【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

文字の大きさ
22 / 75
第二章 二度目の人生 リベンジスタート

ルネ伯爵令嬢マルグリッドの疑惑(2)

しおりを挟む
 ルネ伯爵令嬢のマルグリッドはプリンがもっと食べたくて、給仕に頼んでいた。私はその姿をスマホにこっそり撮った。

 お肉をもっと食べたいらしく、席をたち、料理人たちが肉を焼いている火のそばに近づいた。私はそれもスマホに撮った。ここまでは別に自然だ。

 ルネ伯爵令嬢のマルグリッドが急に振り返って私の名前を呼んだ。

「ヴァイオレット様!一緒に食べましょう!」

 愛らしい頬を赤く染めて、マルグリッドはニコニコして私を呼んだ。私は動画撮影ボタンを押してそのままマルグリッドに近づいて行った。

「ほら!たくさん食べましょうよ!とっても美味しいですわ」

 マルグリッドが私に呼びかける。マルグリッドの侍女が私の背後にいた。

 継母のルイーズが私に注意をした。

「ヴァイオレット、火からもっと離れなさいっ!」

 プリンを持ってきたバリドン公爵家の給仕の者とルネ伯爵家の侍女がぶつかり、ルイーズの声で後ろに後ずさった私がそれにぶつかった。勢いで私は火の中に押し出された。

 エメラルドのドレスに瞬く間に火がついた。皆の悲鳴が聞こえる。

 ――痛い!死ぬほど痛い!

「Lvl12の水の精にタスクを命じますか?」
「命じます!」

 私は頭の中で聞こえた声に応えた。

 私のエメラルドのドレスから瞬く間に火が消えた。私の赤く焼けた皮膚が見える。

「Lvl8の沈静力を使いますか?」
「使います!」

 ジリジリと死ぬほど痛かった肌から痛みが少しずつ消えた。真っ赤になった皮膚から赤みが少しずつ消えていく。ほんの一瞬のことで、私はそもそもこうなることを知っていた。だから、前よりずっとスムーズにスキルを発動した。訓練を受けた記憶も残っている。16歳の私のスキルが完璧に仕上がっていなくても、私は聖女の訓練を受けた後の状態だった。

「ヴァイオレット!」

 真っ先に走って駆け寄ってきたのは、継母ルイーズと父だった。

 ルネ伯爵令嬢のマルグリッドは呆然と私を見ていた。ルネ伯爵家の侍女も、バリドン公爵家の給仕も料理人もあまりの出来事に、驚きのあまり身動きが取れない様子だった。

「まぁ!ヴァイオレットは聖女だわ」

 シャーロットおばさまの震えるような声が聞こえた。ゼルニエ公爵夫人のおばさまと、その夫のゼルニエ公爵が真っ青な顔をして私に駆け寄ってきた。

「ヴァイオレットは無事なんだな!?」

 あたりに轟くような声で叫んだのは、バリドン公爵の祖父だ。

「はい!ヴァイオレットお嬢様はご無事でございます!」
「お父様、ヴァイオレットは無事です!」

 一気にあたりに私の無事を確かめ合う声が溢れた。私はそっと父に抱き抱えられて、「ハリー!医師を呼んでちょうだい!」と叫ぶ継母ルイーズの声で執事のハリーが駆け出すのが分かった。今の動きだけで、継母ルイーズが犯人ではないと断言はできないが、少なくともルイーズは今回の件には無関係に見えた。

 だが、マルグリッドは分からない。無邪気な様子で私を心配している顔のマルグリッドをチラリと見ながら、私は父によって屋敷の中に担ぎ込まれた。

 ヒューは、もしかすると犯人側ではないのかもしれない。マルグリッドが今の火傷騒ぎを演出した疑惑がやはりある。ヒューはこの場にいなかったし、この時点では私に会ったことすらない。

 私はヒューに会いたいと思ってしまった。早くこの世界から抜け出して、元の世界に戻りたい。20歳の苦学生の私は、この世界の恐ろしさにひるみそうだった。

 ガラスの馬車はバリドン公爵家には存在するが、あの20歳のバイトをする私が知っている素敵なヒューはここにはいない。

 マルグリッドのことをあのヒューと魔導士ジーニンに報告するには、あと5日をこの世界で過ごすのだ。

 明日は16歳のヴァイオレットが聖女候補になったとして、サミュエルが御者を務めるガラスの馬車に乗って宮殿に行く。国王に挨拶をする日だ。私に処刑を命じたあの国王だ。

 国王が私を処刑する理由は何だったんだろうか。単に虚偽の報告に騙されただけなのだろうか。

 会うのが怖い人だ。平常心を保つよう、私は自分に言い聞かせた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...