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第3話 運命の人
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わたくしは、四ノ宮家のただ一人のお子様でいらっしゃいます貴美子様にお仕えしていました。そのお家柄は、ずっと以前からこの家にお仕えしていた関係から、わたくしがこのお屋敷に採用されたのでございます。
先ほどに申しましたように、当時の華族の世界は、ある意味におきましても独特の社会でございました。このお話は、その頃にまつわる数々の華麗なるお話でございます。
いつの時代でも、その移り変わるときには、生じるさまざまな出来事があるのです。特にこの時代の目まぐるしく変わる様は激しいものがございました。それはまさに文明開花の夜が明けるという言葉で表現されておりましたが。それは長く続いた幕府の時代から、西洋の文化を取り入れた新しい時代の到来に於ける摩擦とでも申しましょうか。
新しいものに敏感な方々は、着物から洋服と言う目新しいものを取り入れていました。特に女性においては、日本髪を結い直し、髪を長くしてお人形さんのような美しい洋服を着て颯爽と歩いていらっしゃいます。
しかし、わたくしなどから見ると、それはとても滑稽に見えるのでございます。
また、男子におきましてもこんなこともございました。昨日まで頭にちょんまげを結い、袴を身に付けていた方が髷を切りザンバラな頭で、なにやらズボンとやらの細いものを身に付けているのを見たときには、思わず吹き出してしまいました。わたくしに言わせますと、何も古いものにしがみついていればいい、と言っているのではございません。
ものには段階というものがございます、ちゃんと全体の様子を見ながら見苦しくない程度に装いをすれば良いのでございます。美しい出立ちと言いますのは、よそおい、身づくろい、こしらえ、とも申します。そして、身だしなみとは身の回りについての心がけを申すのでございます。これらのことは昔から女子のたしなみとして言い伝えられたのでございます。
しかし、最近の婦女子の西洋にかぶれたあの出立ちはとても褒められるものではございません。まことに嘆かわしいかぎりでございます。そのようななかにおきましても、貴美子様はいつもお人形さんのように、おしとやかにしていただけではございません。その時の女子がたしなむ色々な作法を身に付けておりました。その中のひとつに和歌がございます。
和歌は短歌型式の古典詩で、広義におきましては万葉集に収められております歌体の総称だそうでございます。貴美子様も和歌をたしなんでおられましたが、とくに新古今和歌集がお好きでございました。
いにしえの方々がお詠みになられた和歌を口ずさみ、おりに触れてご自分でも詠んでおられましたから。今もわたくしは、貴美子様が詠まれた和歌が好きなのです。
あなた様もそれをお知りになりたいのでしょう。
はい、その二首をお伝えいたします。
「早春に 降る遅雪は やわらかく 手のぬくもりで すぐに消えゆく」
「ひと肌を 恋しと想ふ 秋の日の そっとひもとく いにしえのふみ」
二つ目の和歌は、貴美子様がお好きになられた方を想いながら詠まれたそうでございますが、この恋も成就することはなかったようでございます
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はい、その二首をお伝えいたします。
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