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清く正しい乙女の素顔 その1
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この教会には今日も誰一人として敬虔な子羊が訪れることはなかった。
しかしそれも至極当然のことのように思う。
まず外観が問題だ。廃れたと言えば聞こえがいいが、その様は最早荒廃と言って差し支えない。無法地帯だ。
通りに面するガラスは残っている方が珍しいと言えるほど、割られ、風化し室内外問わず破片が散らばっている。かつては清廉潔白な純白を讃えていたであろう外壁は見るかげもなく、罅が前面に駆け巡り、冒涜的に背徳的な教会を彩っている。かつて中庭のステンドグラスに燦然と御身をさらしていた主も聖母も床の塵となって久しい。
そんな無為な時間と不信仰が作り出したあばら家に人影が一つ。
顔以外全身が黒布で覆われ、闇に飲まれかけている亡者と見紛うその姿は、場所が荒廃していながらも教会という体を保っていなければ修道女と認識することは不可能であろう。首から下げられたロザリオの十字架は錆が全体を覆い、地の色を想像することすら難い。
色白の肌に碧眼、ベールの隙間から覗く銀髪、大きな瞳に小さな顔と小柄な体躯。胡乱な表情でさえなければ美少女と呼ばれても大多数が首を縦に振る容姿だ。
窓枠に切り取られた斜め掛けの紅蓮の夕暮れを背負い、シスターは足高のグラスに注がれた琥珀色の液体を一息に流し込む。葡萄酒は彼女の口には合わなかった。
投げ捨てるようにテーブルに放れば、合成樹脂製の大量生産品のグラスは数回跳ねたのちに足を中心に半円を描いて静止した。
乾いた軽薄な音が広いだけの礼拝堂に響き、飲んだくれの酒宴の終わりを告げた。
それに家鳴りが応答する。オリーブ材の扉に小石でもあたったのか、そのひどく控えめで陳腐な音に思わずシスターはケラケラと笑う。
背もたれに上体を投げ出し、大口を開けて笑う様は聖なる修道女ではなく、くそあまであった。
その音はシスターがひとしきり笑い終えた後も続いていた。バラードの三連符のように規則的に、間をおいて断続的に。
気だるげに立ち上がると、タクティカル仕様のレッグホルスターからトカレフを引き抜く。千鳥足で音の発生源へ歩み寄る。不思議なことにシスターの足音は聞こえなかった。
扉の前に立ちおもむろにドアノブに手を掛ける。そして6度目のノックが始まったとき開錠と同時に全身を使って勢いよく扉を開け放つ。
ノックするような距離に立つ相手に全力で扉を押し開けば――――
「がぁっ!?」
腕ごと扉に押しのけられ額と鼻頭をしたたかに打てば、悶絶しながら顔を覆ってうずくまる来訪者の出来上がり。しかも美少女シスターからトカレフを向けられるおまけつき。
「子羊はもう寝てるはずだから、アンタは狼かな。最近の赤ずきんは副業で猟師もやってるってご存じ?」
ハッピーではない、確実な殺意をもって引き金に指が掛けられた。
しかしそれも至極当然のことのように思う。
まず外観が問題だ。廃れたと言えば聞こえがいいが、その様は最早荒廃と言って差し支えない。無法地帯だ。
通りに面するガラスは残っている方が珍しいと言えるほど、割られ、風化し室内外問わず破片が散らばっている。かつては清廉潔白な純白を讃えていたであろう外壁は見るかげもなく、罅が前面に駆け巡り、冒涜的に背徳的な教会を彩っている。かつて中庭のステンドグラスに燦然と御身をさらしていた主も聖母も床の塵となって久しい。
そんな無為な時間と不信仰が作り出したあばら家に人影が一つ。
顔以外全身が黒布で覆われ、闇に飲まれかけている亡者と見紛うその姿は、場所が荒廃していながらも教会という体を保っていなければ修道女と認識することは不可能であろう。首から下げられたロザリオの十字架は錆が全体を覆い、地の色を想像することすら難い。
色白の肌に碧眼、ベールの隙間から覗く銀髪、大きな瞳に小さな顔と小柄な体躯。胡乱な表情でさえなければ美少女と呼ばれても大多数が首を縦に振る容姿だ。
窓枠に切り取られた斜め掛けの紅蓮の夕暮れを背負い、シスターは足高のグラスに注がれた琥珀色の液体を一息に流し込む。葡萄酒は彼女の口には合わなかった。
投げ捨てるようにテーブルに放れば、合成樹脂製の大量生産品のグラスは数回跳ねたのちに足を中心に半円を描いて静止した。
乾いた軽薄な音が広いだけの礼拝堂に響き、飲んだくれの酒宴の終わりを告げた。
それに家鳴りが応答する。オリーブ材の扉に小石でもあたったのか、そのひどく控えめで陳腐な音に思わずシスターはケラケラと笑う。
背もたれに上体を投げ出し、大口を開けて笑う様は聖なる修道女ではなく、くそあまであった。
その音はシスターがひとしきり笑い終えた後も続いていた。バラードの三連符のように規則的に、間をおいて断続的に。
気だるげに立ち上がると、タクティカル仕様のレッグホルスターからトカレフを引き抜く。千鳥足で音の発生源へ歩み寄る。不思議なことにシスターの足音は聞こえなかった。
扉の前に立ちおもむろにドアノブに手を掛ける。そして6度目のノックが始まったとき開錠と同時に全身を使って勢いよく扉を開け放つ。
ノックするような距離に立つ相手に全力で扉を押し開けば――――
「がぁっ!?」
腕ごと扉に押しのけられ額と鼻頭をしたたかに打てば、悶絶しながら顔を覆ってうずくまる来訪者の出来上がり。しかも美少女シスターからトカレフを向けられるおまけつき。
「子羊はもう寝てるはずだから、アンタは狼かな。最近の赤ずきんは副業で猟師もやってるってご存じ?」
ハッピーではない、確実な殺意をもって引き金に指が掛けられた。
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