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第三章

新しい旅

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 馬に乗って私たちは騎士と共に大陸横断の旅に出発しようとしていた。ラファエル、レティシア、ケネスはにこやかに笑いながら、騎士たちと話している。第一ウィリアムと姉のマリアンヌの結婚式に出席するための旅だ

 夏のコンラート地方は素晴らしかった。樹木とどこまでも広がる畑と、ところどころに夏の花が咲くさまは私たちの気持ちを晴れやかにしてくれた。

 フランリヨンド切っての景勝地と知られるリーデンマルク川沿いのベルタからブロワのエーリヒ城、ヴァイマルのヴィッターガッハ伯爵家の広大な葡萄畑、聖イーブル女子修道院、岩山の上のハイルヴェルフェ城、ジークベインリードハルトの帝国自由都市ショーンブルクのシュトラウト大聖堂、百合とオリーブの木の紋章を持つ最大商社のロレード家、フルトのランヒフルージュ城、シャン・リュセ城、都ジークベインの宮殿。大陸を横断して流れる美しいリーデンマルク川――。

 私の前回の大陸横断の旅は命懸けの冒険と熱烈な恋の冒険だった。


 ふと気づくと、城門の辺りが騒がしい。

「早馬でございます!」

 慌てた様子の城門から騎士が走ってきた。私たちは、騎士の後ろから見慣れぬデザインの服を着た使者がリシェール伯爵領の従者と一緒にやってくるのを見つめた。

 何かしら?

 ラファエルは眉をひそめて使者に渡された手紙の封を確認している。私は馬に乗ったまま、ラファエルが見せてくれた封筒の紋章を見た。

 ブリテン王家の紋章に似ている。本物に見える。一体なんだろう。

「白紙だ」

 ラファエルは封筒の中に入っていた紙を広げて、中の紙を私たちに見せてくれた。真っ白だ。デジャブだ。この光景は前にも何度も見たことがある。

「あ、小さな羊皮紙が入っている。これにも何も書かれていない」

 ラファエルが小さな羊皮紙に気づいて、その羊皮紙を私に渡してくれた。私はそっとその細長い羊皮紙を手に取り、日にかざした。

「新たな大陸の皇帝選抜の旅にようこそ」

 私が日にかざして読み取ったギリシャ語を読み上げると、皆が困惑した表情で叫んだ。

「なんだって?」
「嘘でしょう?」
「また?」

 ラファエルと私は顔を見合わせた。レティシアとケネスもひどく驚いていた表情で顔を見合わせている。

 ラファエルの姿の向こうに、庭に咲くストレリチアの鮮やかな黄色い花が見えた。今年から咲いたと聞いた。とても珍しい花だ。誰が植えたのかわからないままそのままにしていたが、ストレリチアの花言葉は「輝かしい未来」「女王の輝き」「強運」だ。

 ジークベインリードハルトの皇帝になることは決まった。フルトのエウラロメス大聖堂で戴冠式を行うまであと二年と少しある。その前に―。


 別の大陸の皇帝を選ぶための新しい旅が始まるようだ。

 私とラファエルは目を見合わせて、見つめ合い、互いにうなずきあった。

「いいね?」
「いいわ」

 ラファエルの唇が私の唇に重なり、私たちは熱い抱擁を交わした。
 
 
 白い雪のような花びらがはらはらと落ちてきた。満開に咲いた白いクチナシの花だ。風に乗って甘い香りが運ばれると共に天使が降りてきたと言われる花だ。花言葉は「喜びを運ぶ」だ。

 夏の雪のような花びらが、喜びを運んで落ちてきた。 
 




           完



※完結しました。こんなつたない文章を読んでくださり、本当に励まされました。ありがとうございました!日常が大変過ぎて更新できない日があり、大変申し訳ありませんでした。お読みくださり、ありがとうございました!!

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