魔王の子育て日記

教祖

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波乱

痕跡 その5

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 兵士たちは縦二列で横並びに控えた。
 「これより魔界へ繋がる門を開く。何が起こるかわからん。気を引き締めよ」
 「「「了解っ!」」」
 朱雀は正面に向き直ると巻物に目を落とす。
 黒墨だけで書かれた詠唱文。一言一句違わぬように心に刻む。
 十度目の深い呼吸が終わったとき、朱雀は巻物を巻き、懐へしまった。
 「ご覧にならないのですか?」
 思わず総雲が朱雀に問う。覚えずとも現物を目の前に読み上げる方が都合がいいだろうと思ってのこと。
 「聖術とは難儀なものでな。正しい作法、正しい精神でなければならん。神への祈りの一環なのだそうだ。他国ではそこまで厳しい制約は無いらしいが、我々の神は気難しいようだ」
 呆れるように鼻で笑うと、総雲と村正も自分の後ろに控えるように伝えた。
 二人が下がり、門の痕跡の前には朱雀だけが残った。
 「はじめるぞ」
 朱雀の言葉で辺りには緊張が走る。
 そよ風が木々を揺らす音だけになったのをその場の全員が確認したとき、柏手が二つ響き、言葉は紡がれた。
 
 
 かけまくもかしこ天上てんじょう大神等おおかみたち
 
 力無き我等に慈悲をたま

 成せぬ力を再び顕現せん 

 此の身捧げ御身に祈らば此の願い聞こし召せと畏み畏み申す

 
 独特の調子と語尾を伸ばす発生が印象的な詠唱であった。
 詠唱を終えると朱雀は顔の前で両手の平を合わせ祈りを捧げる。
 すると朱雀の前に淡い紫色の光が集まり始めた。
 陽光に照らされ並の明かりでは視認することも適わないこの場所で、不思議とその光は確かな存在感を放つ。
 光は成長し朱雀の背丈を越える大きさになった。
 その時朱雀の身体がわずかに揺らぐ。
 「朱雀様! いかがなさいましたか」
 村正の問いに朱雀は答えない。揺らぎは徐々に大きくなっていくが、そのたびに姿勢を正し持ち直す。
 光は総雲の頭身ほどまで成長すると形を変え、縦長の長方形――――門を形作る。
 淡かった光は深紫に変わり門をかたどると、やがてそれは光ではなく重々しい門そのものになった。
 門が完成すると筒抜けになっていた枠の中が暗転し闇に染まった。
 「できたのか……」
 村正のこぼした言葉が引き金になったかのように、朱雀は崩れ落ちた。
 「「「っ!?」」」
 皆一斉に朱雀に駆け寄る。
 総雲が朱雀を抱きかかえる。
 「すまない。私もまだまだ鍛錬が足りないようだ」
 弱弱しいながらも朱雀は笑っていた。                                                                                      
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