教祖

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プロローグ その6

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 「じゃあ恒例の――――決起集会を行う」
 部長の目つきと声音が変わった。さっきまでマイペースな振舞いは鳴りを潜め、まさに部を束ねる長の姿。先輩たちの顔つきも変わったように見える。あまりの変わり身の早さに呆気にとられる僕を尻目に集会は進んでいく。 
 「今回は後輩もいることだし、振り返りからやっていこうか」
 そう言って部長は内ポケットから取り出したリモコンを家庭科室中央の天井から吊るされているプロジェクターに向ける。同時にホワイトボード前の天井から伸びる紐をくす玉のように勢いよく引き下げてスクリーンを広げた。あ、あれかっこいいけど先生に怒られるやつだ。
 「奇跡の軌跡を見るがいい!」
 口頭で言われて理解に時間がかかるランキングベスト3には入る言葉遊びを披露しながら、部長はリモコンをプロジェクターに向けて部屋の電気を落とした。 
 写し出された映像は暗闇にまばらな拍手だけが響くところから始まった。これは――――劇場か何かだろうか。目を凝らすと幕の下りた舞台を映している映像であることが分かった。少し間が空いて幕が開く。僅かな照明が鈍く照らし出す人影。朧げだったがその輪郭から普通の様相ではないことが明らかだった。周囲のざわつきを制するように、ハイテンポな曲がフェードインしてきた。これは結構前に流行っていたアニメのオープニング曲だ。当時にしては斬新なストーリー展開のアニメで、人気邦ロックバンドがオープニングを担当していたこともあってライト層にも広まるきっかけになった――――らしい。さすがにその時代は僕はまだ小学生でアニメは国民的なもの以外知らなかった時だ。ということは、この映像は結構古いのか。Aメロに入る直前、舞台が一気に明るくなった。照らし出された舞台上の光景は予定調和とも言えるし、或いは予想外でもあるものだった。
 コスプレ。輪郭からある程度予想していたが、異常な輪郭の正体は日常生活ではまず見ない、創作物上の服装を再現していた。いや、それだけではない。見ればコスプレとも形容しがたい姿もある。作業着にガスマスクの物々しい姿の人物が舞台の後方に佇んでいた。まさにカオス。
 再び舞台が暗転すると同時にAメロが始まる。そして、それを合図に舞台上の8人は両手を足元に叩きつけた。たちまち青く発光する両手。そのまま曲に合わせて左右に振り子のように腕を振れば残像が円を描く。たちまち会場内に満ちる歓声。やがてBメロに入れば右手を天に突き上げ、床に突き下ろす。それに合わせて客席からは合いの手が入りボルテージが上がっていく。サビに入った。8人は一糸乱れぬ動きで複雑な動きをこなす。どよめきが絶えず会場の空気は舞台上の8人のものだ。そしてそれはこの家庭科室も同じ。周りを見ずとも誰もが画面から目が離せないことは容易に分かった。なにより、僕自身がそうだ。
 サビに入って分かったが、これはヲタ芸だ。アイドルのライブなどで見られるサイリウムを用いてオタクがアイドルに応援やアピールの意味で行う、一種の求愛行動。しっかり見たのはこれが初めてだ。あの動きはおそらく一般的なそれではなく見せるために改良されたものだろうが、まさかあのヲタ芸が突き詰めれば一種の演目になるとは――――。
 その後も様々な映像が流れた。この家庭科室で宴会をしているホームビデオのようなものから、ここの学生が制服姿でお寺で座禅を組んでいる動画、果ては異常なクオリティの短編映画のようなものまで。次に何が来るのか全く読めなかった。周りの先輩たちは映像が切り変わるたびに「あー」とか「〇〇先輩かこれ?」と、感傷に浸る声を漏らしていた。それはどこかうらやましくもあり、確かながあった。
 画面が暗転すると最後に「楽部」の文字が浮かび上がり動画は終了した。ふと時計に目をやれば見始めてから30分近く経っていた。振り返りと部長は言っていたが、周りの反応を見る限り今の動画はここの部活の活動記録と言ったところだろう。そしてこの部活は「楽部」という名前か。――――なんて読むんだ。
 「さあ、小鳥遊。お前もこの部活に興味が湧いただろう? 一週間で地獄、もとい天国を見せてやろう。いっしょに来い!」
 なんで言い直したんだ。まあ、こう来ると思ったから答えは決めていたんだけど。

 「――――すみませんが、お断りします」
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