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出発前夜
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「明日発つなんて、どうして知らせてくれなかったの!?」
ワラキアがドアを開けると、叫びながら飛び込んできたのはさんろ。
「だって知らせたら、こうやって騒ぐだろうが」
ワラキアは表情一つ変えない。
さんろは頬を膨らませた。
「まったく~今日は泊まるつもりで来たからね、明日一緒に空港まで行くんだから」
「別にいいけど、荷造りしちまったから客用の布団ないぞ?」
「大丈夫だよ、僕ワラキアと一緒に寝るから」
さんろはそう言って悪戯っぽく笑う。
「やめてくれ、ガキの頃とはわけが違うんだ」
「えー、たまには昔みたいに一緒に寝たかったのに……でも、寝て起きたらお別れなんて、嘘みたいだね。僕は、ずっとずっと、ワラキアのそばにいたかっ……」
言葉を遮るかのように塞がれた唇。しばしの静寂に心音は不似合いなほど大きくて。
そしてしばらくの後、離れた唇は小柄な彼の耳元へと寄せられて。
「なら寝なきゃいいんじゃねーの?」
そう囁く声に、さんろは顔を真っ赤にして目をそらす。
「寝なければいい」と繰り返してワラキアはそこで初めてふっと笑った。
朝までは、まだ十分の時間があるのだから。
ワラキアがドアを開けると、叫びながら飛び込んできたのはさんろ。
「だって知らせたら、こうやって騒ぐだろうが」
ワラキアは表情一つ変えない。
さんろは頬を膨らませた。
「まったく~今日は泊まるつもりで来たからね、明日一緒に空港まで行くんだから」
「別にいいけど、荷造りしちまったから客用の布団ないぞ?」
「大丈夫だよ、僕ワラキアと一緒に寝るから」
さんろはそう言って悪戯っぽく笑う。
「やめてくれ、ガキの頃とはわけが違うんだ」
「えー、たまには昔みたいに一緒に寝たかったのに……でも、寝て起きたらお別れなんて、嘘みたいだね。僕は、ずっとずっと、ワラキアのそばにいたかっ……」
言葉を遮るかのように塞がれた唇。しばしの静寂に心音は不似合いなほど大きくて。
そしてしばらくの後、離れた唇は小柄な彼の耳元へと寄せられて。
「なら寝なきゃいいんじゃねーの?」
そう囁く声に、さんろは顔を真っ赤にして目をそらす。
「寝なければいい」と繰り返してワラキアはそこで初めてふっと笑った。
朝までは、まだ十分の時間があるのだから。
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