「俺にしがみつくのはやめろ」と言われて恋が覚めたので、しがみつかずにリリースします。相容れないとほざくあなたは、今、私に捨てられましたわ

西野歌夏

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1 あなた裏切ったわね

浮気ね(2)

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私は猛烈にお腹が空いてきていることに気づいた。クリスから逃げることはできたが、父の領地からさらに離れる方向に列車が進んでいることにショックを受けてふらついた。

「お嬢様っ!」
「大丈夫か?」
「えぇ、助けていただいてありがとうございました。ちょっと疲れただけですわ」

――しっかりするのよ、フローラ。とにかく追ってくるクリスからは離れることができたのよ。前進よ。

私はアルベルト王太子にそっと支えられて、揺れる列車の中に立っていた。

「さあ、ここは揺れるからまずは私の寝台車に案内しよう。それから食堂車に行こう」

その言葉にシャーロットの瞳がキラキラと輝くのに私は気づいた。栗色の天然カールの前髪の間からシャーロットの瞳が期待で煌めくのが見えた。彼女の汗ばんで上気したまあるい頬は薔薇色に染め上がっている。

――えぇ、シャーロット、お腹が空いたわよね。
 
「ありがとうございます。お願いします」

私は素直にアルベルト王太子に告げた。ブランドン公爵令嬢のことを今でもアルベルト王太子が好きなのだと知り、少し切ない気持ちになったのはなぜなのか分からなかったが、私は自分のことを好きでもないと公言する男性の方が今は信頼できた。

――クリスは嘘で塗り固めた嘘っぱちの愛の言葉を私に囁いていたんだから。もう、誰も信用できないわ。振られた相手を今でも思っていると平気で言えるこの異常にハンサムなアルベルト様の方がまだマシ。

「じゃ、行こうか。ついてきて」
アルベルト王太子の前にシャム猫を抱いたジャックが進み、その後ろをアルベルト王太子、私、シャーロット、荷物持ちの制服姿のお付きの人たちの順で進んだ。

アルベルト王太子の車両は貸切で、素晴らしい車両だった。緑豊かな田園風景が列車の窓から見えた。列車は飛ぶように走っていた。

「荷物はひとまずここに置いてください」
ジャックがさし示した一室にシャーロットが荷物を置き、アルベルト王太子の荷物も運びこまれた。

とくべな富裕層のために快適さと贅沢さを追求した豪華車両は、寝台車、食堂車、バー、サロンがあり、個室には高級カーテン生地と趣味のいいソファ、真ん中に置かれたピカピカに磨きこまれたテーブル、ランプがあった。高級ホテルと言っても遜色がない内装だ。

壁にかけられた贅沢な鏡をチラッと見て私は慌てた。

――えっ!待って……。髪もお化粧もめちゃくちゃじゃないっ……!こんな姿でアルベルト王太子に話していたの?

淡いピンク色の髪のカールは、走ったので乱れていて、オシャレな帽子は斜めに崩れて、口紅はもはや取れていた。眉の下の瞳は前世の記憶を思い出して、前世からの因縁のクリスの存在に打ちのめされて翳りができていた。朝までの幸福感に溢れた自分と今の自分に距離を感じた。

素早く帽子の位置を直して髪を撫でつけた私は、胸を押さえて深呼吸をした。

――これが今の私。ジタバタしないの。なるようにしかならないわ。

「いい?」
「えぇ、食堂車に行きましょうか」

アルベルト王太子にエスコートされて、私たちは豪華な食堂車に向かった。ジャックは猫をお付きの人の一人に任せて、私たちについてきた。 

アルベルト王太子と私のテーブル、ジャックとシャーロットのテーブルという組み合わせでテーブルに別れて座った。

「さあ、ワインが来る前に、君の名前を教えてもらおうか」

目の前の氷の貴公子は、容赦ない雰囲気で私をじっと見つめた。嘘のない目をしていて、冷たいとも言えるほどの美貌で私をじっと見つめている。

「私はフローラ・ガトバンですわ。助けていただきましてありがとうございました」
「ガトバン伯爵の?」
「はい、父の領地に戻ろうとしておりました」
「君を追っていたのは誰?」
「クリス・オズボーンです。私の婚約者ですが、婚約解消しようと考えてクリスから逃げていました」

私を鋭い目つきで見たアルベルト王太子は、頭を振った。
「オズボーン公爵のところのクリスか。彼の浮気が原因か?」
「そうです」

そこにワインが届いて、アルベルト王太子が一口飲んだ。彼は何かを言いたそうだったが、私がワインを一口飲む様子をじっと見つめていた。
「クリスが浮気をした現場を見たのか?」
「見ました」

私は思わず思い出して涙をこぼしそうになったが、こらえた。

――名高い著名人と高位貴族が集う食堂車で、アルベルト王太子を前に涙を見せたら、何を言われるかたまったものじゃないわ……。彼と一緒に列車の食堂車にいるだけでセンセーショナルな噂を呼ぶわよ、フローラ。しっかりして!

「彼に命を狙われているというのは?普通は浮気現場を目撃しても、そうはならないだろう?」

長いまつ毛が縁取るブルーの瞳は私を疑っているようだ。


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