いつかの記憶

いつかのその日まで

壊れた。暗い隙間の間から真紅の木の実がこぼれて落ちていく。落ちた先は何も見えない。静かな静かな何が眠るか分からない果てをひたすらに落ちていく。
気は確かだっただろうか。何度これを繰り返すのだろうか。意識の外にある記憶がふと蘇る。
目の中にある温度は変わらずあるがまま残り続けた。ここは何処でここはなんの寛ぎが有るのだろう。
一人暗い闇に蹲っている少女は悲しそうに笑みを。何故泣いているの。何故。どこを見ているの。耳元に届かない唄を聴かせてみようとしても聴こえていないらしい。
一言でいい。一言でいい。ただ抱きしめて一言耳元で囁いて。それだけでいい。
目頭は熱くなり口に流れる生温い血液には少し塩気が残る。
胸の内は膨れ上がりこれで良かったと納得の雨が大量に抱きしめてくれた腕に降り注ぐ。
離さないで。離れないで。僕はここがいい。この場所がいい。安心するんだ。怖くないんだ。ただそっと寄り添ってくれるだけで。これ以上に幸せなことなど他にない。
いつか消えて無くなってしまうのか。悲しい。悲しいね。だけど今は今だけはその温もりに僕を埋めさせて。
満たない胸のうちは震えていつの日か枯渇し乾いて消える。 
いつかいつの日か満ちてくれれば。蓋をした脈は熱くなった。
手をつかもうとしても握れなかった。暗闇に落下する閃いた瞳は微かに残る光と消えた。
消えてしまった。その瞳の光は何処へ。拾い集める。拾い集めなければならない。いつか記憶にあるその体温を待ち侘びて。いつかいつかまた思い出せる日が来る。いつかのその日まで。