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2 私を騙す気ですか?
婚約発表はするのですか?(1)
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「やあ、フローラ!今日も綺麗だな」
クリス・オズボーンは私の心に巧みに取り入った。彼は輝くような笑顔を振り撒き、父であるガトバン伯爵に事業を持ちかけてもいた。
今改めて、虫唾が走るような彼の行動を私は思い出さなければならない。
ソフィアを抱いていた彼の姿を脳裏から必死に振り払って、私はオズボーン公爵家の資産状況についての報告を思い出そうとしていた。
フローラ・ガトバン伯爵令嬢としては、オズボーン公爵家の資産状況を気にすることもなかったが、ガトバン伯爵家の執事は確かに父に苦言を呈していたのだ。
――大事なことよ、思い出して……。
『あの女を懲らしめるいい方法がある……』
クリスが四つん這いにしたソフィアを後ろから激しく突きながら言っていた言葉が脳裏にフラッシュバックして、私は固く手のひらを握りしめた。手のひらに爪が食い込んだ。
――だめ。今はクリスが想像以上のクズであることを証明をする時よ。フローラ、集中しなさい!
私は頭の中でオズボーン公爵家の資産状況を反芻した。
――クリスは新しい事業の話をお父様に持ちかけていたわ。確かお継母様もその話を推していて……でも、お父様は投資を渋っていた……。
――何の事業だったかしら?
――鉱山所領開発に失敗したオズボーン公爵家は、近年鉄道事業にも乗り出していた。だが、ライバルが現れたのよね。
――王家の誰かが鉄道事業に大規模投資をして筆頭株主に躍り出て……。『石炭と鉄の時代』において石炭で失敗したオズボーン公爵家は、鉄道事業でも計画性の面で不安定な事業に投資をしてしまい……。
――確か執事はそんな事を報告していたわ。
――だから新規の事業にまた手を出したのよ。大金が必要な大きな事業よ……。
――造船だった?
――違……う……温泉保養地の開発だわ……豪華な宿泊施設込みの温泉保養地の開発だ……。
――小さな漁村……ザヴォー・ストーン?
記憶の隅で何かが動いた。直感的に真実に近づいている気がした。
「ザックリードハルトとエイトレンスの国境にある小さな漁村の開発の話を覚えていますか?オズボーン公爵はその漁村に鉄道を通して、温泉保養地と臨海リゾートの開発を行っていました」
私は思い出した事実と、新聞で読んだ知識について話し始めた。
私たちが乗っている馬車は、セントラル中規模魔術博物館に急いでいる最中だった。
「開通させたばかりの駅にステーション・ホテルを建設して、さらに村の中央にグランドホテルを建築した。大金を投じて温泉を掘って温泉施設を作り、クリケットやフットボールができる場所や海辺の海水浴場を開発したのよ。当然ながら資金が不足して、お父様に出資を持ちかけたのがクリスだったわ」
記憶の中で父は懸命にも出資を断っていた。
――でも、陰でソフィアを抱きながら私とまんまと結婚できた後に私とお父さまを排除できたら、クリスはどうしたのかしら?
「資金が不足していたオズボーン公爵家はプライベートバンカーに借金をして開発したの。そこが確実な収益をあげる前に、破産寸前まで追い込まれていたはずよ」
――自分が恥ずかしい。少し周りを見れば、何が起きているか分かったはずなのに。全部私がクリスに入れ上げてしまっていたから、執事も困ってお父さまに苦言を呈していたのだ。
――バカな私だ。
「リゾートのオープンの日が迫っていたわ……社交シーズン開幕前に確かオープンさせるつもりだったはずだから……私がデビュタントとして忙しく準備に追われている間もクリスは資金繰りに焦っていたかもしれない」
――何度もガトバン伯爵であるお父さまはクリスに説明されて、懇願されていたわ。今から考えれば、その間を取り持っていたのはお継母さまだった?
揺れ動く馬車の中で、以前の記憶を思い出して私が話しているのアルベルト王太子はじっと聞いていた。彼も状況を思い出したようだ。
「ザヴォー・ストーンのリゾートの街のオープンか?俺がザックリードハルトでの会合の日と同じ日だったからいけないと思ったのを覚えているが……」
「そうです。ザヴォー・ストーンリゾートです。亡くなった王位継承権保有者ですが、みんなリゾートのオープンイベントに招待されていたとしたらどうかしら?」
私たちは顔を見合わせた。氷の貴公子のブルーの瞳が凍てつくような鋭さを宿した。
――私はクリスのことを完全に見誤っていたわ……。彼のハンサムな見た目と口のうまさに騙されていた……。自分が恥ずかしい。
「みんなが亡くなれば、出資した弟のフェリクスは激しく後悔して王位継承権も放棄するだろう。鉄道事業からも手を引くだろう。全てを鉄道のせいにしたオズボーン公爵は、24位から1位に繰り上がる。ザヴォー・ストーンを繰り上がった王位継承権を持つオズボーン公爵の開発した街として宣伝できるようになる」
苦々しい口調でアルベルト王太子は言った。私は車椅子生活になって、泣き崩れたあの夜のことを思い出して心が沈んだ。
「クリスは車椅子か寝たきりにされた君と結婚して、国内第2位のガトバン伯爵家の資産を自由にできるようになる。オズボーン公爵家の借金は返せるだろう。一度は乗り入れに失敗した鉄道事業もフェリクスが退いた椅子に座れば、取り戻せる……」
『あの女を懲らしめるいい方法がある……』
クリスが四つん這いにしたソフィアを激しく後ろから突きながら言っていた言葉が脳裏にフラッシュバックし、私は固く手のひらを握りしめた。
思い出しても虫唾が走る。
――絶対に思うようにはさせないわ、クリス!
クリス・オズボーンは私の心に巧みに取り入った。彼は輝くような笑顔を振り撒き、父であるガトバン伯爵に事業を持ちかけてもいた。
今改めて、虫唾が走るような彼の行動を私は思い出さなければならない。
ソフィアを抱いていた彼の姿を脳裏から必死に振り払って、私はオズボーン公爵家の資産状況についての報告を思い出そうとしていた。
フローラ・ガトバン伯爵令嬢としては、オズボーン公爵家の資産状況を気にすることもなかったが、ガトバン伯爵家の執事は確かに父に苦言を呈していたのだ。
――大事なことよ、思い出して……。
『あの女を懲らしめるいい方法がある……』
クリスが四つん這いにしたソフィアを後ろから激しく突きながら言っていた言葉が脳裏にフラッシュバックして、私は固く手のひらを握りしめた。手のひらに爪が食い込んだ。
――だめ。今はクリスが想像以上のクズであることを証明をする時よ。フローラ、集中しなさい!
私は頭の中でオズボーン公爵家の資産状況を反芻した。
――クリスは新しい事業の話をお父様に持ちかけていたわ。確かお継母様もその話を推していて……でも、お父様は投資を渋っていた……。
――何の事業だったかしら?
――鉱山所領開発に失敗したオズボーン公爵家は、近年鉄道事業にも乗り出していた。だが、ライバルが現れたのよね。
――王家の誰かが鉄道事業に大規模投資をして筆頭株主に躍り出て……。『石炭と鉄の時代』において石炭で失敗したオズボーン公爵家は、鉄道事業でも計画性の面で不安定な事業に投資をしてしまい……。
――確か執事はそんな事を報告していたわ。
――だから新規の事業にまた手を出したのよ。大金が必要な大きな事業よ……。
――造船だった?
――違……う……温泉保養地の開発だわ……豪華な宿泊施設込みの温泉保養地の開発だ……。
――小さな漁村……ザヴォー・ストーン?
記憶の隅で何かが動いた。直感的に真実に近づいている気がした。
「ザックリードハルトとエイトレンスの国境にある小さな漁村の開発の話を覚えていますか?オズボーン公爵はその漁村に鉄道を通して、温泉保養地と臨海リゾートの開発を行っていました」
私は思い出した事実と、新聞で読んだ知識について話し始めた。
私たちが乗っている馬車は、セントラル中規模魔術博物館に急いでいる最中だった。
「開通させたばかりの駅にステーション・ホテルを建設して、さらに村の中央にグランドホテルを建築した。大金を投じて温泉を掘って温泉施設を作り、クリケットやフットボールができる場所や海辺の海水浴場を開発したのよ。当然ながら資金が不足して、お父様に出資を持ちかけたのがクリスだったわ」
記憶の中で父は懸命にも出資を断っていた。
――でも、陰でソフィアを抱きながら私とまんまと結婚できた後に私とお父さまを排除できたら、クリスはどうしたのかしら?
「資金が不足していたオズボーン公爵家はプライベートバンカーに借金をして開発したの。そこが確実な収益をあげる前に、破産寸前まで追い込まれていたはずよ」
――自分が恥ずかしい。少し周りを見れば、何が起きているか分かったはずなのに。全部私がクリスに入れ上げてしまっていたから、執事も困ってお父さまに苦言を呈していたのだ。
――バカな私だ。
「リゾートのオープンの日が迫っていたわ……社交シーズン開幕前に確かオープンさせるつもりだったはずだから……私がデビュタントとして忙しく準備に追われている間もクリスは資金繰りに焦っていたかもしれない」
――何度もガトバン伯爵であるお父さまはクリスに説明されて、懇願されていたわ。今から考えれば、その間を取り持っていたのはお継母さまだった?
揺れ動く馬車の中で、以前の記憶を思い出して私が話しているのアルベルト王太子はじっと聞いていた。彼も状況を思い出したようだ。
「ザヴォー・ストーンのリゾートの街のオープンか?俺がザックリードハルトでの会合の日と同じ日だったからいけないと思ったのを覚えているが……」
「そうです。ザヴォー・ストーンリゾートです。亡くなった王位継承権保有者ですが、みんなリゾートのオープンイベントに招待されていたとしたらどうかしら?」
私たちは顔を見合わせた。氷の貴公子のブルーの瞳が凍てつくような鋭さを宿した。
――私はクリスのことを完全に見誤っていたわ……。彼のハンサムな見た目と口のうまさに騙されていた……。自分が恥ずかしい。
「みんなが亡くなれば、出資した弟のフェリクスは激しく後悔して王位継承権も放棄するだろう。鉄道事業からも手を引くだろう。全てを鉄道のせいにしたオズボーン公爵は、24位から1位に繰り上がる。ザヴォー・ストーンを繰り上がった王位継承権を持つオズボーン公爵の開発した街として宣伝できるようになる」
苦々しい口調でアルベルト王太子は言った。私は車椅子生活になって、泣き崩れたあの夜のことを思い出して心が沈んだ。
「クリスは車椅子か寝たきりにされた君と結婚して、国内第2位のガトバン伯爵家の資産を自由にできるようになる。オズボーン公爵家の借金は返せるだろう。一度は乗り入れに失敗した鉄道事業もフェリクスが退いた椅子に座れば、取り戻せる……」
『あの女を懲らしめるいい方法がある……』
クリスが四つん這いにしたソフィアを激しく後ろから突きながら言っていた言葉が脳裏にフラッシュバックし、私は固く手のひらを握りしめた。
思い出しても虫唾が走る。
――絶対に思うようにはさせないわ、クリス!
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