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襲われる(1)

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 まさにその時、部屋の扉を勢いよく叩く音がした。女性の声だ。私たち二人は凍りついた。私はドレスのスカートを元に戻そうとした。

「早く出発しないとならないわ、ジョシュア」

 扉がまた叩かれた。

「夜までに都まで辿り着かないとならないのよ。馬の準備はできたわよ。今晩バリイエル王朝の君主宣言をするには、今すぐに出発しないとならないわ」

 ――やっぱり、ジョシュアがこの国の次の国王となるのね。

「リリア、待ってくれ」

 その時ズボンを引き上げてジョシュアは立ち上がった。そして部屋の向こうでドアを叩く女性に声をかけた。

 ――リリア?いま、ジョシュアはリリアと言ったわ。嘘でしょうっ!なぜ夫を殺したリリア・マクエナローズ・バリイエルがここにいるの?

 私の脳裏に一糸纏わぬ姿で夫ともつれあい、挙句に夫を殺し、『親子揃って女好きの腐った豚め』と吐き捨てるように言いながら、死んだ夫に唾を吐きかけた金髪の美しいリリアの姿が脳裏に浮かんだ。今朝、リリアは私の夫をあやめた。

 ――あの苛烈な女がここにいる?

 ――ちょっと待って?つまり、リリアが夫を殺して逃げるための荷車に私は乗り込んでいたということ?

 私はゾッとした。今朝方皇太子殺害現場にいた私とリリアが、偶然にも同時刻にジョシュアの館にいるという事実から、私は真実を悟ってしまった。確かに、荷車の御者は女だった。荷車の馬をなだめている声は女の声だった。

 ――あれは、リリアの声だったのね?私は彼女が現場から逃走するために使った荷車に乗り合わせていたのだわ。なんてこと……!

「待てないわよっ!」

 女性の怒鳴る声がした途端、ジョシュアの部屋のドアが乱暴に開けられた。同時に金髪のリリアが部屋に飛び込んできた。今朝私が見た時とは違ってリリアは服を着ていた。男性のような格好だけれども、確かにリリアに間違いない。

「あんたっ!なにをしているの!?」


 リリアはジョシュアのベッドに横たわった私を見るなり、絶叫するように叫んだ。目を見開き、驚愕した表情で私を睨んでいる。

「この女!あの豚の女がなんでここにいるのよっ!」

 リリアは私に飛びかかってきた。

「私があんたの男に何をされたのか知っているでしょっ!」

 リリアは猛烈な剣幕で私に平手打ちをした。そして短剣を取り出して鞘を抜き、私のドレスを引き裂いた。

 私のドレスは引き裂かれた。私は必死に逃げようとして、ベッドから降りてドアの方に身をよじった。体が見えていようがいまいがどうでも良かった。私だってリリアの一糸纏わぬ姿を既に見ている。私は必死に逃げた。リリアはキラリと刃を煌めかせて突進してきた。

「望まぬ相手に触れられるって死ぬほど反吐が出ることなのよっ!」

 ――殺されるっ!

「やめろっ!リリア!」

 ジョシュアが叫んで、リリアの突進を阻もうとした。私も逃げようとした。ジョシュアがリリアの体をつかみ、飛びかかったリリアの短剣の先が私の体に触れた。

 私は心臓を刺されて床に倒れた。強烈な痛みが襲う。体が動かなくなった。ジョシュアの泣き叫ぶ声がする。
 
 意識が遠のき、視界がぼんやりと薄れた。何もかもが真っ白になり、やがて私は息絶えた。
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