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第一章
レティシアの恋心(レティシアの場合)
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私はレティシア・コーネリー・モンテヌオーヴォだ。ジークベインリードハルトのモンテヌオーヴォ公爵家の長女だ。
「一緒に入ろう」
ケネス王子にささやかれて、私は思わずうなずいた。
――でも、私は男性とそういったことをしたことがない。当たり前だわ。貴族の娘なら誰も結婚前にそういったことをしたことがない……ケネスは私の体を見ても正気でいられるかしら?私は胸がとても大きくて、自分で言うのもなんだけれども美しいわ。それなのに大好きなケネスと一緒に湯に入るのは、やって良いことなのかしら?ああ、お母様、私はこの場合はどうするのが良いのかしら?
私は爪を噛んでしまった。普段は絶対にしない行動だ。悩ましい問題にどうしようもない焦りを感じてその場でぐるぐる同じところを歩き回ってしまう。
遠いジークベインリードハルトにいる母の答えを聞きたくて、助けを求めたかった。ロザーラに相談しようと思っても、さっきラファエルはロザーラに一緒に入ろうとささやいていた。
――やだ……一人で解決できない事態に陥ったわ。ラファエルは私のことを振り向いてくれなかったから、こんなことは起こらなかったわ。だから悶々と悩んだんでしょう、レティシア。ケネス王子は私のことを妻にする許しを陛下からいただいてくれたのよ。さあ、覚悟を決めるのよ。ただ、服を脱いで泳ぐみたいに入るだけよ。いえ……そんなわけないじゃないっ!泳ぐみたいなことじゃ全然ないわ……。
私はもうどうしたら良いのかわからなくなった。恋をして、いざ恋が実るとこういう事態になるのだと初めて理解した。
先に浴室に向かったケネスを、私は待たせたままだった。そして、湯気のたつ浴室にそっと体を滑り込ませた。ゆっくりと服を脱ぎかけた。
「ケネス?」
「うん」
湯の中でケネスは顔を真っ赤にして私を見つめていた。私に恋をする人が私を見つめる時の瞳だ。でも、私は同時に彼に恋をするという奇跡を初めて体感しているのだ。
――そうよ。私だけが初めてじゃないわ。ケネスだってこういうことは初めてなのだわ。
私は少しだけほっとした。
「ケネス、私は初めてなの」
「うん」
「だから、いきなり一緒には入れないわ。私は別の浴室を使うわ。あとで会いましょう」
私はそれだけささやくと、また服を着込んだ。少し体のラインが見えてしまったかもしれないけれど、ケネスの前でまだ服は脱いではいない。
「わかった。愛しているよ」
ケネスは私にそうささやいた。少し見えてしまったのか、恍惚とした表情で私を見つめていたのに、ハッと我に返った様子だった。
私はケネス王子の浴室を出た。どこかほっとしながら侍女の待つ自分の浴室に向かった。
――私は彼の花嫁になるわ。次は覚悟を決めましょう。
私はそう思いながら、自分の浴室に入り、侍女に手伝ってもらいながら服を脱いで湯に入った。夕焼けはもう終わりかけていて、空は赤から暗くなりつつあったけれども、信じられないほどの絶景が窓からは広がっていた。
湯の場所に花がいけてあった。甘い香りとスパイシーな香りが同時にする花だ。ピンクの花びらが上品にこちらを向いている。リューココリーネ・コキンペンシスの花言葉は「純粋」「貴婦人」「慎重な恋」だ。
そう、早まってはならない。本物の恋は、実らせるのだ。
「一緒に入ろう」
ケネス王子にささやかれて、私は思わずうなずいた。
――でも、私は男性とそういったことをしたことがない。当たり前だわ。貴族の娘なら誰も結婚前にそういったことをしたことがない……ケネスは私の体を見ても正気でいられるかしら?私は胸がとても大きくて、自分で言うのもなんだけれども美しいわ。それなのに大好きなケネスと一緒に湯に入るのは、やって良いことなのかしら?ああ、お母様、私はこの場合はどうするのが良いのかしら?
私は爪を噛んでしまった。普段は絶対にしない行動だ。悩ましい問題にどうしようもない焦りを感じてその場でぐるぐる同じところを歩き回ってしまう。
遠いジークベインリードハルトにいる母の答えを聞きたくて、助けを求めたかった。ロザーラに相談しようと思っても、さっきラファエルはロザーラに一緒に入ろうとささやいていた。
――やだ……一人で解決できない事態に陥ったわ。ラファエルは私のことを振り向いてくれなかったから、こんなことは起こらなかったわ。だから悶々と悩んだんでしょう、レティシア。ケネス王子は私のことを妻にする許しを陛下からいただいてくれたのよ。さあ、覚悟を決めるのよ。ただ、服を脱いで泳ぐみたいに入るだけよ。いえ……そんなわけないじゃないっ!泳ぐみたいなことじゃ全然ないわ……。
私はもうどうしたら良いのかわからなくなった。恋をして、いざ恋が実るとこういう事態になるのだと初めて理解した。
先に浴室に向かったケネスを、私は待たせたままだった。そして、湯気のたつ浴室にそっと体を滑り込ませた。ゆっくりと服を脱ぎかけた。
「ケネス?」
「うん」
湯の中でケネスは顔を真っ赤にして私を見つめていた。私に恋をする人が私を見つめる時の瞳だ。でも、私は同時に彼に恋をするという奇跡を初めて体感しているのだ。
――そうよ。私だけが初めてじゃないわ。ケネスだってこういうことは初めてなのだわ。
私は少しだけほっとした。
「ケネス、私は初めてなの」
「うん」
「だから、いきなり一緒には入れないわ。私は別の浴室を使うわ。あとで会いましょう」
私はそれだけささやくと、また服を着込んだ。少し体のラインが見えてしまったかもしれないけれど、ケネスの前でまだ服は脱いではいない。
「わかった。愛しているよ」
ケネスは私にそうささやいた。少し見えてしまったのか、恍惚とした表情で私を見つめていたのに、ハッと我に返った様子だった。
私はケネス王子の浴室を出た。どこかほっとしながら侍女の待つ自分の浴室に向かった。
――私は彼の花嫁になるわ。次は覚悟を決めましょう。
私はそう思いながら、自分の浴室に入り、侍女に手伝ってもらいながら服を脱いで湯に入った。夕焼けはもう終わりかけていて、空は赤から暗くなりつつあったけれども、信じられないほどの絶景が窓からは広がっていた。
湯の場所に花がいけてあった。甘い香りとスパイシーな香りが同時にする花だ。ピンクの花びらが上品にこちらを向いている。リューココリーネ・コキンペンシスの花言葉は「純粋」「貴婦人」「慎重な恋」だ。
そう、早まってはならない。本物の恋は、実らせるのだ。
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