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第一章 私を陥れたのは誰?
聖女降臨 完全覚醒(1)
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これは私の前世の記憶だ。3日前から続く記憶の断片が蘇るような出来事が続いたあと、不意に私に完全な記憶が蘇った。ファーストフード店でいつものようにバイトをしていたら、いきなり稲妻に打たれたようや衝撃を受けた。
一気に何もかも思い出したのだ。
◆◆◆
昨日まで使えた力が使えない。最愛の人に裏切られた心の痛みで私はどうにかなってしまったようだ。私は地下牢に閉じ込められた聖女。壁の高いところに地上の光が差し込む窓がある。鉄格子がはまっている。そこに小さな緑色の鳥が姿を現した。
なぜか、今は擬態のスキルが使えない。私はうずくまり、ただ小さな美しい鳥を眺めるだけだ。
聖女は人を貶めるためには力が使えない。でも、自分の身を守るためには力を使えたはずなのに、ヒューの顔が心に浮かぶたびに涙が込み上げてきてやるせなさと無力感で私の心は乱れて、本来あったはずのスキルがまるで使えなくなった。
ヒューは私の恋人だった。この国の王子だ。彼から愛を告白されて結婚の約束をした。私たちの出会いは聖女と王子として出会った。各地を馬車で周り、その地にあった民を豊かに幸せにする方法を話し合った。
どこまでも続く灰色の空と灰色の大地。地平線まで続く灰色を見つめながら、私はその地の活かし方を聖女として王子であるヒューに提案した。そして抱きしめられて愛を囁かれた。
◆◆◆
「ここよ」
私は振り返って、馬車から降りてきたゴージャスな彼に笑いながら言っている。
「君のスキルだと、ここがそんなに素晴らしい大地になると予測できるのか。聖女のスキルはどれほどあるのだろう」
ヒューだ。私の目には彼は愛しいヒューに見えた。
美しい髪と美しい瞳と美しい鼻筋、何もかもが愛しいと思えた。
思い出の中でヒューの顔を思い出すと、私の胸が震えて泣きたくなる。嗚咽が込み上げる。唇が震える。身を貫くような痛い思いで呼吸が乱れる。とても彼のことが好きだったのだ。彼にフラれて裏切られたのは信じがたいほど惨めで、この世の終わりのように感じた。
この時はヒューの私を見つめる瞳は愛に溢れていた。
「この土地で金を借りることなく、豊かな国になることができると?」
私はヒューの問いにうなずき、馬車の向こうに見える山をまっすぐに指差した。
「あれは鉱山よ。銀が採れるわ。この国を豊かにしてくれるはずよ」
いつの間にか私はヒューに抱き抱えられていた。ヒューは私を抱いてくるくるとその場で回った。私のドレスの裾が風にはためく。どこまでも続く灰色の空の下で私たちは笑い声をあげていた。
ヒューの唇が私の唇に重なり、私はそれにしっとりと応えた。
ヒューの唇が離れると、そっと小さな声で私は聞かれた。
「結婚してくれる?聖女様。今夜の舞踏会で発表したいんだ。父と母には帰ったらすぐに報告したい。どうか僕の切なる願いを、了承してくれないだろうか」
私は喜びで胸がいっぱいになり、舞い上がった。ふわふわとした温かい気持ちが私の胸を満たして、私はこの上ない幸せに包まれた。どこまでも続く灰色の大地は私の幸せの瞬間の記憶だ。
「舞踏会で発表するの?」
私は照れ隠しにそれだけ言った。
「結婚の申込に対する返事は承諾したということかな?ヴァイオレット聖女様」
ヒューは私の目をのぞき込んだ。彼の瞳が期待で輝いている。私は彼の唇に口付けをして、もっと抱きついた。彼の心臓の音が聞こえるぐらいに。
彼の服の胸のレースフリルは、素晴らしくゴージャスだ。細かい刺繍がされている。
「もちろんよ!あなたと結婚できるなんて信じられないほど幸せよ」
私は王子との結婚を承諾した。
◆◆◆
舞踏会では華々しく聖女である私と王子の婚約が発表された。私は親友のマルグリッドに抱きしめられて祝福された。ルネ伯爵家の末娘のマルグリッドは丸顔で愛らしい頬をした背の低い令嬢だが、よく気が効いて、周囲のみんなに愛される令嬢だった。
この時のマルグリッドの淡いピンクのドレスは彼女にとても似合っていた。私の薄紫色のドレスよりよっぽど豪華だった。私の実の母は亡くなっていて、継母のルイーズは私より自分の子である妹を可愛がっていたのだ。公爵令嬢なのに、私は十分なドレスの支度ができなかった。
でも、ヒューはそんな私のそのままを愛してくれていると思っていた。
様子がおかしくなったのはいつからだったのだろう?私は牢獄の中で記憶を振り返った。私が言ってもない言葉を聖女である私が言ったと影口が世間に回り始めたのはいつからだったのだろう?
私は最初は気にもしなかった。幸せだったから。聖女として忙しかったから。でも、ある時から土地を回る人物がヒューから国王の甥のアルフレッドに変わった。
私はそれでも気にしなかった。ヒューは王子だから、別の仕事で忙しいという説明を鵜呑みにした。
ある日、アルフレッドが私に紹介したのが隣国の大臣だということに気づかなかった。
聖女は人を疑わない。聖女は人を陥れない。
私は聖女だったから、アルフレッドを信じていた。ヒューも信じていた。人の心は聖女であった私には難しすぎた。最愛の人が心変わりをするということを知らなかった。私の継母はずっと私のことを嫌っていたし、私の親友のマルグリッドは私にずっと親切だった。人は変わらないと思っていた。
でも、本当は心変わりする人間自身を理解できなければ、誰のことも救えないのかもしれない。
私は聖女として失格だ。自分が振られたぐらいで力を失った聖女なんて、偽物だ。
私は牢獄でそう思った。
婚約破棄をヒューに言い渡されたのは、牢獄に入る直前だ。ヒューは私に猛烈に怒っていた。私の弁解に聞く耳を持たなかった。誰がヒューにそんな嘘を信じ込ませたのだろう?私はヒュー以外の誰とも愛を誓ってなどいない。誰とも一夜を共にしていない。私は潔白だ。それなのに、彼は証拠を見せられたと言って聞いてくれなかった。誰に見せられた証拠なのだろう?
バリドン公爵である父、執事のハリーが私に会いにきた。私の家庭教師だったパンティエーヴルさんと侍女のアデルが私の見舞いに来た。でも、私は力無くうなだれるだけで何も反応できなかった。バリドン公爵家の料理人のベスが腕によりをかけて一生懸命作ってくれたという、私の大好物の非常に高価な砂糖をふんだんに使ったお菓子も差し入れてもらったが、私は手をつけることができなかった。
私は完全に無気力状態に陥っていた。
一気に何もかも思い出したのだ。
◆◆◆
昨日まで使えた力が使えない。最愛の人に裏切られた心の痛みで私はどうにかなってしまったようだ。私は地下牢に閉じ込められた聖女。壁の高いところに地上の光が差し込む窓がある。鉄格子がはまっている。そこに小さな緑色の鳥が姿を現した。
なぜか、今は擬態のスキルが使えない。私はうずくまり、ただ小さな美しい鳥を眺めるだけだ。
聖女は人を貶めるためには力が使えない。でも、自分の身を守るためには力を使えたはずなのに、ヒューの顔が心に浮かぶたびに涙が込み上げてきてやるせなさと無力感で私の心は乱れて、本来あったはずのスキルがまるで使えなくなった。
ヒューは私の恋人だった。この国の王子だ。彼から愛を告白されて結婚の約束をした。私たちの出会いは聖女と王子として出会った。各地を馬車で周り、その地にあった民を豊かに幸せにする方法を話し合った。
どこまでも続く灰色の空と灰色の大地。地平線まで続く灰色を見つめながら、私はその地の活かし方を聖女として王子であるヒューに提案した。そして抱きしめられて愛を囁かれた。
◆◆◆
「ここよ」
私は振り返って、馬車から降りてきたゴージャスな彼に笑いながら言っている。
「君のスキルだと、ここがそんなに素晴らしい大地になると予測できるのか。聖女のスキルはどれほどあるのだろう」
ヒューだ。私の目には彼は愛しいヒューに見えた。
美しい髪と美しい瞳と美しい鼻筋、何もかもが愛しいと思えた。
思い出の中でヒューの顔を思い出すと、私の胸が震えて泣きたくなる。嗚咽が込み上げる。唇が震える。身を貫くような痛い思いで呼吸が乱れる。とても彼のことが好きだったのだ。彼にフラれて裏切られたのは信じがたいほど惨めで、この世の終わりのように感じた。
この時はヒューの私を見つめる瞳は愛に溢れていた。
「この土地で金を借りることなく、豊かな国になることができると?」
私はヒューの問いにうなずき、馬車の向こうに見える山をまっすぐに指差した。
「あれは鉱山よ。銀が採れるわ。この国を豊かにしてくれるはずよ」
いつの間にか私はヒューに抱き抱えられていた。ヒューは私を抱いてくるくるとその場で回った。私のドレスの裾が風にはためく。どこまでも続く灰色の空の下で私たちは笑い声をあげていた。
ヒューの唇が私の唇に重なり、私はそれにしっとりと応えた。
ヒューの唇が離れると、そっと小さな声で私は聞かれた。
「結婚してくれる?聖女様。今夜の舞踏会で発表したいんだ。父と母には帰ったらすぐに報告したい。どうか僕の切なる願いを、了承してくれないだろうか」
私は喜びで胸がいっぱいになり、舞い上がった。ふわふわとした温かい気持ちが私の胸を満たして、私はこの上ない幸せに包まれた。どこまでも続く灰色の大地は私の幸せの瞬間の記憶だ。
「舞踏会で発表するの?」
私は照れ隠しにそれだけ言った。
「結婚の申込に対する返事は承諾したということかな?ヴァイオレット聖女様」
ヒューは私の目をのぞき込んだ。彼の瞳が期待で輝いている。私は彼の唇に口付けをして、もっと抱きついた。彼の心臓の音が聞こえるぐらいに。
彼の服の胸のレースフリルは、素晴らしくゴージャスだ。細かい刺繍がされている。
「もちろんよ!あなたと結婚できるなんて信じられないほど幸せよ」
私は王子との結婚を承諾した。
◆◆◆
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この時のマルグリッドの淡いピンクのドレスは彼女にとても似合っていた。私の薄紫色のドレスよりよっぽど豪華だった。私の実の母は亡くなっていて、継母のルイーズは私より自分の子である妹を可愛がっていたのだ。公爵令嬢なのに、私は十分なドレスの支度ができなかった。
でも、ヒューはそんな私のそのままを愛してくれていると思っていた。
様子がおかしくなったのはいつからだったのだろう?私は牢獄の中で記憶を振り返った。私が言ってもない言葉を聖女である私が言ったと影口が世間に回り始めたのはいつからだったのだろう?
私は最初は気にもしなかった。幸せだったから。聖女として忙しかったから。でも、ある時から土地を回る人物がヒューから国王の甥のアルフレッドに変わった。
私はそれでも気にしなかった。ヒューは王子だから、別の仕事で忙しいという説明を鵜呑みにした。
ある日、アルフレッドが私に紹介したのが隣国の大臣だということに気づかなかった。
聖女は人を疑わない。聖女は人を陥れない。
私は聖女だったから、アルフレッドを信じていた。ヒューも信じていた。人の心は聖女であった私には難しすぎた。最愛の人が心変わりをするということを知らなかった。私の継母はずっと私のことを嫌っていたし、私の親友のマルグリッドは私にずっと親切だった。人は変わらないと思っていた。
でも、本当は心変わりする人間自身を理解できなければ、誰のことも救えないのかもしれない。
私は聖女として失格だ。自分が振られたぐらいで力を失った聖女なんて、偽物だ。
私は牢獄でそう思った。
婚約破棄をヒューに言い渡されたのは、牢獄に入る直前だ。ヒューは私に猛烈に怒っていた。私の弁解に聞く耳を持たなかった。誰がヒューにそんな嘘を信じ込ませたのだろう?私はヒュー以外の誰とも愛を誓ってなどいない。誰とも一夜を共にしていない。私は潔白だ。それなのに、彼は証拠を見せられたと言って聞いてくれなかった。誰に見せられた証拠なのだろう?
バリドン公爵である父、執事のハリーが私に会いにきた。私の家庭教師だったパンティエーヴルさんと侍女のアデルが私の見舞いに来た。でも、私は力無くうなだれるだけで何も反応できなかった。バリドン公爵家の料理人のベスが腕によりをかけて一生懸命作ってくれたという、私の大好物の非常に高価な砂糖をふんだんに使ったお菓子も差し入れてもらったが、私は手をつけることができなかった。
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