魔王の子育て日記

教祖

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聖護と源太

禁じられた遊び その2

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 「もちろんそんなことを人間達は信じるはずもなく、魔族を手にかけようとした。すると魔族は両の膝を地に着き、右の手に魔術によってナイフを作り出した。それを自害のためのものだと思った人間達は息を飲んだ。しかし魔族のナイフが向かったのは首筋ではなく頭に乗った角だった。『ここで首を落としては其方らに迷惑がかかろう。その上私が女に会うことも叶わん。我々魔族にとって己の角は何よりも大事なものだ。そこで……』二の句を継ぐ前に魔族は自分の角を切り落とした。そして『この角を切り落とすことで私を人間としてこの地にとどまることを許して欲しい』と告げたのだ。」
 「随分ロマンチックな話だな、おい。女のために種族の垣根を越えようとしたってか。男だねえ」
 「流石にそこまでされては何にも言えず、その魔族、いや、元魔族か。は、人として生きることを許されたのだ。そして探し求めていた女を見つけ、夫婦めおととなった」
 「大団円だいだんえんってか。なるほどねえ。なかなかいい話じゃねーか」
 聖護は興味がなさそうに、蚊に刺された痕を掻きながら源太の話を聞き流していた。
 「それならいいんだが、これで終わりじゃない。それから何年か経ったある日、また魔族が攻めてきた。それも前に攻めてきた人数の倍近い数でな。前回の戦いでもギリギリだったのに、それの倍では人間達は成す術なく、次々と殺されていった。最後に残った人間・・は村長ただ一人。魔族らに追い詰められ、ジリジリと後退すると、背中に何かがぶつかった。振り向くとそこには、今は人間となった、元魔族がいた。助けを求めようと手を伸ばすと、元魔族は素早い動きで村長との間合いを詰め、いつの間にか発生させていた右手のナイフを村長の胸に突き立てた。苦しみながら理由を問うと元魔族は言った。『魔族は何があろうとも魔族だ。角を失おうとも、人間とたわむれの日々を過ごそうともな。私は上からの命令を受け、この村を壊滅させるための偵察兵として送られてきたのだ。この村の近況を逐一報告させ、壊滅させる好機を探るためにな。皮肉な生き物だな、人間というのは。情けをかけた者から命を奪われるとは。なんと哀れな死に様だ』そう吐き捨て、元魔族はナイフを引き抜いた。村長は静かに息を引き取った。それから魔族はその村を占拠したが、本国から来た武神によってあえなく排除された。しかし、その村は住人がいなくなり廃村なった。という話だ」
 「なんとも、スッキリしねぇな。この昔話にはどういう意味が込められてんだよ? 普通の子供に話したところで、首を傾げるだろうに」
 そう言う聖護もまた首を傾げている件については、源太はあえて突っ込まなかった。
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