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◇第4章 月も星も出ない夜◇
『恋は盲目』②
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『見合いが終わったら連絡ください。何時になってもいいから』
気付くと久我に電話をかけていた。足は勝手にタクシー乗り場へと向かっている。コール音がもどかしく、早く早くと気持ちが急いた。
『もしもし。……ごめん、見合いの邪魔する気はなかったんだけど、どうしても気になって。電話していて大丈夫?』
電話に出た久我は、酷く躊躇っているように感じられた。
「さっき終わったとこ。どうしたの?」
『あのさ、今どこにいる? 少しでいいから会えないかな』
「それなら久我さんの家、行って良い? タクシーなら直ぐだから」
少しの間沈黙が続いて、久我が悩んでいるのが電話越しでも解った。
『俺がそっちに行くよ。外で会おう』
「ううん。嫌だ、久我さんの家が良い。って言うか、もうタクシー乗っちゃったし。マンションに着いたらまた連絡するから」
本当はまだタクシーに乗るどころかロビーにすら辿り着いていなかったが、玲旺は一方的にまくしたてた。久我の「わかった」と言う声を聞いてホッとしながら電話を切る。
嬉しい、と言う感情で爆発しそうだった。
久我が会いたいと言ってくれた。見合いを気にしてくれていた。
嬉しい。嬉しい。
やっと気持ちに応えてもらえる。
飛び乗ったタクシーに行き先を告げ、思った以上に浮かれている自分の声に驚いた。久我のくれたメッセージを開いて指でなぞり、赤信号に捕まる度に恨めしく信号機を睨む。
漸く着いたマンションのエントランスでインターフォンを押し、モニター越しに映る自分の顔がにやけないようにグッと奥歯を噛んだ。
『早かったな』と久我は驚きながら自動ドアを解錠したが、玲旺は遅いくらいだと速足で奥へ進む。エレベーターの到着を待つ時間さえもどかしい。
玲旺が部屋の前に着くと、チャイムを鳴らす前に扉が開いた。普段見慣れたスーツではなく、クルーネックのカットソーに細身のデニム姿が新鮮でドキリとする。
扉は薄くしか開かれず、玲旺は部屋の中に入れないままマンションの廊下から久我を見上げた。久我は苦しそうに眉を寄せ、唇を噛んで目を伏せる。
「家じゃなくていいだろ。腹減ってない? 外で飯食おうよ」
「嫌だってば。中に入れてよ」
引き下がらない玲旺に、久我は困ったように首筋をさする。この期に及んでまだ迷っているのが手に取るようにわかった。
「本当に部屋に入れたくなかったら、エントランスの前で待ってればよかったじゃん。でも久我さんは部屋にいて、今こうしてドアを開けた。もう、それが全てじゃない?」
業を煮やして玲旺が扉に手をかけ、強引に押し入ろうとする。久我が慌ててそれ以上扉が開かないようにドアノブを押さえた。
久我は何か言いかけて一度口を閉ざし、片手で顔を覆う。ゆっくり息を吐きだした後、玲旺の顔を見ないまま再び口を開いた。
「桐ケ谷、ごめん。俺……今から最低なこと言うけど、不愉快だったらこのまま帰って」
「いいよ。言ってみろよ」
強がったものの、内心何を言われるのかビクビクしながら身構えた。久我が最低と言うのなら、きっと本当に最低なんだろう。目をつむった久我は眉間の皺を深める。
「今部屋に入れたら、俺は間違いなくお前を抱き潰す。自制できる自信がない。責任は一つも負えないのにだ。この先お前と付き合う気はない。恋人にはなれない。なのにお前は一方的に搾取されるだけ。そんなの、耐えられる?」
衝撃的な単語が続いて、玲旺の思考が停止しそうになる。思った以上に最低だ。
「えっと……俺は、ヤリ捨てられるってこと?」
久我の言うことを何とか理解しようとした結果、出てきた言葉はそれだった。
「そう。そんな扱い、お前に相応しくないよ。俺はこれからもお前を弟として大事にしたい。それじゃダメか?」
「うん。それじゃ……ダメだ」
酷いことを言われているのに、胸の奥が痛いほど疼く。今まで燻っていたものに一気に火が付いて燃え上がるようだ。久我と一夜でも結ばれるなら、傷ついてもかまわない。
「今だけでいい。最低でもいい。お願い、俺を抱いてよ」
気付くと久我に電話をかけていた。足は勝手にタクシー乗り場へと向かっている。コール音がもどかしく、早く早くと気持ちが急いた。
『もしもし。……ごめん、見合いの邪魔する気はなかったんだけど、どうしても気になって。電話していて大丈夫?』
電話に出た久我は、酷く躊躇っているように感じられた。
「さっき終わったとこ。どうしたの?」
『あのさ、今どこにいる? 少しでいいから会えないかな』
「それなら久我さんの家、行って良い? タクシーなら直ぐだから」
少しの間沈黙が続いて、久我が悩んでいるのが電話越しでも解った。
『俺がそっちに行くよ。外で会おう』
「ううん。嫌だ、久我さんの家が良い。って言うか、もうタクシー乗っちゃったし。マンションに着いたらまた連絡するから」
本当はまだタクシーに乗るどころかロビーにすら辿り着いていなかったが、玲旺は一方的にまくしたてた。久我の「わかった」と言う声を聞いてホッとしながら電話を切る。
嬉しい、と言う感情で爆発しそうだった。
久我が会いたいと言ってくれた。見合いを気にしてくれていた。
嬉しい。嬉しい。
やっと気持ちに応えてもらえる。
飛び乗ったタクシーに行き先を告げ、思った以上に浮かれている自分の声に驚いた。久我のくれたメッセージを開いて指でなぞり、赤信号に捕まる度に恨めしく信号機を睨む。
漸く着いたマンションのエントランスでインターフォンを押し、モニター越しに映る自分の顔がにやけないようにグッと奥歯を噛んだ。
『早かったな』と久我は驚きながら自動ドアを解錠したが、玲旺は遅いくらいだと速足で奥へ進む。エレベーターの到着を待つ時間さえもどかしい。
玲旺が部屋の前に着くと、チャイムを鳴らす前に扉が開いた。普段見慣れたスーツではなく、クルーネックのカットソーに細身のデニム姿が新鮮でドキリとする。
扉は薄くしか開かれず、玲旺は部屋の中に入れないままマンションの廊下から久我を見上げた。久我は苦しそうに眉を寄せ、唇を噛んで目を伏せる。
「家じゃなくていいだろ。腹減ってない? 外で飯食おうよ」
「嫌だってば。中に入れてよ」
引き下がらない玲旺に、久我は困ったように首筋をさする。この期に及んでまだ迷っているのが手に取るようにわかった。
「本当に部屋に入れたくなかったら、エントランスの前で待ってればよかったじゃん。でも久我さんは部屋にいて、今こうしてドアを開けた。もう、それが全てじゃない?」
業を煮やして玲旺が扉に手をかけ、強引に押し入ろうとする。久我が慌ててそれ以上扉が開かないようにドアノブを押さえた。
久我は何か言いかけて一度口を閉ざし、片手で顔を覆う。ゆっくり息を吐きだした後、玲旺の顔を見ないまま再び口を開いた。
「桐ケ谷、ごめん。俺……今から最低なこと言うけど、不愉快だったらこのまま帰って」
「いいよ。言ってみろよ」
強がったものの、内心何を言われるのかビクビクしながら身構えた。久我が最低と言うのなら、きっと本当に最低なんだろう。目をつむった久我は眉間の皺を深める。
「今部屋に入れたら、俺は間違いなくお前を抱き潰す。自制できる自信がない。責任は一つも負えないのにだ。この先お前と付き合う気はない。恋人にはなれない。なのにお前は一方的に搾取されるだけ。そんなの、耐えられる?」
衝撃的な単語が続いて、玲旺の思考が停止しそうになる。思った以上に最低だ。
「えっと……俺は、ヤリ捨てられるってこと?」
久我の言うことを何とか理解しようとした結果、出てきた言葉はそれだった。
「そう。そんな扱い、お前に相応しくないよ。俺はこれからもお前を弟として大事にしたい。それじゃダメか?」
「うん。それじゃ……ダメだ」
酷いことを言われているのに、胸の奥が痛いほど疼く。今まで燻っていたものに一気に火が付いて燃え上がるようだ。久我と一夜でも結ばれるなら、傷ついてもかまわない。
「今だけでいい。最低でもいい。お願い、俺を抱いてよ」
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