【完結】世界転生バイトですが、裏切られて捨てられた公爵令嬢の聖女と私を煽てるあなたは恋愛詐欺師ですか?知りませんが、幸せな花嫁になるので!

西野歌夏

文字の大きさ
46 / 75
第二章 二度目の人生 リベンジスタート

トラウマ克服と恋 ヴァイオレットSide

しおりを挟む
 頭の中はいつまでも真っ白で静かだ。パニックになりそうだ。私は馬車の中で立ち上がって天井に思いっきり頭をぶつけた。

「とみ子ー来い!!!」

 両手を天井にあげて空に向かって突き上げ、ぐいっと腰まで引き下ろす仕草をして叫んだ。

「お……お嬢様っ!?」

 ジョセフは動揺してあたふたしている。私の行動を目を見張って見つめている。

 まだ頭の中は静かだ。何も聞こえない。

 目を瞑る。右手をまっすぐにあげて人差し指を立てる。左手は下に真っ直ぐに下げて、やはり人差し指を立てて地面に向けた。天井にぶつかるので私は中腰になっている。色んな人が占ってもらうテレビ番組で、占い師がご利益のある神社の前でやっていたポーズが頭に浮かんでとっさに真似をした。もう、神頼みだ。

「来い!来い!来いっ!」

 叫びながら天に向かって念じる。馬車の天井が一気に吹き飛んだ。私の右手の人差し指から、ピリピリと何かが空に向かって放出されているのを感じた。

 ――もう少しだ。もう少しっ!そうよ、もう少し!

 竜巻のような風が巻き起こり、馬車の中に舞い込んだ。私の髪の毛は渦を巻く風になびいて乱れた。

「お……お嬢様っ、花びらとゴミが舞い込んできておりますっ!」

 ジョセフが悲鳴をあげた。ジョセフよ、もっと綺麗な表現はできぬのか。

「ステータス!オーーーーーーーーープンっ!!!!!!!!」

 お腹の底から声を張り上げた。カッと目を見開くと数百のスキル一覧が出現した。どうやら、ヴァイオレットは熱心に王立修道院でスキル磨きに勤しんでいたようだ。

 よくやった!

『Lvl11万9264の蘇生術を使いますか?』
「使いますっ!」

 ふぁっ!!

 突然、目の前の御者席で血を流した状態で力無く横たわっていたレキュール辺境伯エリオットが息を吹き返した。

『Lvl11万9264の治癒修復術を使いますか?』 
「使いますっ!」

 エリオットの碧い瞳に力がみなぎり、胸の短剣がポロリと御者席に転がり落ちて胸の血が消えてみるみる傷が塞がっていく。

『Lvl2万2の擬魂追跡術を使いますか?』 
「使います」

 ジョセフの顔の周りに薄青い靄のようなものが出現して、それを追って矢の影のようなものが馬車の外まで飛んで行った。犯人の追跡を開始したようだ。隣国のカール大帝の弟のルノー・ガクセン・ハンリヒに雇われた術師に辿り着くだろうと私は推測している。

 ――お願いだから、マルグリッドは無関係でいて。

 私はそう思ったが、分からない。彼女につける薬などないのかもしれないから。

「そーんなに派手な演出しなくても……」

 くしゃくしゃのブロンドの髪の毛をかきあげながら、頬に赤みが戻ったハンサムなレキュール辺境伯が私をイタズラっぽく見ながら微笑んだ。彼はもう平気そうだ。

「エリオット!純斗……そこにいる?」

 私は泣きたくなるほど安堵して目の前の爽やかな男性に聞いた。

「いるよ。両方。ヴァイオレット、ありがとう。命を助けてもらった」

 私は唇を震わせて泣いた。ジョセフは私の隣で気を失ったようだ。

「良かった……良かった……また、失敗するかと思った」

 私は泣きじゃくった。大粒の涙が溢れてきて、みっともないと分かっているのに泣くのをやめられない。嗚咽が漏れる。

 エリオットにそっと頭を撫でられて、抱き寄せられた。温かな胸が私を包み込んで背中をトントン叩いてあやしてくれる。

「大丈夫だ、君はもうパニックで力を失ったりはしない。立派な聖女だ」

 目をあげると、涙が煌めく碧い瞳が私を優しく見つめていた。そのままゆっくりと唇が近づいてきて、温かな唇が私の唇に落ちた。私たちは抱き合って口づけをかわした。うっとりするような心地だ。

 胸がときめいて、未来が遥か遠くまで澄み渡って見通せるような晴れやかさがそこにあった。

「純斗……、あっエリオット」

 ふっと笑みを浮かべたレキュール辺境伯は、私の顎をそっと持ち上げて、もう一度優しく口づけをした。

「俺のこと、好きになってくれたと思っていいの?」

 ブロンドの髪の毛の隙間から太陽の温かい光が煌めき、エリオットの長いまつ毛はとても美しかった。

「好きよ」

 私はうなずいた。どうやら私は今回は決定打を放ったようだ。


 若く爽やかなレキュール辺境伯と私の間には、互いに強烈に惹かれ合う何かが確かに存在感する。

 甘いトキメキと、それ以上の煌めく未来のような素晴らしい景色が遥かどこまでも続くような不思議な感覚だ。


 これで、ヒュー王子にこっぴどく婚約破棄されても当然な理由が私側にできた。

「じゃあ、ラントナス朝の最後王位継承者として俺が名乗りをあげる理由ができたということだ。ハープスブートの王位につこう。本来持っていた道に戻ろう」

 レキュール辺境伯エリオットは爽やかな笑みを浮かべて私を愛おしそうに見つめて言った。

 私は意味がわからず、彼の顔を見つめていた。

「お嬢様、モートン伯爵家につきました!」

 サミュエルの元気な声が聞こえたのはその時だ。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい

咲桜りおな
恋愛
 オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。 見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!  殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。 ※糖度甘め。イチャコラしております。  第一章は完結しております。只今第二章を更新中。 本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。 本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。 「小説家になろう」でも公開しています。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

悪役令嬢に成り代わったのに、すでに詰みってどういうことですか!?

ぽんぽこ狸
恋愛
 仕事帰りのある日、居眠り運転をしていたトラックにはねられて死んでしまった主人公。次に目を覚ますとなにやら暗くジメジメした場所で、自分に仕えているというヴィンスという男の子と二人きり。  彼から話を聞いているうちに、なぜかその話に既視感を覚えて、確認すると昔読んだことのある児童向けの小説『ララの魔法書!』の世界だった。  その中でも悪役令嬢である、クラリスにどうやら成り代わってしまったらしい。  混乱しつつも話をきていくとすでに原作はクラリスが幽閉されることによって終結しているようで愕然としているさなか、クラリスを見限り原作の主人公であるララとくっついた王子ローレンスが、訪ねてきて━━━━?!    原作のさらに奥深くで動いていた思惑、魔法玉(まほうぎょく)の謎、そして原作の男主人公だった完璧な王子様の本性。そのどれもに翻弄されながら、なんとか生きる一手を見出す、学園ファンタジー!  ローレンスの性格が割とやばめですが、それ以外にもダークな要素強めな主人公と恋愛?をする、キャラが二人ほど、登場します。世界観が殺伐としているので重い描写も多いです。読者さまが色々な意味でドキドキしてくれるような作品を目指して頑張りますので、よろしくお願いいたします。  完結しました!最後の一章分は遂行していた分がたまっていたのと、話が込み合っているので一気に二十万文字ぐらい上げました。きちんと納得できる結末にできたと思います。ありがとうございました。

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

【完結】転生したら悪役継母でした

入魚ひえん@発売中◆巻き戻り冤罪令嬢◆
恋愛
聖女を優先する夫に避けられていたアルージュ。 その夜、夫が初めて寝室にやってきて命じたのは「聖女の隠し子を匿え」という理不尽なものだった。 しかも隠し子は、夫と同じ髪の色。 絶望するアルージュはよろめいて鏡にぶつかり、前世に読んだウェブ小説の悪妻に転生していることを思い出す。 記憶を取り戻すと、七年間も苦しんだ夫への愛は綺麗さっぱり消えた。 夫に奪われていたもの、不正の事実を着々と精算していく。 ◆愛されない悪妻が前世を思い出して転身したら、可愛い継子や最強の旦那様ができて、転生前の知識でスイーツやグルメ、家電を再現していく、異世界転生ファンタジー!◆ *旧題:転生したら悪妻でした

処理中です...