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第三章 囚われの身から幸せへ
カール大帝との恋 ソフィー王妃Side
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私が生まれた翌年には父は王位についたと言う。しかし、すぐに10年で我が家族の栄光の日々は終わり、一転して受難の日々が10年以上も続いた。王位を追われて亡命したのだ。
食べ物がなかった。住む家もまともになく、雨漏りもし、雪や風を十分に凌げる家ではなかった。それまでは王の娘として宮殿に住んでいたのに、ネズミもよく見た。空腹は常だった。貴族とは名ばかりの我が家は貧しい家庭だった。
王女だった日々はすぐに忘れた。ドレスも十分に仕立てられず、たった一人の姉と繕って自分たちで仕立てることを楽しんだ。母と父は私たちを愛してくれた。それだけで十分だと思った。
雨の日、雨漏りがする場所に桶を置いて回ることすら楽しかった。食べ物はなかったが、父と母のおかげで笑いの絶えない家族でいられた。父と母は姉と私に教育だけは十分なものをと犠牲を払ってくれた。
私は言葉に堪能な娘だった。健康だけが取り柄だった。美醜で言えば、醜くはないという自負心は確かにあったが、自分が極めて美しいと言うわけでもないと知っていた。将来十分に食べていける所に嫁ぐ必要性は理解していた。
二十歳も過ぎてから、私にようやく縁談の話が来た。私たち一家の困窮ぶりに心を痛めた父の知り合いが、田舎から私たちを呼び寄せてくれて、雨漏りのする家から解放された。
父と母は面倒を見てくれた父の知り合いの伯爵に感謝はしていたが、私の縁談がまだ少年であるカール大帝との縁談と知ると、畏れ多いと遠慮した。私も選ばれるはずがないと思った。他に美しく力のある貴族家庭の令嬢が選ばれるはずだ。縁談のために声をかけられた若い娘は200人にのぼると言われた。
私に見込みがないと断ったにも関わらず、私は小難しい顔をした何人もの貴族たちと会わなければならなかった。十分なドレスも無かったが、姉と母が懸命になんとか手で1枚のドレスを縫い上げてくれた。他の令嬢には劣るかもしれないが、私には精一杯の愛情のこもった大切なドレスだった。
運命の変わったその日のことを覚えている。私はいつものように姉と森に食べられる草や薬草を探しに行って帰ってきた所だった。家の前に立派な馬車が停まっていた。私たち姉妹は顔を見合わせながら勝手口からそっと家の中に入った。
うちには使用人はいない。それなのに、立派な衣装を着た従者が何人も廊下に控えて立っていた。
「お父様?お母様?ソフィーは戻りました」
私は怖くなり、客間の扉をそっとノックして声をかけた。
バッと扉が開けられた。扉を開けて、私を満面の笑みで迎えたのは来訪者の一人だった。彼とは確か私は会ったことがある。カール大帝との縁談の件で。
「おめでとうございます、次期王妃に確定いたしました。カール大帝の元に来月花嫁として嫁いでいただきます」
彼の話した言葉は意味の分からない外国語のようだった。私は語学に堪能なのに、彼の話す言葉がそれ以降一つも理解できなかった。
「な……なぜソフィーなのでしょうか?」
父が動揺した様子で確認している声が不意に私の耳に飛び込んできた。私はやっと理解できる言葉が話されているようだと、話に集中しようとした。
「あなたたちの家系をずっと調べさせて頂きました。多産の家系ですね。実に素晴らしい!世継ぎが産めることは王家にとっては何よりも大事ですから。ソフィー様は健康的で平均令嬢より体重も多く、すぐにでも子供が産める年齢である、それが決め手となったようでございます」
私の耳は再び言葉を受け付けなくなった。母は気を失った。姉が必死に介抱しているのが見えて、私も介助しなければと思ったが、思うように体が動かなかった。
「持参金も心配ご無用!ドレスのお支度から何から何までカール大帝側でされます。ただお日にちがあまり無いので、早速明日から仕立て屋にエレンヌワ伯爵夫人と通って頂きます。言葉の面では何も心配はいりません。先日、言葉に堪能でいらっしゃることは私どもも確認させていただいておりますから」
貴族とは名ばかりの貧しい家の娘だった私が、カール大帝の花嫁になる?
私は信じがたい出来事に恐ろしさを感じて震える思いだった。宮中は怖い所だと聞く。実際に私たちは国王と王妃と王女だったにも関わらず、一夜にして王座を追われて、亡命して貧しい暮らしを十年余り続けざるを得なかった。
年下のカール大帝のことも心配だった。大帝とは言え、まだ少年をやっと抜けたぐらいの年齢だ。
しかし、私の心配は杞憂に終わった。豪勢な花嫁衣装を身につけて彼に初めて会った日、つまり結婚式の途中で顔を見合わせた瞬間に私たちは互いに恋に落ちた。
彼は私に夢中になり、私もそれを受け入れた。当然のことながら、互いに初めての相手だった。
しかし、二人の間の愛は確実なもので、何年も互いに夢中の時期が過ぎても、世継ぎが生まれない日々が地獄のように私達を追い詰めた。
◆◆◆
最近、夫が私と離縁して、聖女と結婚するという噂がある。隣国ボアルネハルトのとても強い力が強いと評判のヴァイオレット聖女だろうか。彼女はヒュー王子と婚約中のはずだ。となると夫の婚姻相手は、同じく隣国ボアルネハルトのカトリーヌ聖女だろうか?
私の心は複雑に揺れた。夫は愛人との間にも子がいない。子種が無いのは夫の方ではないか。私はそう思って、ため息をついた。
人生にはままならない事がある。ただ、夫の愛は確実に私に向けられていた時期が何年もあったのにと、私は寂しく思った。
愛人ジゼルは美しく機知に富んでいて楽しい女性だ。彼女でも夫の心を繋ぎ止められないということだろうか。
夫の乳母のシャーリンの所に術師が入り浸っている。夫は幼い頃、父、母と二人の兄を一気に病で失った。宮廷医師団が誤った処置を彼らにしたのが原因だ。夫の乳母のシャーリーンはわずか3歳の夫の看病を一心に行った人だ。宮廷医師団の処置を全て遠ざけて、彼女の判断で必死に続けたおかげで幼い夫は助かり、幼少ながら王位についた経緯がある。
私と離婚するように進めているのは、シャーリンだろう。しかし、離婚するしか無いのだろうか。私は暗澹たる思いだった。
食べ物がなかった。住む家もまともになく、雨漏りもし、雪や風を十分に凌げる家ではなかった。それまでは王の娘として宮殿に住んでいたのに、ネズミもよく見た。空腹は常だった。貴族とは名ばかりの我が家は貧しい家庭だった。
王女だった日々はすぐに忘れた。ドレスも十分に仕立てられず、たった一人の姉と繕って自分たちで仕立てることを楽しんだ。母と父は私たちを愛してくれた。それだけで十分だと思った。
雨の日、雨漏りがする場所に桶を置いて回ることすら楽しかった。食べ物はなかったが、父と母のおかげで笑いの絶えない家族でいられた。父と母は姉と私に教育だけは十分なものをと犠牲を払ってくれた。
私は言葉に堪能な娘だった。健康だけが取り柄だった。美醜で言えば、醜くはないという自負心は確かにあったが、自分が極めて美しいと言うわけでもないと知っていた。将来十分に食べていける所に嫁ぐ必要性は理解していた。
二十歳も過ぎてから、私にようやく縁談の話が来た。私たち一家の困窮ぶりに心を痛めた父の知り合いが、田舎から私たちを呼び寄せてくれて、雨漏りのする家から解放された。
父と母は面倒を見てくれた父の知り合いの伯爵に感謝はしていたが、私の縁談がまだ少年であるカール大帝との縁談と知ると、畏れ多いと遠慮した。私も選ばれるはずがないと思った。他に美しく力のある貴族家庭の令嬢が選ばれるはずだ。縁談のために声をかけられた若い娘は200人にのぼると言われた。
私に見込みがないと断ったにも関わらず、私は小難しい顔をした何人もの貴族たちと会わなければならなかった。十分なドレスも無かったが、姉と母が懸命になんとか手で1枚のドレスを縫い上げてくれた。他の令嬢には劣るかもしれないが、私には精一杯の愛情のこもった大切なドレスだった。
運命の変わったその日のことを覚えている。私はいつものように姉と森に食べられる草や薬草を探しに行って帰ってきた所だった。家の前に立派な馬車が停まっていた。私たち姉妹は顔を見合わせながら勝手口からそっと家の中に入った。
うちには使用人はいない。それなのに、立派な衣装を着た従者が何人も廊下に控えて立っていた。
「お父様?お母様?ソフィーは戻りました」
私は怖くなり、客間の扉をそっとノックして声をかけた。
バッと扉が開けられた。扉を開けて、私を満面の笑みで迎えたのは来訪者の一人だった。彼とは確か私は会ったことがある。カール大帝との縁談の件で。
「おめでとうございます、次期王妃に確定いたしました。カール大帝の元に来月花嫁として嫁いでいただきます」
彼の話した言葉は意味の分からない外国語のようだった。私は語学に堪能なのに、彼の話す言葉がそれ以降一つも理解できなかった。
「な……なぜソフィーなのでしょうか?」
父が動揺した様子で確認している声が不意に私の耳に飛び込んできた。私はやっと理解できる言葉が話されているようだと、話に集中しようとした。
「あなたたちの家系をずっと調べさせて頂きました。多産の家系ですね。実に素晴らしい!世継ぎが産めることは王家にとっては何よりも大事ですから。ソフィー様は健康的で平均令嬢より体重も多く、すぐにでも子供が産める年齢である、それが決め手となったようでございます」
私の耳は再び言葉を受け付けなくなった。母は気を失った。姉が必死に介抱しているのが見えて、私も介助しなければと思ったが、思うように体が動かなかった。
「持参金も心配ご無用!ドレスのお支度から何から何までカール大帝側でされます。ただお日にちがあまり無いので、早速明日から仕立て屋にエレンヌワ伯爵夫人と通って頂きます。言葉の面では何も心配はいりません。先日、言葉に堪能でいらっしゃることは私どもも確認させていただいておりますから」
貴族とは名ばかりの貧しい家の娘だった私が、カール大帝の花嫁になる?
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年下のカール大帝のことも心配だった。大帝とは言え、まだ少年をやっと抜けたぐらいの年齢だ。
しかし、私の心配は杞憂に終わった。豪勢な花嫁衣装を身につけて彼に初めて会った日、つまり結婚式の途中で顔を見合わせた瞬間に私たちは互いに恋に落ちた。
彼は私に夢中になり、私もそれを受け入れた。当然のことながら、互いに初めての相手だった。
しかし、二人の間の愛は確実なもので、何年も互いに夢中の時期が過ぎても、世継ぎが生まれない日々が地獄のように私達を追い詰めた。
◆◆◆
最近、夫が私と離縁して、聖女と結婚するという噂がある。隣国ボアルネハルトのとても強い力が強いと評判のヴァイオレット聖女だろうか。彼女はヒュー王子と婚約中のはずだ。となると夫の婚姻相手は、同じく隣国ボアルネハルトのカトリーヌ聖女だろうか?
私の心は複雑に揺れた。夫は愛人との間にも子がいない。子種が無いのは夫の方ではないか。私はそう思って、ため息をついた。
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愛人ジゼルは美しく機知に富んでいて楽しい女性だ。彼女でも夫の心を繋ぎ止められないということだろうか。
夫の乳母のシャーリンの所に術師が入り浸っている。夫は幼い頃、父、母と二人の兄を一気に病で失った。宮廷医師団が誤った処置を彼らにしたのが原因だ。夫の乳母のシャーリーンはわずか3歳の夫の看病を一心に行った人だ。宮廷医師団の処置を全て遠ざけて、彼女の判断で必死に続けたおかげで幼い夫は助かり、幼少ながら王位についた経緯がある。
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