
インテリアだけ見るとアンティーク調だが、取り扱う商品は新進気鋭なデザインも多く、とてもカラフルだった。かと思えば、上品で質の良い服も陳列している。そのアンバランスさが絶妙で、かえってそれぞれの商品の良さを引き立たせていた。
「すっげえ……センスいいな」
玲旺は思わず呟きながら、店内を見回す。
「あら、嬉しい! 素直な子は大好きよ。あと、可愛い子も大好き。つまり、キミは僕のドストライク」
玲旺は声のした方を振り返り、すぐ後ろに立っていた人物を見上げて息を飲んだ。
真っ白い髪は前下がりのボブカットで、右側の髪だけ耳に掛けている。微笑みながら首を傾げると、大振りのピアスが揺れた。真っ赤な口紅と、赤いカラーコンタクト。肌は白く、黒いドレスシャツに黒のベストを合わせていた。足元はゴツいエナメルブーツで、ガーゼ素材のスカートと意外と良く合っている。
ゴシック風で個性的な装いは、まるで吸血鬼だと玲旺は思った。
黙っていれば長身で華奢な女性のようだったが、低い声と喉仏で男性なのだと解る。
「こんにちは、氷雨さん。今日はお時間を頂きありがとうございます」
「なぁに? 久我クンの秘密兵器? この子を差し出されたら、ちょっと心が揺れちゃうわ」
「やめてくださいよ、部下を手土産にしたりしませんから。今日から営業部に配属になった桐ケ谷です」
言いながら久我が玲旺に視線を送る。自己紹介を促されているのだと理解して、玲旺は一歩前に進み出た。
「桐ケ谷玲旺です。名刺がまだ出来上がっていないので、後日また改め……」
「いいわよ、名刺なんて。それよりプライベートの連絡先教えてくれたら嬉しいな」
そう言って氷雨が玲旺の手を取る。強く握りしめられたので思わず舌打ちしそうになったが、何とかこらえた。
「ねぇねぇ、お家はドコ? 今度あそぼ?」
「氷雨さん、新人をからかわないでくださいね。それより、服のサンプルをご覧に入れたくてお持ちしました。デザインはもちろん、生地も縫製もこだわっていて、このお店のコンセプトにも合っていると思いますよ。奥で詳しくご説明致します」
グイグイと迫る氷雨に、久我が危ぶみながら「スタッフルームへ移動しましょう」と声を掛ける。
「ごめんね久我クン、後にしてくれるかな」
久我を見ようともしない氷雨が、玲旺の腰に手を回して抱き寄せる。それを見た若い女性客が、悲鳴のような黄色い声を上げた。興奮した女性客は氷雨のすぐそばまで来てスマホを取り出し、震えながら懇願する。
「ひ、氷雨さん。お二人の写真、撮ってもいいですか? 私、氷雨さんの大ファンなんです! スーツのお兄さんも凄く綺麗で、お二人がとっても絵になるからッ」
玲旺に向けていた満面の笑みを一瞬で消し去った氷雨が、彼女を冷たく見下ろした。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】取り柄は顔が良い事だけです
pino
BL
昔から顔だけは良い夏川伊吹は、高級デートクラブでバイトをするフリーター。25歳で美しい顔だけを頼りに様々な女性と仕事でデートを繰り返して何とか生計を立てている伊吹はたまに同性からもデートを申し込まれていた。お小遣い欲しさにいつも年上だけを相手にしていたけど、たまには若い子と触れ合って、ターゲット層を広げようと20歳の大学生とデートをする事に。
そこで出会った男に気に入られ、高額なプレゼントをされていい気になる伊吹だったが、相手は年下だしまだ学生だしと罪悪感を抱く。
そんな中もう一人の20歳の大学生の男からもデートを申し込まれ、更に同業でただの同僚だと思っていた23歳の男からも言い寄られて?
ノンケの伊吹と伊吹を落とそうと奮闘する三人の若者が巻き起こすラブコメディ!
BLです。
性的表現有り。
伊吹視点のお話になります。
題名に※が付いてるお話は他の登場人物の視点になります。
表紙は伊吹です。
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
死ぬほど嫌いな上司と付き合いました
三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。
皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。
涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥
上司×部下BL
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる