されど御曹司は愛を知る

雪華

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◇第1章 裸の王様◇

渋谷のヴァンパイア①

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 渋谷駅から少し離れた神南エリアには、若者向けのセレクトショップが点在していた。どの店も個性的でセンスが良く、近所に住んでいながら今まで渋谷に興味のなかった玲旺でさえ、オフの日に改めて来たいと思えた程だ。

 そのうちの一軒、ガラス張りで洒落た外壁の店舗の前で久我が足を止める。「ここだよ」と玲旺に笑いかけ、開け放たれた入り口をくぐった。 
 扉の木枠は、わざと塗装が剥がれて掠れたような風合いに仕上げられている。焦げ茶色の船の甲板みたいな床に、レンガの壁。錆加工を施した鉄のシャンデリア。吹き抜けになっている高い天井に、店の中央には螺旋階段。大きな窓からは太陽光が差し込み、程よく店内を照らしている。

 インテリアだけ見るとアンティーク調だが、取り扱う商品は新進気鋭なデザインも多く、とてもカラフルだった。かと思えば、上品で質の良い服も陳列している。そのアンバランスさが絶妙で、かえってそれぞれの商品の良さを引き立たせていた。

「すっげえ……センスいいな」

 玲旺は思わず呟きながら、店内を見回す。

「あら、嬉しい! 素直な子は大好きよ。あと、可愛い子も大好き。つまり、キミは僕のドストライク」

 玲旺は声のした方を振り返り、すぐ後ろに立っていた人物を見上げて息を飲んだ。

 真っ白い髪は前下がりのボブカットで、右側の髪だけ耳に掛けている。微笑みながら首を傾げると、大振りのピアスが揺れた。真っ赤な口紅と、赤いカラーコンタクト。肌は白く、黒いドレスシャツに黒のベストを合わせていた。足元はゴツいエナメルブーツで、ガーゼ素材のスカートと意外と良く合っている。

 ゴシック風で個性的な装いは、まるで吸血鬼だと玲旺は思った。
 黙っていれば長身で華奢な女性のようだったが、低い声と喉仏で男性なのだと解る。

「こんにちは、氷雨ひさめさん。今日はお時間を頂きありがとうございます」
「なぁに? 久我クンの秘密兵器? この子を差し出されたら、ちょっと心が揺れちゃうわ」
「やめてくださいよ、部下を手土産にしたりしませんから。今日から営業部に配属になった桐ケ谷です」

 言いながら久我が玲旺に視線を送る。自己紹介を促されているのだと理解して、玲旺は一歩前に進み出た。

「桐ケ谷玲旺です。名刺がまだ出来上がっていないので、後日また改め……」
「いいわよ、名刺なんて。それよりプライベートの連絡先教えてくれたら嬉しいな」

 そう言って氷雨が玲旺の手を取る。強く握りしめられたので思わず舌打ちしそうになったが、何とかこらえた。

「ねぇねぇ、お家はドコ? 今度あそぼ?」
「氷雨さん、新人をからかわないでくださいね。それより、服のサンプルをご覧に入れたくてお持ちしました。デザインはもちろん、生地も縫製もこだわっていて、このお店のコンセプトにも合っていると思いますよ。奥で詳しくご説明致します」

 グイグイと迫る氷雨に、久我が危ぶみながら「スタッフルームへ移動しましょう」と声を掛ける。

「ごめんね久我クン、後にしてくれるかな」

 久我を見ようともしない氷雨が、玲旺の腰に手を回して抱き寄せる。それを見た若い女性客が、悲鳴のような黄色い声を上げた。興奮した女性客は氷雨のすぐそばまで来てスマホを取り出し、震えながら懇願する。

「ひ、氷雨さん。お二人の写真、撮ってもいいですか? 私、氷雨さんの大ファンなんです! スーツのお兄さんも凄く綺麗で、お二人がとっても絵になるからッ」

 玲旺に向けていた満面の笑みを一瞬で消し去った氷雨が、彼女を冷たく見下ろした。
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