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春の宵の恋煩い編
さよならの季節③ 夜々の家の邑珠姫Side
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選抜の儀第2位の茉莉姫は羅国と手を組んで、鷹宮に薬を盛って一線を越えようとした。その計画を知った美梨の君を天守閣から突き落として暗殺しようとした。次には激奈龍の皇帝の愛人になり、皇帝をそそのかして御咲の国を激奈竜に手に入れさせようと画策し、御咲の永鷹皇帝と先帝を暗殺しようとした?
違う。
きっと違う。
何かがおかしい。
選抜の儀の8ヶ月の間、私は彼女と共に過ごしたのだ。
私たちは……決して……決して鷹宮さまに刃を向けるようなことはしないはずなのよ!
激しい恋は人を狂わせる。
でも、1点だけ私は彼女に対して絶対的に信頼している点がある。
御咲の皇帝一族を危うい立場に追い込むことは絶対にしないわ。
考えるのよっ!
邑珠、何かがおかしいわ。
「碧い石のついた櫛はあなたの贈り物ですか?」
私は花武皇子にそっと聞いた。
鷹宮さまそっくりの透き通るような瞳で私を見つめて、花武皇子は首を横に振った。
「昨晩枕元に置いてあった櫛だろう?あれは邑珠のものだろう?」
違う。
私のものではない。
私は茉莉姫を見つめた。
もしや、まあり、あなたが置いた櫛?
茉莉姫は一瞬だけ苦しそうな顔をした。
っ!!
分かったわ!
思い出した!
あれは、蓬々の家の璃音姫の櫛だ!
彼女が入内してきた最初の日に、鷹宮さまが『その櫛の飾りは蓬々の家の家紋の蓮と龍か?』と聞いた記憶がある。
璃音姫は護符を見せて、『護符と同じ効果があるのよ』と微笑んでいた。
私が今朝見た櫛は、黄色い石で作られた蓮がなくなっていた。龍の形も変だった。あの形は……龍の中に奈が隠されていた。
少し前のこと。
私は記憶を探った。
宦官が市中の賭場通いで責められる噂を侍女の汐乃が洗濯場で仕入れてきたことがあった。黄色く美しい飾り石を持ち歩いていて、どこからか盗んだものか、賭場通いで儲けて手に入れたのか、追求されたという噂だ。
噂を聞いた当時は何のことかまるで分からなかった。
御咲の国は碁盤の目のように整備されているが、賭場が多くある。そのあたりはぼったくり酒楼も多い。
身に余るような栄華を夢見て都にやってきて、夢が破れて賭場通いに明け暮れる田舎の子息がたむろすることも耳にする。
その宦官の名前は……確か奏山ではなかったか?
新しくやってきた選抜の儀の吏部尚書である奏杜の縁者である奏山だ。奏杜が間に入ってとりなして、今後2度と賭場に近づかないと念書を書くことでお咎めを免れたという噂だった。
身に余るような栄華を夢見て京都にやってきて、夢が破れて賭場通いにハマるというのはあるといえばある話だ。
なくなっていた黄色い蓮の形をした宝石は、奏山が持っていたという黄色く美しい飾り石だったとしたら、どうなるだろう?
もしそうであるならば、今となっては話が全く変わってくる。
黄色い蓮は皇子という意味もある。
赤い瞳で有名な激奈龍の赤劉虎将軍と、雅羅減鹿に私は会った。
目の前にいるのは、秦野谷国の花武皇子だ。御咲の鷹宮さま、秦野谷国の皇子。
何かが足りない。
違う……きっといてはならない人がいる?
激奈龍の皇子はどこにいるのだろう?
小顔でホクロが目尻にあり、いつもニコニコしている印象という噂の激奈龍の世継ぎの楊飛皇子は今どこにいる?
先ほど、空から見た時に五色の兵の跡をつけていたのは奏山。
あれは、本当に跡をつけていたのだろうか。
彼は一体何をしていたのだろう?
奏山は蓬々の家の侍女の梅香に執心している気配があった。梅香は相手にしていなかったが。
彼は小顔でホクロが目尻にある。
いつもニコニコしているが、宦官かどうかはかなり怪しい。私たち若い女を見る目が怪しいのだ。
茉莉姫があの櫛を私の枕元に置いた意味は……私が考えていることと同じだろうか。
私は爛々の優琳姫と猛々の呵楪姫を見た。
2人も食い入るように茉莉姫を見ていた。
どうやって合図を送ればいいのだろう?
私の考えが正しければ、味方のふりをした「奏山」を警戒すべきだ。
私たちは62家の姫。
私たちは選抜の儀で選ばれて入内した姫。
私たちが教育されてきた長い年月と前宮で過ごした10ヶ月もの月日は、私たちの中にあるものを作り上げている。
それは、目には見えない、隣国からは決して見えないものだ。
「花蓮姫の時の芦杏《ろあん》よ!」
爛々の優琳姫と猛々の呵楪姫に向かって私は叫んだ。
2人はギョッとして私を見た。穴が開くほど見つめている。私は微かにうなずいた。
茉莉姫も静かに私を見た。
入内した初日、青桃菊棟で初めて会ったあの日、前宮の庭には美しく鮮やかなピンク色の月季が咲いていた。一瞬、あの日の庭が蘇った。
「月季の誓いね?」
私は秘密の暗号を茉莉姫に言った。
これは、御咲の鷹宮妃選抜の儀第1位になった今世最高美女、夜々の家の邑珠である私と、第2位の冥々の家の茉莉姫にしか分からない2人だけの秘密の暗号だ。
鮮やかな五色の帯をしめた黒装束の兵たちが勢いよく傾れ込んできて、私は彼らに法術を向けた。同時に黒い立体文字が浮かび上がり、風のように舞って五色の兵を襲った。
花武皇子の秦の術だ。
茉莉姫はそれを見てわずかに安堵したように思った。
今回、鷹宮さまも暗殺計画の一部に入っていた。鷹宮さまが帝王紅碧火薔薇宝だと信じていた激奈龍は、私に法術をかけて鷹宮さまを殺めさせようとした。だが、花武皇子と美梨の君が私を救い出して、私への仕掛けは消えた。
今朝、櫛が枕元にあり、それには既に法術がかけられていて、茉莉姫に攻撃すると私に反転攻撃となる仕掛けが仕組まれていた。
私の推測が、正しければ、全てが腑に落ちる!
奏山の姿が見えて、私は彼に向かって最高級の法術を仕掛けた。
もんどり打つ曹山が茉莉姫に短剣を投げ、反転の法術が解かれる前の私の体に短剣が刺さった。
呵楪姫が叫んだ声が聞こえた。
何?
あっという間の出来事だった。
私は崩れ落ちた。
茉莉姫が私と共に倒れ、彼女の口から言葉が落ちた。
優琳姫と呵楪姫が叫び、花武皇子が何かを言っている声が聞こえたが、すぐに真っ暗な闇が私を襲った。
鷹宮さまには選ばれず、花武皇子に揶揄われたのかわからぬまま、私はここで死ぬのか。
一瞬、黄色い煌めく鱗を持つ竜が突然現れて茉莉姫と私を包み、黄色い炎を吐き、茉莉姫は悲鳴を上げたのが見えた気がしたが、きっと目の錯覚だ。
今宵は天蝶節だ。
思えば、朝から大変な日だった。
あぁ、今日が私の最後の日だったのか。
今世最高美女とチヤホヤされたから、失恋ばかりをしてあっけなくこの世を去るのか。
私は寂しいなぁと思った。
今宵の天蝶節の花火は綺麗だっただろうに。
私の入内は、予想もつかない展開となった。
違う。
きっと違う。
何かがおかしい。
選抜の儀の8ヶ月の間、私は彼女と共に過ごしたのだ。
私たちは……決して……決して鷹宮さまに刃を向けるようなことはしないはずなのよ!
激しい恋は人を狂わせる。
でも、1点だけ私は彼女に対して絶対的に信頼している点がある。
御咲の皇帝一族を危うい立場に追い込むことは絶対にしないわ。
考えるのよっ!
邑珠、何かがおかしいわ。
「碧い石のついた櫛はあなたの贈り物ですか?」
私は花武皇子にそっと聞いた。
鷹宮さまそっくりの透き通るような瞳で私を見つめて、花武皇子は首を横に振った。
「昨晩枕元に置いてあった櫛だろう?あれは邑珠のものだろう?」
違う。
私のものではない。
私は茉莉姫を見つめた。
もしや、まあり、あなたが置いた櫛?
茉莉姫は一瞬だけ苦しそうな顔をした。
っ!!
分かったわ!
思い出した!
あれは、蓬々の家の璃音姫の櫛だ!
彼女が入内してきた最初の日に、鷹宮さまが『その櫛の飾りは蓬々の家の家紋の蓮と龍か?』と聞いた記憶がある。
璃音姫は護符を見せて、『護符と同じ効果があるのよ』と微笑んでいた。
私が今朝見た櫛は、黄色い石で作られた蓮がなくなっていた。龍の形も変だった。あの形は……龍の中に奈が隠されていた。
少し前のこと。
私は記憶を探った。
宦官が市中の賭場通いで責められる噂を侍女の汐乃が洗濯場で仕入れてきたことがあった。黄色く美しい飾り石を持ち歩いていて、どこからか盗んだものか、賭場通いで儲けて手に入れたのか、追求されたという噂だ。
噂を聞いた当時は何のことかまるで分からなかった。
御咲の国は碁盤の目のように整備されているが、賭場が多くある。そのあたりはぼったくり酒楼も多い。
身に余るような栄華を夢見て都にやってきて、夢が破れて賭場通いに明け暮れる田舎の子息がたむろすることも耳にする。
その宦官の名前は……確か奏山ではなかったか?
新しくやってきた選抜の儀の吏部尚書である奏杜の縁者である奏山だ。奏杜が間に入ってとりなして、今後2度と賭場に近づかないと念書を書くことでお咎めを免れたという噂だった。
身に余るような栄華を夢見て京都にやってきて、夢が破れて賭場通いにハマるというのはあるといえばある話だ。
なくなっていた黄色い蓮の形をした宝石は、奏山が持っていたという黄色く美しい飾り石だったとしたら、どうなるだろう?
もしそうであるならば、今となっては話が全く変わってくる。
黄色い蓮は皇子という意味もある。
赤い瞳で有名な激奈龍の赤劉虎将軍と、雅羅減鹿に私は会った。
目の前にいるのは、秦野谷国の花武皇子だ。御咲の鷹宮さま、秦野谷国の皇子。
何かが足りない。
違う……きっといてはならない人がいる?
激奈龍の皇子はどこにいるのだろう?
小顔でホクロが目尻にあり、いつもニコニコしている印象という噂の激奈龍の世継ぎの楊飛皇子は今どこにいる?
先ほど、空から見た時に五色の兵の跡をつけていたのは奏山。
あれは、本当に跡をつけていたのだろうか。
彼は一体何をしていたのだろう?
奏山は蓬々の家の侍女の梅香に執心している気配があった。梅香は相手にしていなかったが。
彼は小顔でホクロが目尻にある。
いつもニコニコしているが、宦官かどうかはかなり怪しい。私たち若い女を見る目が怪しいのだ。
茉莉姫があの櫛を私の枕元に置いた意味は……私が考えていることと同じだろうか。
私は爛々の優琳姫と猛々の呵楪姫を見た。
2人も食い入るように茉莉姫を見ていた。
どうやって合図を送ればいいのだろう?
私の考えが正しければ、味方のふりをした「奏山」を警戒すべきだ。
私たちは62家の姫。
私たちは選抜の儀で選ばれて入内した姫。
私たちが教育されてきた長い年月と前宮で過ごした10ヶ月もの月日は、私たちの中にあるものを作り上げている。
それは、目には見えない、隣国からは決して見えないものだ。
「花蓮姫の時の芦杏《ろあん》よ!」
爛々の優琳姫と猛々の呵楪姫に向かって私は叫んだ。
2人はギョッとして私を見た。穴が開くほど見つめている。私は微かにうなずいた。
茉莉姫も静かに私を見た。
入内した初日、青桃菊棟で初めて会ったあの日、前宮の庭には美しく鮮やかなピンク色の月季が咲いていた。一瞬、あの日の庭が蘇った。
「月季の誓いね?」
私は秘密の暗号を茉莉姫に言った。
これは、御咲の鷹宮妃選抜の儀第1位になった今世最高美女、夜々の家の邑珠である私と、第2位の冥々の家の茉莉姫にしか分からない2人だけの秘密の暗号だ。
鮮やかな五色の帯をしめた黒装束の兵たちが勢いよく傾れ込んできて、私は彼らに法術を向けた。同時に黒い立体文字が浮かび上がり、風のように舞って五色の兵を襲った。
花武皇子の秦の術だ。
茉莉姫はそれを見てわずかに安堵したように思った。
今回、鷹宮さまも暗殺計画の一部に入っていた。鷹宮さまが帝王紅碧火薔薇宝だと信じていた激奈龍は、私に法術をかけて鷹宮さまを殺めさせようとした。だが、花武皇子と美梨の君が私を救い出して、私への仕掛けは消えた。
今朝、櫛が枕元にあり、それには既に法術がかけられていて、茉莉姫に攻撃すると私に反転攻撃となる仕掛けが仕組まれていた。
私の推測が、正しければ、全てが腑に落ちる!
奏山の姿が見えて、私は彼に向かって最高級の法術を仕掛けた。
もんどり打つ曹山が茉莉姫に短剣を投げ、反転の法術が解かれる前の私の体に短剣が刺さった。
呵楪姫が叫んだ声が聞こえた。
何?
あっという間の出来事だった。
私は崩れ落ちた。
茉莉姫が私と共に倒れ、彼女の口から言葉が落ちた。
優琳姫と呵楪姫が叫び、花武皇子が何かを言っている声が聞こえたが、すぐに真っ暗な闇が私を襲った。
鷹宮さまには選ばれず、花武皇子に揶揄われたのかわからぬまま、私はここで死ぬのか。
一瞬、黄色い煌めく鱗を持つ竜が突然現れて茉莉姫と私を包み、黄色い炎を吐き、茉莉姫は悲鳴を上げたのが見えた気がしたが、きっと目の錯覚だ。
今宵は天蝶節だ。
思えば、朝から大変な日だった。
あぁ、今日が私の最後の日だったのか。
今世最高美女とチヤホヤされたから、失恋ばかりをしてあっけなくこの世を去るのか。
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