されど御曹司は愛を知る

雪華

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◇第2章 人の上に立つ素質◇

見目麗しい後継者②

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 自信を持てと言われて嬉しいと思いつつ、「真剣勝負の場」がピンとこない玲旺は首を傾げた。吉田と鈴木は久我のストレートな物言いに、玲旺が怒り出さないかとハラハラしている。
 そんな様子を久我は一瞥すると、三人に言い聞かせるようにゆっくりと話し出した。

「次の展示会は複数のブランドが参加する合同展示会だ。アパレルは斜陽産業なんて揶揄される今、どこも取引先の新規開拓に必死なんだよ。一見華やかな場だが、熾烈な戦場だ」

 なるほどと思いながら、ごくりと唾を飲み込んだ。吉田と鈴木も同じように真剣な表情で久我の話を聞いている。

「桐ケ谷は自分が社長の息子だってこと、一旦忘れろ。吉田も鈴木も、桐ケ谷を特別扱いしないように。コイツはただの新人だ。わかったな?」
「あの、質問があるのですが」

 ソロリと小さく挙手したのは吉田だった。色白で眼鏡をかけていて、気の弱そうな男性だ。吉田の前には今日までに調べ上げた資料の束が積み上がっている。

「桐ケ谷くんを特別扱いしないのは承知しました。でも、社長令息の肩書が発揮できる場で利用させて貰うのはアリでしょうか?」

 楽しそうに久我が「例えば?」と先を促す。

「展示会のブースで、前面に出て欲しいと思いまして……。フォーチュンの新しいコンセプトを伝えるのに、次の代を担う桐ケ谷くんはピッタリかと。とても注目を集めると思います」

 イケメンですし。と付け加えてから、玲旺の顔をチラリと見る。

「なるほど。隣のブースはJolieジョリーだしな。きっとまた、うちとよく似たコンセプトをぶつけてくるだろう。面倒臭い」

 言葉通り、心底面倒くさそうに久我が眉間に皺を寄せる。鈴木も呆れながら力なく笑った。

「『ジョリー』って?」
「元は伍楼屋ごろうやという老舗の洋品店です。ずっと婦人服中心に扱っていましたが、業績悪化を打開すべく、一昨年から取扱商品すべてを若者向けにシフトチェンジしたんです。その時、社名もジョリーに変更されました」

 玲旺の問いに、吉田が眼鏡をクイッと上げながら答える。それから眉を八の字に下げ、不快そうに顔をしかめて話を続けた。

「ジョリーは我が社の売れ筋商品を模倣して、更に安価で販売するのです。ソックリならば抗議もできますが、アレンジを加えるので今のところ上手くすり抜けられている状態です」
「なんだよそれ! そんな好き勝手させんなよ。何とかなんねーの?」

 口を尖らせ悔しさを滲ませる玲旺に、吉田は首がもげそうなほど何度も頷いた。

「所詮うちの真似しか出来ないジョリーに対する、業界の評価は冷ややかなもので、今後の伸びもたかが知れています。でも、だからと言って放置して良いわけがないですよね!」

 気が弱そうだと思ったが、意外とアグレッシブなのかもしれない。「だからこそ」と、吉田は拳に力を込めて力説した。

「先細りのジョリーとは違って、フォーチュンには有望で見目も麗しい後継者がいるんだってことを知らしめてやるのです!」

 机に乗り上げそうなほどの勢いで熱弁する吉田の肩を、久我は更に鼓舞するように叩いた。

「良いじゃないか。じゃあ、吉田と鈴木は当日まで、みっちり桐ケ谷に知識を叩き込んでくれ。涼しい顔で良いとこ取りするジョリーに、皆で一泡吹かせてやろう」
「はい! 桐ケ谷くん、頑張ろうね」

 吉田と鈴木の気合いに釣られて、玲旺も両手に力をグッと入れる。お飾りでも気を使われている訳でもなく、戦力として期待されてこの輪の中にいられる事が嬉しくてたまらなかった。

「俺は別件で席を外すが、このまま三人で練ってくれ。会議の報告書を後で頼むな」

 そう言って立ち上がった久我が、玲旺の頭に手を置いて、くしゃっと髪をかき混ぜる。驚いて見上げると、久我の笑顔がそこにあった。

 声には出さず「頑張れよ」と久我の唇が動いたのが解って、玲旺も笑顔を返す。会議室を後にする久我の背中を見送りながら、玲旺は自分の居場所を確かめるように、胸に手を当てて息を深く吸った。

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