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◇最終章 されど御曹司は◇
セカンドライン①
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「しかし残念でしたね。あと一ヵ月お戻りが早ければ、代々木で行われた東京コレクションに出席できましたのに。とても素晴らしかったですよ」
空港まで迎えに来た藤井は、玲旺が車に乗り込むなり残念そうな顔をした。玲旺は久しぶりの日本の景色を窓越しに楽しみながら、「手が離せない案件があってさ」と微笑む。
「でも、コレクションは動画配信でちゃんと観たよ。他の有名ブランドと堂々と肩を並べて、凄かった。氷雨さんがデザインした服はどれも人気が出そうだよね。ランウェイを歩いた氷雨さんもカッコよかったなぁ」
裏方で指揮を執る久我の、生き生きした姿が目に浮かぶ。
少しだけ色づいた銀杏並木を車の中から見上げ、それから思い出したように手にした雑誌をパラパラめくった。表紙には『大注目frozenrain特集』と太文字で大きく書かれている。
普段フォーチュンが掲載されるのはセレブカジュアル系のモード誌だが、玲旺が手にしているのはティーン向けのファッション雑誌だった。
玲旺がロンドンに渡った後、久我は氷雨を専属デザイナーに迎えて、フォーチュンのセカンドライン『フローズンレイン』を立ち上げた。
セカンドラインとは、オリジナルブランドの高級感やイメージを損なわずに既存の顧客は確保したまま、新しく若い世代も販売対象に取り込むために作られた、もう一つのブランドだ。
服のテイストをガラリと変え、価格をぐっと抑える事で、今までフォーチュンに興味が無かった層や高額で手が出せなかった新規の顧客を獲得する。そんな久我の戦略は大当たりした。
ファッションアイコンとして絶大な人気と知名度を誇る氷雨がフォーチュンの傘下で服を作ることによって、低価格にもかかわらず安っぽさは払拭され、フローズンレインの価値は高められる。
服や小物は可愛い中にもどこか毒を持ったアクセントがあり、ユニセックスなデザインは購買層を一気に拡大していった。
男女兼用のワイシャツは、裾をめくると血痕を模した刺繍があったり、ポケットの部分に銃創があったり、袖口の裏に模様があったりと遊び心満載なデザインだ。
当初想定していたのは制服アレンジでの着用だったが、中高生にはもちろん、社会人にも飛ぶように売れ、品切れ状態が続いている。
低価格に抑えるため生地は本家に劣るものの、縫製技術はそのままなので、今までフォーチュンに憧れはあったが中々手が出せなかった層が試しに購入しているらしい。そこで着心地が良いと評判になり、本家フォーチュンのワイシャツまで販売数が伸びた。
「久我さんは次に何を仕掛けるんだろうね。やり甲斐あるだろうな。羨ましい」
雑誌を眺めながら玲旺が呟くと、藤井が「おや?」と片眉を上げた。
「玲旺様、久我とは連絡を取っていらっしゃらないのですか?」
「うん。日本を離れてからは全く」
「では、今日帰国することも?」
「伝えてないから知らないだろうねぇ。氷雨さんにも言ってないし」
玲旺はビルの屋上にフローズンレインの看板を見つけて、後部座席の窓を降ろした。湿った空気が車内に入り込み、玲旺の前髪を巻き上げる。
「隣にいたかったな……」
小さな独り言は風に流された。
空港まで迎えに来た藤井は、玲旺が車に乗り込むなり残念そうな顔をした。玲旺は久しぶりの日本の景色を窓越しに楽しみながら、「手が離せない案件があってさ」と微笑む。
「でも、コレクションは動画配信でちゃんと観たよ。他の有名ブランドと堂々と肩を並べて、凄かった。氷雨さんがデザインした服はどれも人気が出そうだよね。ランウェイを歩いた氷雨さんもカッコよかったなぁ」
裏方で指揮を執る久我の、生き生きした姿が目に浮かぶ。
少しだけ色づいた銀杏並木を車の中から見上げ、それから思い出したように手にした雑誌をパラパラめくった。表紙には『大注目frozenrain特集』と太文字で大きく書かれている。
普段フォーチュンが掲載されるのはセレブカジュアル系のモード誌だが、玲旺が手にしているのはティーン向けのファッション雑誌だった。
玲旺がロンドンに渡った後、久我は氷雨を専属デザイナーに迎えて、フォーチュンのセカンドライン『フローズンレイン』を立ち上げた。
セカンドラインとは、オリジナルブランドの高級感やイメージを損なわずに既存の顧客は確保したまま、新しく若い世代も販売対象に取り込むために作られた、もう一つのブランドだ。
服のテイストをガラリと変え、価格をぐっと抑える事で、今までフォーチュンに興味が無かった層や高額で手が出せなかった新規の顧客を獲得する。そんな久我の戦略は大当たりした。
ファッションアイコンとして絶大な人気と知名度を誇る氷雨がフォーチュンの傘下で服を作ることによって、低価格にもかかわらず安っぽさは払拭され、フローズンレインの価値は高められる。
服や小物は可愛い中にもどこか毒を持ったアクセントがあり、ユニセックスなデザインは購買層を一気に拡大していった。
男女兼用のワイシャツは、裾をめくると血痕を模した刺繍があったり、ポケットの部分に銃創があったり、袖口の裏に模様があったりと遊び心満載なデザインだ。
当初想定していたのは制服アレンジでの着用だったが、中高生にはもちろん、社会人にも飛ぶように売れ、品切れ状態が続いている。
低価格に抑えるため生地は本家に劣るものの、縫製技術はそのままなので、今までフォーチュンに憧れはあったが中々手が出せなかった層が試しに購入しているらしい。そこで着心地が良いと評判になり、本家フォーチュンのワイシャツまで販売数が伸びた。
「久我さんは次に何を仕掛けるんだろうね。やり甲斐あるだろうな。羨ましい」
雑誌を眺めながら玲旺が呟くと、藤井が「おや?」と片眉を上げた。
「玲旺様、久我とは連絡を取っていらっしゃらないのですか?」
「うん。日本を離れてからは全く」
「では、今日帰国することも?」
「伝えてないから知らないだろうねぇ。氷雨さんにも言ってないし」
玲旺はビルの屋上にフローズンレインの看板を見つけて、後部座席の窓を降ろした。湿った空気が車内に入り込み、玲旺の前髪を巻き上げる。
「隣にいたかったな……」
小さな独り言は風に流された。
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