「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

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1 あなた裏切ったわね

裏切りのドロワーズ

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聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の敷地内にある教会の塔は、隠れて隠微な愛を確認し合う場だったようだ。

あっん

愛撫に悶える若いメイドの声に私はショックを受けて身動きが取れなかった。私の恋人が私のメイドと愛を囁き合っている。

ショックのあまり、フローラ・ガトバン伯爵令嬢になる前の人生の記憶が頭の中に流入してきて、私は雷に打たれたような衝撃を受けた。

***

パサッ!

私の顔に彼女の下着が飛んできて、18歳の私は泣きたくなった。
数分前からとっくに泣きたくなっていて涙は既に滲んでいたが、もっと惨めな気持ちになり、みっともなく泣き崩れたくなった。

だが、心とは裏腹に、床に落ちた挑発的な下着には目もくれず、私は微動だにしなかった。
銃を構える私の手は震えていなかった。

「あんたのせいだからねっ!」
若い裸の女性は興奮して大声でわめいた。
ぴちぴちの裸の女性は修羅場を演じていた。狙いを定めて銃口を動かさない私に向かって、彼女は長い髪を振り乱してシーツをベッドからはがしてみせた。そしてそれをまるめて私に投げつけた。

シーツは宙に舞って淀んだ大気中にふわりと漂い、あえなく床に落ちた。彼女のピンク色の乳首が艶めかしく揺れて見えたが、私は唇を固く結んだまま動かなかった。

ここはダンジョン。モンスターの巣窟。

その中の隠れ家だ。
モンスターからもモンスターハンターからも、私のような嫉妬とショックでおかしくなりそうな厄介な訪問者からも姿を隠せる隠れ家だ。

私は第三特殊部隊のしがない1メンバーだ。一応勤務中である。今までは、恋をしているという思いだけが味気ない生活の中で唯一の潤いだった。
しかしたった今、私の恋人には他に寝ている女性がいたと分かった。だから、私は銃口を恋人の顔に向けていた。

裸の女性の年齢は私と大して変わらないように見えた。

――若い浮気相手?
――いや?もしかして?私の方が彼の浮気相手だった?
――この裸の女性の方が彼の本命か……?

私はカービンの銃口を裸でうろうろしている恋人に向けているのを、なぜかやめたくなった。今度は裸の女性の方に銃口を向けて構えた。

「お客様、私はモンスターがいるという情報が入って様子を確認しにきただけの第三特殊部隊のメンバーです」

事実だが、半分嘘だ。
ブロンドの髪を乱して素っ裸でうろつく恋人の瞳は、動揺のあまり忙しく泳いでいた。彼が第三特殊部隊のリーダーで、私の上司で、私の恋人だから。


ハンサムな彼の名前はクリス。26歳の若きリーダーだ。

ここ2ヶ月かけて、彼は熱心に私を口説き落とした。私の上司だったクリスは、恋人になってくれと甘い言葉を私に囁き続けて粘り強く私を説得した。彼の熱烈な愛を受け入れるよう、私に懇願し続けた。私は彼の情熱にほだされて、彼の恋人になることを承知したのだ。

それなのに。

この修羅場の最中、クリスは急所を隠そうともしていなかった。私は初めて彼の裸体の下半身を見たが、今はそれどころでなかった。

そんなことはどうでもいい。

「ご、く……ろう」
絞り出すように恋人のクリスが言うと、若い裸の女性が勝ち誇ったように私に言った。彼女の唇は熱烈なキスで腫れ上がっている。

「クリスはあんたのボスでしょ?ボスにしがみついてしがみついて、あんた彼に寝てもらいたくてたまらないって毎日彼のことを追っかけていたらしいじゃない」

若い裸の女性は信じられないことを言った。
言い訳がましい表情で落ち着かない様子のクリスは、私にこっそり目配せをしてきた。

そんな彼の情け無い顔なんて見たくもなかった。
「これは……その……」
「わ、たしがあなたを、追い回した……?」

私はカービンの銃口をぴたりとクリスの瞳に向けなおした。ロックオンしたかのように、銃口は微動だにしない。

つい数十分前、ダンジョンの先にあるキャバクラで、私は恋人のクリスが浮気しているという話を聞かされた。最初は何かの間違いだと思ったが、ここまで駆けつけて、裸でいる彼らを発見したのだ。

浮気がバレないようにわざわざダンジョンの中の隠れ家で遊んでいるらしいと、私は同僚に聞かされたのだ。
私の体内に入ったはずのお酒はとっくに分解されて、私の頭はスッキリしていた。酒を飲んだら勤務できないのに、ダンジョンまで駆けつけてしまったのだ。

「1つ教えて」
私は震える声で聞いた。
「結婚資金にしようと言っていたお金はどうしたの?」

――迂闊だった。おばあちゃんの遺産を預けた口座の話をクリスにしたのは私が大馬鹿だったからだ。

その口座にクリスがまとまったお金を入れて、口座の管理を自分がすると言ったのは3日前のこと。

次の瞬間、若い裸の女性が私に突進してきて、私は銃口をクリスから思わずそらした。
同時に私は背後にモンスターの気配を感じて、咄嗟に銃口を背後に向けた。
緑色のビルマネントの巨体が見えた。私は自分の身を守るために緑の巨体をゆすって私を襲おうとしているビルマネントにカービンの弾をぶっ放した。

だが、びっくりしたことに私の胸に穴が空いた。
――な、んで……?
力なく倒れ込む私の目に、裸のクリスがカービンを構えた姿が見えた。金髪の奥の彼の瞳は冷たく光っている。

彼は口角をあげて得意げに私に囁いた。


「ダンジョンで撃ち合いになり、俺がビルマネントに向けた弾が誤ってお前に当たった。俺にしがみつくのはやめろ」
クリスの乾いた声が聞こえた。
私に愛を囁いたクリスと同じ声で。

あっけなく崩れ落ちる私の目の前は真っ暗になって、静寂が訪れた。

悔しさと虚しさと悲しみが私の最後の記憶だった。

***


目を瞬く。光に目が眩む。

聖ケスナータリマーガレット第一女子学院はヨーロッパ最高の女子学院である。貴族や大金持ちの令嬢たちの憧れの的の由緒正しき女子学院であり、今世紀最高の花嫁教育を授けてくれると折り紙つきだ。娘たちのステータスを高めてくれると評判の学校だった。

涙が滲んだ私の目がとらえているのは、愛を囁く恋人の姿だった。
目をしばたく。

頭の奥では何が起きたのか理解できたのに、理解したくない。まさかという思いで目の前の光景を否定したい気持ちでいっぱいだった。
――ありえない……。

私、フローラ・ガトバンは18歳で、ガトバン伯爵の一人娘だ。社交界デビューを控えた私はまもなく聖ケスナータリマーガレット第一女子学院を卒業する予定だった。

私の恋人の名はクリス・オズボーン。


彼はオズボーン公爵家の嫡男だ。ブロンドの髪を色っぽくかき乱したクリスは、大胆にも聖ケスナータリマーガレット第一女子学院の教会の塔の部屋で犯行に及んでいた。

窓から光が差し込み、半裸の彼が愛を囁く相手がよく見えた。

相手の彼女は……ソフィア。

ソフィは私の連れてきたメイドだ。
天真爛漫な彼女は、クリスが囁く愛の言葉に嬉しそうに頬を赤らめていた。まるで神父の前で微笑むかのように天真爛漫な笑顔を振り撒く彼女は、絵画のように美しく見えた。

若いソフィアのメイド服は乱れていて、浅はかさと妖艶さの入り混じった体が私の視界に入った。私は血の気が引くような衝撃で息ができなくなりそうだった。




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