128 / 133
波乱
誰がために鐘は鳴る その13
しおりを挟む
「無様な姿を見せびらかして同情でも誘う気か? ……何を仕込んだ」
女中の嘲笑はすぐに止んだ。視線が総雲の半身へと吸い寄せられる。
炭化し、元は生身の身体であったとは思えぬ断面に月明りを反射する鉱物が埋まっている。
「討魔石――――彼はそう呼んでいた。貴様のような卑しき魔族が触れれば身を亡ぼす聖なる力を宿した石だ」
総雲の言葉に女中は目を見開いた。しかしそれも一瞬のことで、何かを悟ったように細く息を吐いた。
「……そう。その石もそうだけど、お前の存在が何よりも異常だってことはわかった。よかったわね、この幻想でその姿の意義が見い出せたじゃない」
「……幻想だと?」
「ええ。この世界は幻に過ぎない。間もなく幻は消え、お前は再び魔王様の御前へ拝謁する。その奇跡を享受できたことに感謝なさい」
「知ったことか。それよりもどうだ? 羽虫如きに一矢報いられる気分は。次は首でも刎ねてみるか? もっとも自慢の御髪を割かれても良ければだが」
「忌々しい限りだけど遠慮しておくわ。幻を見せるときは引き際が肝心なの」
女中はそう告げると総雲に背を向け陽炎のように揺らめく平原へ歩みだした。
「待て貴様! 女中!」
「次に会うときは不快な思いをする前に消し炭にしてあげる。それから――――」
――――私はヴィエルよ。羽虫でも名前を覚える頭はあるでしょ?
振り返ることも無く女中――――ヴィエルは揺らめきの中へ姿を消した。
それを待っていたように世界は暗転し、総雲の意識は途絶えた。
意識が闇に溶けるその刹那、総雲は強く誓った。
ヴィエル――――貴様の顎を噛み千切るまで、私は不死身であり続ける。
魔王が膝をつけば従者が黙っていないだろう。ならば魔王を斃した先にはヴィエルとの再戦が見える。
闇が晴れた先、眼前の敵を討つ――――!
闇に包まれたのは刹那か、はたまた悠久か。
己の輪郭さえも曖昧に感じる浮遊感。それが晴れた時には総雲の身体は魔王の元へ走り出していた。
女中の嘲笑はすぐに止んだ。視線が総雲の半身へと吸い寄せられる。
炭化し、元は生身の身体であったとは思えぬ断面に月明りを反射する鉱物が埋まっている。
「討魔石――――彼はそう呼んでいた。貴様のような卑しき魔族が触れれば身を亡ぼす聖なる力を宿した石だ」
総雲の言葉に女中は目を見開いた。しかしそれも一瞬のことで、何かを悟ったように細く息を吐いた。
「……そう。その石もそうだけど、お前の存在が何よりも異常だってことはわかった。よかったわね、この幻想でその姿の意義が見い出せたじゃない」
「……幻想だと?」
「ええ。この世界は幻に過ぎない。間もなく幻は消え、お前は再び魔王様の御前へ拝謁する。その奇跡を享受できたことに感謝なさい」
「知ったことか。それよりもどうだ? 羽虫如きに一矢報いられる気分は。次は首でも刎ねてみるか? もっとも自慢の御髪を割かれても良ければだが」
「忌々しい限りだけど遠慮しておくわ。幻を見せるときは引き際が肝心なの」
女中はそう告げると総雲に背を向け陽炎のように揺らめく平原へ歩みだした。
「待て貴様! 女中!」
「次に会うときは不快な思いをする前に消し炭にしてあげる。それから――――」
――――私はヴィエルよ。羽虫でも名前を覚える頭はあるでしょ?
振り返ることも無く女中――――ヴィエルは揺らめきの中へ姿を消した。
それを待っていたように世界は暗転し、総雲の意識は途絶えた。
意識が闇に溶けるその刹那、総雲は強く誓った。
ヴィエル――――貴様の顎を噛み千切るまで、私は不死身であり続ける。
魔王が膝をつけば従者が黙っていないだろう。ならば魔王を斃した先にはヴィエルとの再戦が見える。
闇が晴れた先、眼前の敵を討つ――――!
闇に包まれたのは刹那か、はたまた悠久か。
己の輪郭さえも曖昧に感じる浮遊感。それが晴れた時には総雲の身体は魔王の元へ走り出していた。
0
あなたにおすすめの小説
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~
絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる