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6. キングの罰ゲーム(颯介)

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「あなたは、なぜ幽霊なの?」

 ボロボロの服を着た美人の女の子が、輝かしいほどの美貌の男の子に聞いている。

 うん?セリフの練習か?

 俺は、隣の席でぼんやり聞いていた。ハリウッド映画ってのは、こんな男の子に幽霊の役をやらせるのか。そうか、そうか。設定ってのはそういうものなんだな。俺は黙って聞いていた。盗み聞きは良くないかもしれないが、よく聞き取れた。っていうか、俺ってそんなに英語できたっけ?

 俺はよく分からないが、隣の席の子供たちが話す言葉だけはよく理解できた。サファイアという女の子の母親は、ドーナツを買いに長いレジの列に並んでいて、子供たちのそばにはいなかった。

 男の子はにっこり笑って言った。
「キングの罰ゲームだよ。僕は君たちの国の王の子供だよ。僕も理由があって、このゲームに参加させられているんだ。今日は君たちがやってきた時に呼ばれた感じだ。」男の子は女の子に説明した。

「でも、他の時も訳あって、このゲームの世界にいるんだ。ちょっとした呪いのような罰ゲームだ。サファイアはその時に知り合ったんだよ。」

 うーん、変な設定の映画だな・・

 俺はコーヒーを一口すすって、考えた。中世ヨーロッパのボロボロの平民の子供三人と、その国の王の子供、つまり王子がゲームに参加する話なんだな。舞台は中世ヨーロッパか。にしては、男の子の服は現代っぽいぞ。あー、まだこの子は私服か。おしゃれな私服だなー、俺と違って。

 俺は感心して男の子を見て、自分の普通の服を少し恥じた。ユニクロだ。いや、ユニクロが悪いんじゃなくて、きている俺がダサいのだ。それは知っている。

 「王子は、もう生きていないの?」
 話を聞いていた一番小さな平民の男の子が単刀直入に聞いた。

 男の子は少し悲しそうに笑って言った。
「うん、呪いだからね。僕は僕たちの国に帰っても、もう生きてない。僕が見えるのは、ゲームに参加している君たちとサファイアだけみたいなんだ。」

 セリフにしてはうまいな・・
 さっすがハリウッド!
 
 ちなみに、俺には君がバッチリ見えてまーす。俺はそんなことを横で思いながら、黙ってコーヒーをすすっていた。偶然バッタリ田中さんに会おうという野望は忘れよう。だって、こんなにレアなシチュエーションってなかなかないぞ。スタバに入ったら、隣にハリウッド映画の子役がいて、衣装もきている状態でセリフの練習をしているなんて、素晴らしいじゃないか。


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