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春の宵の恋煩い編
春の宵の恋煩い② 夜々の家の邑珠姫Side
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「暸寿、いるかしら?」
「はい、邑珠姫さま」
今日は花火が上がる日だ。夜空に星の雨が降り注ぐような煌びやかな花火は、前宮の雪景色の中で見るとさぞや美しいさまだろう。都中で祭りだと浮き立つ中で、薄餅の屋台も多く出されることだろう。
天蝶節のこの日、雪が薄く積もった都中が朝から浮きたっているだろう。大通りの雪はあとかたもなく踏み固められて昼には溶けるのでなないだろうか。道の端や家々の屋根に残った雪は、明るいお日様の光を反射して美しく光り輝くだろう。
私は侍女の暸寿を呼んで、枕元に置かれた薄餅と文を見せた。
「姫様、これはどこから頂いたものでしょう……?」
まだ若い暸寿は浅黒い顔に驚きの表情を浮かべて、怪訝な顔で私と薄餅を見比べた。
誰かが寝室に侵入したという話を若い暸寿にすべきだろうか?
私は迷った。
暸寿に相談すれば、蜂の巣をつついたような大騒ぎにきっとなるだろう。
その前に、私には相談したい人がいる。私が逡巡して押し黙っている間に、暸寿は薄餅の香りを嗅いでふわっと微笑んだ。
「良い香りですわぁ。この薄餅は都で繁盛しております店のうちのどの店のものか分かりますわ。この包み紙の香りと紋様に特徴がありますもの」
「そうなの?」
「えぇ、邑珠姫さま。どこの店の薄餅かを調べてもらいましょう。今日の都は大層賑わっていますから、調べて回るのには時間がかかるかもしれませんが」
「はい、そうね……いえ、やっぱりいいわ。美梨の君にわたくしからご相談してみますから」
「美梨の君さまへ?」
一拍の間があり、暸寿は驚いた表情を浮かべて私をポカンと見つめた。
「何か変かしら?」
「いえ、その……姫さまのお口から鷹宮さま以外の殿方のお名前が出たことが初めてだったものですから」
「へ……へ……変な意味ではないわ!」
「千件の経営権を持つとも言われる西一番の大金持ちの夜々の家の姫ともなれば、調べるのは容易うございますわ。美梨の君にご相談する前に私どもで調べますからご安心くださいませ。姫様は選抜の儀の途中でございます。自ら積極的に美梨の君にご相談なさるなど、控えた方が良いかと思います」
若いのにしっかり者の暸寿は、リスのように澄んだ瞳を元気よく動かしながら、きっぱりと答えた。
暸寿の夜々の家への忠誠心にも困ったものだわ……。
相談する体で、わたくしは愛しいお方に話しかける口実を作っているのよ。わたくしは……簡単に美梨の君に話しかけられないからこそ、この由々しき問題を持ちかけようとしているの。
私はため息を小さくついた。
「もしや……姫さま、美梨の君にご興味がおありなのでしょうか!?」
暸寿はハッとした表情になり、ぐっと身を寄せてきて私に小さな声でささやいた。
驚愕のあまり、暸寿の瞳は見開いていて眉間に皺を寄せている。
「ちがうわよっ!」
私は咄嗟に否定した。だが、否定の仕方が慌てたように激しかったことに後悔した。暸寿は図星なのだといった表情になり、私を悲しげに見つめた。
「今世最高美女と名高い邑珠姫様は、かのような気の迷いは許されません。たとえ一時の気の迷いや退屈しのぎの余興だとしてもです。鷹宮様御一筋でいらっしゃると選抜の儀一位の夜々の姫は思われております。皆の期待を裏切り、他の殿方に心を寄せるなど、御戯れもいい加減になさってくださいませ」
まだ若いのにしっかり者の暸寿の小言は続いた。
「あぁ、私は自由に恋もできないのね」
「姫様、恋ですって!?姫様の恋のお相手は鷹宮さまでございます」
私は唇を噛み締めた。
今世最高美女は自由が許されない身だ。
西一番の大金持ちの夜々の家の姫ならば、ある程度自由に殿方を選べるはずなのに、鷹宮さまの妃候補第一位として入内したのであれば、前宮にいる間は鷹宮さま命でいる必要があるということだ。
私は生まれて初めて自分の美貌を呪った。
ため息をついた。
仕方があるまい。
陰謀が自分の身に迫っているのだ。鷹宮さまに相談するか、美梨の君に相談するか、行動を起こす必要がある。若い暸寿を震え上がらせて大騒ぎにするより、私はもっと賢明な行動を取るべきだ。
暸寿に隠れて、美梨の君に相談してみよう。
私は心の中で覚悟を決めると、暸寿に向けて麗しい笑みを浮かべてうなずいた。
「私の恋の御相手は鷹宮さまよ。それは変わらないわ。でも、こんな奇妙な文で恐れ多くも鷹宮さまの心をかき乱すのは嫌なのよ。誰かの悪戯としか思えないし……。とにかく、夜々の家の者たちに、この薄餅を売っている店を割り出すのはお願いするわ」
暸寿はほっとしたようにうなずくいた。そして朝食の前の支度をもう1人の侍女の汐乃に頼むと、いそいそと部屋を出ていった。
私は残された碧い宝石ついた櫛と文をじっと見つめた。
確か、31位の能々の家の喜里姫は美梨の君とお食事を共にしたことがあったはずだわ。
もしくは、爛々の家の二の姫である優琳姫は、美梨の君とお酒を飲む約束をしたことがあったような……。あの姫はふくよかでおっとりとした見た目に似合わず、頭の回転が非常に速いという噂があるわ。
そうよ、まずは彼女に相談してみよう。
選抜の儀第1位だからって、美梨の君と話してはいけないということはないと思うのよ。暸寿、ごめんなさい。
私は白蘭梅棟の爛々の家を訪ねようと心に決めた。
あと二日ほどで桜の花で満開になるであろうところまで来ていたはずの前宮の庭を眺めた。うっすらと雪が積もっている。
そうだわ、今晩の花火を美梨の君と一緒には見れないだろうか……。
そこまで考えた私は1人で真っ赤になった。
なにを……わたしくしは……叶うはずもない願望を……そんな願望を持つ自分が恥ずかしいわ。
青桃菊棟の庭には、蕾をつけた桜の木が沢山ある。雪が降らなければ、花桃の淡い紅の花が沢山咲いていたはずだ。上巳節はつつがなく行われたばかりで、春が近づいて来ているのは間違いない。
春と恋心が一気に近づいてきているような錯覚に陥る。
落下してきた美梨の君を赤い煌めく竜が助けた時のことを思うと、胸がギュッと締め付けられるように思う。
お会いしたい……。
あの端正で凛々しいお姿を間近でもう一度……。
黒い装束に鮮やかな五色の帯を衣に巻いた若いすらりとした体躯の兵が現れたのは、その時だった。雪の積もった庭を見下ろす私のすぐそばに彼は出現したのだ。
彼の瞳は私の心を見透かすかのようで、微動だにせずに彼は私をじっと見つめた。
「邑珠姫さま。美梨の君がお呼びです」
彼は見目麗しい男だった。どことなく気品があり、一目で鷹宮さまの五色の兵だと分かる装束を着ているものの、なぜだか一介の兵には見えなかった。
「わたくしをでしょうか。なぜ……?あなたは五色の兵だと分かりますが、このことは鷹宮さまはご承知でございますか?」
私の質問に、彼は微かに首を振った。
「お慕い申し上げている姫に、今宵の花火の特等席をご用意しました。是非ご一緒にいかがでしょうか、だそうでございます」
誓う。
普段の私なら絶対にやらない過ちだ。
だが、この時の私はついて行ったのだ。
袂に碧い宝石のついた櫛と奇妙な文を隠し持ってついて行った。
完全に油断したのだ。私の恋心を敵は知っていて、美梨の君と私を同時に呼び出していた。
***
御咲の国の皇子鷹宮が22歳から23歳になる1年の間に行われる妃選抜の儀において、32人の姫が入内し、金木犀の香りが芳しい昨秋、傷物姫と蔑まれていた選抜の儀32位の済々の花蓮姫が妃に選ばれた。
これは、その後に起きた出来事だ。
高潔な今世最高美女は、鷹宮さまを不正をしてまで、周囲の信頼を裏切るような真似をしてまで、鷹宮さまの心を奪おうとは思っていない。(わたくしのことよ)
しかし、選抜の儀第一位で入内した私は、人生で初めて虚しさを覚えた。そして、あろうことか私は鷹宮さま以外の人にどうやら本気の恋をしたようだ。今までは鷹宮様一直線だった。しかし、別の君が私の心を占めてしまっていた。
羅国も激奈龍も深野谷国も誤っている。
赤い竜は花蓮姫だ。
福仙竜は煌めく美しい鱗を持ち、空を自由に飛び、万霊を掌握すると言う。特に赤と白の鱗を持つ竜は、最上格とされ、赤い煌めく竜、正式には帝王紅碧火薔薇宝と呼ばれる。
敵は、この時はまだ鷹宮さまを福仙竜の主と信じていた。いずれの時も、鷹宮さま、美梨の君、花蓮姫が同時に揃った瞬間に赤い煌めく竜が現れたからだ。
白状しよう。美梨の君と、誰かが同一人物であると悟ったものだけが真実に辿り着けるのかもしれない。
これは、第2位、第3位の妃を選ぶ残り2ヶ月余りの期間に起きた、鷹宮さま暗殺計画の幕開けだった。
私は夢にまで見た切ない逢瀬を、天蝶節で賑わう都の酒楼で実現した。思い描いていたのとは全く別のものだった。
この時私はまだ、敵の仕掛けた事件のことを知らない。送られた文と櫛と薄餅は「悪の罠」か「救いの手」か、この時の私には分からない。
先の皇帝である時鷹さま暗殺未遂事件をきっかけに、済々の花蓮姫は傷物姫とされたと分かった。
選抜の儀第一位の西一番の大金持ちの夜々の家の今世最高美女、邑珠姫である私の入内は、とんでもない皇子暗殺計画に巻き込まれて予期せぬ展開となったのだ。
先帝時鷹さま、現皇帝の永鷹さま、鷹宮さま、3人の命運を左右する計画は、夜々の家の姫である私を起点に計画された。
「はい、邑珠姫さま」
今日は花火が上がる日だ。夜空に星の雨が降り注ぐような煌びやかな花火は、前宮の雪景色の中で見るとさぞや美しいさまだろう。都中で祭りだと浮き立つ中で、薄餅の屋台も多く出されることだろう。
天蝶節のこの日、雪が薄く積もった都中が朝から浮きたっているだろう。大通りの雪はあとかたもなく踏み固められて昼には溶けるのでなないだろうか。道の端や家々の屋根に残った雪は、明るいお日様の光を反射して美しく光り輝くだろう。
私は侍女の暸寿を呼んで、枕元に置かれた薄餅と文を見せた。
「姫様、これはどこから頂いたものでしょう……?」
まだ若い暸寿は浅黒い顔に驚きの表情を浮かべて、怪訝な顔で私と薄餅を見比べた。
誰かが寝室に侵入したという話を若い暸寿にすべきだろうか?
私は迷った。
暸寿に相談すれば、蜂の巣をつついたような大騒ぎにきっとなるだろう。
その前に、私には相談したい人がいる。私が逡巡して押し黙っている間に、暸寿は薄餅の香りを嗅いでふわっと微笑んだ。
「良い香りですわぁ。この薄餅は都で繁盛しております店のうちのどの店のものか分かりますわ。この包み紙の香りと紋様に特徴がありますもの」
「そうなの?」
「えぇ、邑珠姫さま。どこの店の薄餅かを調べてもらいましょう。今日の都は大層賑わっていますから、調べて回るのには時間がかかるかもしれませんが」
「はい、そうね……いえ、やっぱりいいわ。美梨の君にわたくしからご相談してみますから」
「美梨の君さまへ?」
一拍の間があり、暸寿は驚いた表情を浮かべて私をポカンと見つめた。
「何か変かしら?」
「いえ、その……姫さまのお口から鷹宮さま以外の殿方のお名前が出たことが初めてだったものですから」
「へ……へ……変な意味ではないわ!」
「千件の経営権を持つとも言われる西一番の大金持ちの夜々の家の姫ともなれば、調べるのは容易うございますわ。美梨の君にご相談する前に私どもで調べますからご安心くださいませ。姫様は選抜の儀の途中でございます。自ら積極的に美梨の君にご相談なさるなど、控えた方が良いかと思います」
若いのにしっかり者の暸寿は、リスのように澄んだ瞳を元気よく動かしながら、きっぱりと答えた。
暸寿の夜々の家への忠誠心にも困ったものだわ……。
相談する体で、わたくしは愛しいお方に話しかける口実を作っているのよ。わたくしは……簡単に美梨の君に話しかけられないからこそ、この由々しき問題を持ちかけようとしているの。
私はため息を小さくついた。
「もしや……姫さま、美梨の君にご興味がおありなのでしょうか!?」
暸寿はハッとした表情になり、ぐっと身を寄せてきて私に小さな声でささやいた。
驚愕のあまり、暸寿の瞳は見開いていて眉間に皺を寄せている。
「ちがうわよっ!」
私は咄嗟に否定した。だが、否定の仕方が慌てたように激しかったことに後悔した。暸寿は図星なのだといった表情になり、私を悲しげに見つめた。
「今世最高美女と名高い邑珠姫様は、かのような気の迷いは許されません。たとえ一時の気の迷いや退屈しのぎの余興だとしてもです。鷹宮様御一筋でいらっしゃると選抜の儀一位の夜々の姫は思われております。皆の期待を裏切り、他の殿方に心を寄せるなど、御戯れもいい加減になさってくださいませ」
まだ若いのにしっかり者の暸寿の小言は続いた。
「あぁ、私は自由に恋もできないのね」
「姫様、恋ですって!?姫様の恋のお相手は鷹宮さまでございます」
私は唇を噛み締めた。
今世最高美女は自由が許されない身だ。
西一番の大金持ちの夜々の家の姫ならば、ある程度自由に殿方を選べるはずなのに、鷹宮さまの妃候補第一位として入内したのであれば、前宮にいる間は鷹宮さま命でいる必要があるということだ。
私は生まれて初めて自分の美貌を呪った。
ため息をついた。
仕方があるまい。
陰謀が自分の身に迫っているのだ。鷹宮さまに相談するか、美梨の君に相談するか、行動を起こす必要がある。若い暸寿を震え上がらせて大騒ぎにするより、私はもっと賢明な行動を取るべきだ。
暸寿に隠れて、美梨の君に相談してみよう。
私は心の中で覚悟を決めると、暸寿に向けて麗しい笑みを浮かべてうなずいた。
「私の恋の御相手は鷹宮さまよ。それは変わらないわ。でも、こんな奇妙な文で恐れ多くも鷹宮さまの心をかき乱すのは嫌なのよ。誰かの悪戯としか思えないし……。とにかく、夜々の家の者たちに、この薄餅を売っている店を割り出すのはお願いするわ」
暸寿はほっとしたようにうなずくいた。そして朝食の前の支度をもう1人の侍女の汐乃に頼むと、いそいそと部屋を出ていった。
私は残された碧い宝石ついた櫛と文をじっと見つめた。
確か、31位の能々の家の喜里姫は美梨の君とお食事を共にしたことがあったはずだわ。
もしくは、爛々の家の二の姫である優琳姫は、美梨の君とお酒を飲む約束をしたことがあったような……。あの姫はふくよかでおっとりとした見た目に似合わず、頭の回転が非常に速いという噂があるわ。
そうよ、まずは彼女に相談してみよう。
選抜の儀第1位だからって、美梨の君と話してはいけないということはないと思うのよ。暸寿、ごめんなさい。
私は白蘭梅棟の爛々の家を訪ねようと心に決めた。
あと二日ほどで桜の花で満開になるであろうところまで来ていたはずの前宮の庭を眺めた。うっすらと雪が積もっている。
そうだわ、今晩の花火を美梨の君と一緒には見れないだろうか……。
そこまで考えた私は1人で真っ赤になった。
なにを……わたしくしは……叶うはずもない願望を……そんな願望を持つ自分が恥ずかしいわ。
青桃菊棟の庭には、蕾をつけた桜の木が沢山ある。雪が降らなければ、花桃の淡い紅の花が沢山咲いていたはずだ。上巳節はつつがなく行われたばかりで、春が近づいて来ているのは間違いない。
春と恋心が一気に近づいてきているような錯覚に陥る。
落下してきた美梨の君を赤い煌めく竜が助けた時のことを思うと、胸がギュッと締め付けられるように思う。
お会いしたい……。
あの端正で凛々しいお姿を間近でもう一度……。
黒い装束に鮮やかな五色の帯を衣に巻いた若いすらりとした体躯の兵が現れたのは、その時だった。雪の積もった庭を見下ろす私のすぐそばに彼は出現したのだ。
彼の瞳は私の心を見透かすかのようで、微動だにせずに彼は私をじっと見つめた。
「邑珠姫さま。美梨の君がお呼びです」
彼は見目麗しい男だった。どことなく気品があり、一目で鷹宮さまの五色の兵だと分かる装束を着ているものの、なぜだか一介の兵には見えなかった。
「わたくしをでしょうか。なぜ……?あなたは五色の兵だと分かりますが、このことは鷹宮さまはご承知でございますか?」
私の質問に、彼は微かに首を振った。
「お慕い申し上げている姫に、今宵の花火の特等席をご用意しました。是非ご一緒にいかがでしょうか、だそうでございます」
誓う。
普段の私なら絶対にやらない過ちだ。
だが、この時の私はついて行ったのだ。
袂に碧い宝石のついた櫛と奇妙な文を隠し持ってついて行った。
完全に油断したのだ。私の恋心を敵は知っていて、美梨の君と私を同時に呼び出していた。
***
御咲の国の皇子鷹宮が22歳から23歳になる1年の間に行われる妃選抜の儀において、32人の姫が入内し、金木犀の香りが芳しい昨秋、傷物姫と蔑まれていた選抜の儀32位の済々の花蓮姫が妃に選ばれた。
これは、その後に起きた出来事だ。
高潔な今世最高美女は、鷹宮さまを不正をしてまで、周囲の信頼を裏切るような真似をしてまで、鷹宮さまの心を奪おうとは思っていない。(わたくしのことよ)
しかし、選抜の儀第一位で入内した私は、人生で初めて虚しさを覚えた。そして、あろうことか私は鷹宮さま以外の人にどうやら本気の恋をしたようだ。今までは鷹宮様一直線だった。しかし、別の君が私の心を占めてしまっていた。
羅国も激奈龍も深野谷国も誤っている。
赤い竜は花蓮姫だ。
福仙竜は煌めく美しい鱗を持ち、空を自由に飛び、万霊を掌握すると言う。特に赤と白の鱗を持つ竜は、最上格とされ、赤い煌めく竜、正式には帝王紅碧火薔薇宝と呼ばれる。
敵は、この時はまだ鷹宮さまを福仙竜の主と信じていた。いずれの時も、鷹宮さま、美梨の君、花蓮姫が同時に揃った瞬間に赤い煌めく竜が現れたからだ。
白状しよう。美梨の君と、誰かが同一人物であると悟ったものだけが真実に辿り着けるのかもしれない。
これは、第2位、第3位の妃を選ぶ残り2ヶ月余りの期間に起きた、鷹宮さま暗殺計画の幕開けだった。
私は夢にまで見た切ない逢瀬を、天蝶節で賑わう都の酒楼で実現した。思い描いていたのとは全く別のものだった。
この時私はまだ、敵の仕掛けた事件のことを知らない。送られた文と櫛と薄餅は「悪の罠」か「救いの手」か、この時の私には分からない。
先の皇帝である時鷹さま暗殺未遂事件をきっかけに、済々の花蓮姫は傷物姫とされたと分かった。
選抜の儀第一位の西一番の大金持ちの夜々の家の今世最高美女、邑珠姫である私の入内は、とんでもない皇子暗殺計画に巻き込まれて予期せぬ展開となったのだ。
先帝時鷹さま、現皇帝の永鷹さま、鷹宮さま、3人の命運を左右する計画は、夜々の家の姫である私を起点に計画された。
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