【完結】傷物の姫 妃選抜の儀の最下位者ですが、若君、あなたは敵ではなかったのですか?

西野歌夏

文字の大きさ
59 / 66
春の宵の恋煩い編

さよならの季節⑤ 夜々の家の邑珠姫Side

しおりを挟む
 碧い煌めきが空の向こうにして、真っ直ぐに青い輝く鱗を持つ竜が降りてくる。

 私たちは気づかなかった。ご本人も妻である花蓮姫も、長年お慕い申し上げていて失恋した私も。



 世継ぎを殺されたと思った私たちは殺気だっていた。


「おのれ!花武けいむ!」


 花蓮姫は花武皇子に飛びかかった。

 だが、空から青い竜に乗った鷹宮さまが降りてきて、私たちは唖然とした。鷹宮さまの透き通るような瞳が爛々と煌めき、いつにもまして美しかった。


「どういうことだっ!?」
柳武りいむの作った薄餅を食ったな?」
「あれはそういう意味だ」
「だからどういう意味だ!?」


「お前の中に眠る力を解放したんだよ。ついでに激奈龍の法術にかからないようにしてやった」
「!?」


 私たちは呆然と成り行きを見守った。世にも美しい若君2人、それもそっくりな若君2人が煌めく鱗を持つ竜を従えて激しく睨み合っていた。


「荒技を使って申し訳ない。大体お前が早く力を示せば、激奈龍に狙われるようなこともないんだよ!」


 花武皇子の言葉に鷹宮さまはぐうの音も出ないご様子で黙り込んだ。


 鷹宮さまはやはり福仙竜だったか。
 私は息を止めてしまって見入っていたようで、慌てて息をした。

「最上格の赤い竜より格下だが、同列で青い竜と黄色い竜がいるんだ。この可哀想な姫を助けてやれる」


 花武皇子は平然と言い放った。清宮の天井には穴が空いているが、もはや誰も気にしなかった。


 な……るほど?

 冥々の家の茉莉まあり姫を助けるために?

 ですね?



「時間がない。早く助けてあげないと手遅れになるぞ」

 花武皇子が言い、鷹宮さまはすっと真顔になった。


 双子のようにそっくりなお2人とも福仙竜の主だった。決して暴いてはならない追及してはならない秘密があるのではないか……。

 出世の秘密とか?


 だが、私たちは言葉をぐっと飲み込んだ。
 不敬にも程がある考えは口にすべきではないのだから。


「花蓮姫、鷹宮、行くぞ。精神統一しよう。彼女を助けようと念じるんだ」

 
 その瞬間、光線が天を貫いた。赤い竜、黄色い竜、青い竜から放たれた光線により、あたりは数十倍明るくなった。


 ま、眩しいわ……。

 しかし、床に横たわった茉莉まあり姫はぴくりとも動かなかった。


「仕方ない」


 小さな声で言って首を振った花武皇子は大きく息を吸って、声を張った。

「激奈龍には秦野谷国からも制裁を与える。激奈龍の皇帝には退任してもらうしかあるまい。激奈龍の世継ぎの楊飛皇子の命はいただく。茉莉まあり姫、そなたは激奈龍の皇帝の愛人に居座り、御咲の国を売ろうとした。そんな姫のことを信用できる男はいないだろう。つまり、そなたを嫁にもらいたいという男はこの世にいまい」


 びくっと動いた茉莉まあり姫は、目をつぶったままギリギリと歯ぎしりをした。

 そしていきなり瞳をすっと開けた。



「あなたの狙いは何でしょうか。鷹宮さまそっくりの顔で、御咲の皇族の証である銀髪をしていらっしゃる。あなたはここで一体何をしているのでしょう?」


 花武皇子は優しい瞳で私を一瞬見て、茉莉まあり姫に囁くように言った。

「私の妃候補が危ないと聞いてね。御咲の鷹宮は今世最高美女には興味がないと聞いていた。ならば、秦野谷国の妃にという話はあった。そもそも御咲の国の選抜の儀は、花嫁修行としては最高の場所だ。男に出会わず、1年間もの間、詩吟、裁縫、琴と様々な最高級の教育を授けるのだからな。茉莉まあり姫、そなたにもチャンスは多くあっただろうに、そなたはその機会を自分で不意にしたのだ。私は用があって御咲の国に来たが、ついでに私の妃候補とされている姫に会ってみようと思った。で、邑珠ゆじゅに惚れたのだ」


 私の胸を恋の矢が射抜いた。

 だめよ。

 こんな不意打ちはだめよ。
 今世最高美女は意外とウブなのよ……。

 私は真っ赤になった。頬が火のように熱い。花武皇子けいむおうじは、もしかして本気なのかもしれない。

 
 茉莉まあり姫はキッとした目線で花武皇子を睨み、むくっと起き上がった。


邑珠ゆじゅ姫!こんな鷹宮さまの足元にも及ばないような男はご免だわよね?あなたは今世最高美女なのよっ!?」


 は……はい。


「あ!でも、まあり、気づいたのね!?」


 私は茉莉まあり姫に飛びついてギュッと抱きしめた。


「あなた、気がついたわ!助かったのよ!」


 私は泣いた。

 だが、まだやることがあると思い直して茉莉まあり姫の顔を見つめた。


「まあり、分かっているわよね?」
「えぇ?あ……もちろんよ。許さないわ」
「花蓮姫?」
「もちろんよ」

「私もだ!」

 美梨の君も花蓮姫もうなずいた。

 優琳姫と呵楪姫かちょうひめも頷いた。


 私たちは選抜の儀を汚すものを決して許さない。62家の姫としても、選抜の儀を栄えある前宮で過ごす私たちにとっても、心に鉄の掟があるのだ。


 今宵の今日の天蝶節の花火は綺麗だろう。だが、その前にやらねばならぬことがあった。


 私の入内は、予期せぬ展開になった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あなたは私を愛さない、でも愛されたら溺愛されました。

桔梗
恋愛
結婚式当日に逃げた妹の代わりに 花嫁になった姉 新郎は冷たい男だったが 姉は心ひかれてしまった。 まわりに翻弄されながらも 幸せを掴む ジレジレ恋物語

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

毎週金曜日、午後9時にホテルで

狭山雪菜
恋愛
柳瀬史恵は、輸入雑貨の通販会社の経理事務をしている28歳の女だ。 同期入社の内藤秋人は営業部のエースで、よく経費について喧嘩をしていた。そんな二人は犬猿の仲として社内でも有名だったけど、毎週金曜日になると二人の間には…? 不定期更新です。 こちらの作品は「小説家になろう」にも掲載しております。

野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
野獣御曹司から執着溺愛されちゃいました

女騎士と鴉の秘密

はるみさ
恋愛
騎士団副団長を務める美貌の女騎士・シルヴィ。部下のマリエルを王都に連れ帰ってきたのは魔女の息子・エアロだった。惹かれ合う二人だが、シルヴィが城へ行くと、エアロの母である魔女には目も合わせて貰えず…。 ※拙作『団長と秘密のレッスン』に出て来るシルヴィとエアロの話です。前作を読んでいないと、内容が分からないと思います。 ※ムーンライトノベル様にも掲載しています。

可愛げのない令嬢は甘やかされ翻弄される

よしゆき
恋愛
両親に可愛がられず、甘え方を知らず、愛嬌のない令嬢に育ったアルマ。彼女には可愛らしく愛嬌のある自分とは正反対の腹違いの妹がいた。  父に決められた婚約者と出会い、彼に惹かれていくものの、可愛げのない自分は彼に相応しくないとアルマは思う。婚約者も、アルマよりも妹のリーゼロッテと結婚したいと望むのではないかと考え、身を引こうとするけれど、そうはならなかった話。

襲われていた美男子を助けたら溺愛されました

茜菫
恋愛
伯爵令嬢でありながら公爵家に仕える女騎士イライザの元に縁談が舞い込んだ。 相手は五十歳を越え、すでに二度の結婚歴があるラーゼル侯爵。 イライザの実家であるラチェット伯爵家はラーゼル侯爵に多額の借金があり、縁談を突っぱねることができなかった。 なんとか破談にしようと苦慮したイライザは結婚において重要視される純潔を捨てようと考えた。 相手をどうしようかと悩んでいたイライザは町中で言い争う男女に出くわす。 イライザが女性につきまとわれて危機に陥っていた男ミケルを助けると、どうやら彼に気に入られたようで…… 「僕……リズのこと、好きになっちゃったんだ」 「……は?」 ムーンライトノベルズにも投稿しています。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...