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11 だめ。リジーじゃなきゃだめ
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リジー!
遠くから私を呼ぶ声がする。
あれ?
誰……?
誰の声?
私は全力で走って声の方に行く。
追いつかない。
目を開けると、心配そうな顔で覗き込むマリーと目が合った。
あの声は何?
ガバッとベッドから飛び起きた私は、横でマリーが心配そうに言うのを聞いた。
「お嬢様、ひどくうなされていましたよ」
胸騒ぎがする。
ガリエペンとの会合は大成功だった。
互いにメリットのある取り決めがされて、国王もガリエペンの宰相も大臣たちも大満足だった。
そうだ。
ヨナン妃が第一妃を降りたいと言い出すまでは、平和だったのだ。
宴の後、「降りる」とアラン王子にこっそり申し出たらしい。
ヨナン妃を説得するために、今晩はアラン王子は私とは過ごさなかった。
今は深夜だ。
辺りは寝静まっている。
私は飛び起きた。
ネグリジェの上にガウンを羽織る。
ランプに火を灯してそっと廊下に出た。
マリーは黙ってついてきた。
アラン王子の部屋まで行ってみよう。
胸騒ぎの元を確かめたい。
アラン王子の部屋には誰もいなかった。
夜は従者が立つのだが、その従者もいなかった。
まだ、ヨナン妃の部屋にいるの?
私は胸元のガウンをギュッと握りしめた。
自分が何が怖いのか分からない。
しっかりして、私。
踏み込んで確かめるのよ。
「お嬢様?」
マリーが私にささやいた。
「ヨナン妃のところに行くわ」
「お待ちくださいっ!」
忠実なマリーは、私を必死で止めようとした。小声で「やめた方がよろしいのではないでしょうか」と言っている。
ヨナン妃が第一妃だから。
第二妃は夜の邪魔をしてはならない。
『死ぬほど好き』
確かにヨナン妃は私にそう言ったのだ。
アラン王子のことが好き。
私は見てはならぬものを見ようとしているの?
ふざけた気分には全然っならない。
知ってはならないことがあるのではないかしら?
そう思っている。
私はマリーが押し留めようとするのを遮り、ズンズンとヨナン妃の部屋まで歩いて行った。
なんとなく場所は知っていた。
「マリー、仲良くなったヨナン妃の侍女の名前は何だったかしら?」
「ルーシーでございますわ」
ヨナン妃の部屋の前には、従者がいた。
アラン王子の部屋の前の夜番たちだ。
ビンゴ!
やっぱりここにアラン王子がいる。
こんな夜更けまでヨナン妃の元に。
私の心はチクチクを通り過ぎて、宿代も払えない金ナシ既婚者が、いつの間にか私の中で、身を焦がす恋の対象になってしまったことを自覚した。
どうしよう。
ヨナン妃はアラン王子が好き。
アラン王子は?
私の心臓は飛び出しそうだ。
ドキドキが止まらない。
手が震える。
嫉妬でどうにかなってしまいそう。
「うわっ!負けた!」
「はーい!罰ゲームぅぅ」
部屋の中から突然馬鹿げた声が聞こえてきて、「いやーん!」とヨナン妃の楽しげに叫ぶ声がした。
えっ!?
罰ゲーム?
私は深呼吸をして、王子の従者を押し除けて、扉をそっと開けた。
ベッドの前の床の上に誰か座り込んでいる。
ヨナン妃とアラン王子と、ヨナン妃の侍女だ!
全員服を着ている!
ほっとして、ツカツカと3人のすぐそばまで近づいた。
私ったら、何を想像していたの?
やだーっ!
「おっ!リジー。一緒にやる?」
「あら、一緒にやる?」
ヨナン妃とアラン王子が私を振り向いて笑いかけた。
床の上に広げられていたのは、トランプだった。
酒瓶とグラス。
2人とも相当酔っている。
かなり酒臭い。
「ルーシー、あなたはもう寝なさい」
ヨナン妃はルーシーにひらひら手を振って、下がらせた。
どうやらお酒を飲みながらトランプに興じていた?
「マリー、もう寝ていていいわ。私はここでトランプに混ぜてもらったら、適当に寝るから」
私はマリーも下がらせた。
「お嬢様、かしこまりました」
マリーはほっとした表情をしていた。
修羅場を想像していたに違いない。
愛し合う王子と第一妃の間に突撃する第二妃とか?
私だって、そうなると覚悟したくらいだ。
マリー、私も心底安心した。
「あのね。俺たちの初夜は、これ」
ヨナン妃がひらひらとした手でトランプの札を私に振ってみせた。
へ?
初夜がトランプ?
何かの隠語ですか?
「私たちのに間はなーんにもなかった。うん。少しはあったけど。でも、男だってバラした時のアランったら、すごかったのよぉ。ベッドから転がり落ちたんだから」
うふふっと妖艶に笑うヨナン妃。
真っ赤になるアラン王子。
「リジー、俺とアランが関係持ったと疑っていたでしょ?まぁあながち……」
「ヨナン!」
バシッとアラン王子がヨナン妃の口を手のひらで押さえた。
「……」
「それはなかったってことですか?」
私は意外にも、いや、嬉しくて、声が裏返って聞いた。
コクコクとヨナン妃がうなずき、アラン王子もキッパリと「ない!」と叫んだ。
よかったー。
なんだ、そうなんだ。
2人の間には何もなかったんだ……。
「ま、いい。俺は降りる。リジーに譲る」
降りるって。どういう?
「俺はイザークとして仕える」
「は?今なんて?」
私は意味が分かって、次の瞬間には絶句して黙り込んだ。
「アランの初めての相手はヨナン。俺の従姉妹」
部屋がシンと寝り返ったその瞬間、アラン王子がヨナン妃に飛びかかって口を塞ごうとした。でも、私にはその言葉がしっかり聞こえていた。
初めての相手はヨナン?
従姉妹?
私は奈落の底に落ちたように、ひゅっと息を飲んだ。
「俺は本物のヨナンの代わり。本物のヨナンは実在するからねぇ。これは隠しても、リジーにはいつかバレるんだから、アラン諦めなって」
諭すようにヨナン妃が言った。
私は絶句した。
本物のヨナンがいて、アラン王子の初体験の相手はヨナン?
「アラン王子の初めての相手は、本物のヨナン妃ということですか?」
「うーん。結婚はしていなかたから、ただのヨナンの時かな。俺と違って女性。イザークは俺の本名」
私は泣きたくなった。
「俺とヨナンは瓜二つなんだよね。政略結婚だったんだ。でも、アランがヨナンに惹かれて前向きになり、結婚が予定より早まった」
「政略結婚?」
私の耳が少し遠くなったのだろうか。
なんだか聞きたくないような、耳がふわふわする感じだ。
急激なストレスで聞こえにくい。
「イエスだ、リジー。元々、利権が絡む複雑な国家間の問題を解消するための政略結婚が仕組まれていた。ヨナンがアランとの結婚を嫌がって、仕方なく俺が身代わりになった」
「本物のヨナンが結婚を嫌がった?ほんと?」
初夜のベッドインの時、いざことをしようとしたアラン王子は、嫁いだのは男だと種明かしされて、そう告げられたようだ。
突然のことで、アラン王子も相当に戸惑ったようだ。
「でも、ヨナンとアランは先に結ばれていたってところがポイント。結婚する前にヨナンはアランを弄んだ」
はぁっ!?
ヨナンはアランを弄んだ?
なんちゅー女だ。
婚前合体か。
もしかしてその時処女喪失?
「あぁ、ヨナンの初めての相手は、別にいるから。アランがただ弄ばれただけ」
アラン王子は赤くなったり青くなったり、やけ酒を煽るようにグラスの中の酒をかっくらうように飲んでいる。
いつの間にかベッドからピローを1つ持ってきて、大人しく抱いている。
こんなイケメンが切ない初恋の果てに、どうしようもなく傷ついたという図なのだろうか。
「俺は振られたの」
アラン王子は煌めく瞳で言った。
「俺は情けない王子なの」
アラン王子は私の方を見つめて、切ない調子で言った。
「リジー、俺はリジーがいないとダメな奴なんだ」
アラン王子はしかめた顔で言った。
「リジーにしか勃たない」
「は?」
「え?アランなんて!?」
これにはヨナン妃も驚いた顔をしてアラン王子を見つめた。
「もー、だめ。リジーじゃなきゃだめ」
呂律がまわらなくなってきたアラン王子は、私にそうささやくと、後ろにひっくり返って、気を失うように寝入ってしまった。
今、私じゃないとたたないって言った!?
今、言ったよね!?
そういうことだよね……?
あの最初の夜、ことの最中に「愛している」って何度も言われたような気がしたけれど、こんなに軽い男なら、絶対に気のせいだと思っていたけれど、そういうことなの?
私としかできなくなってたってこと!?
きゃーっ!?
責任重大じゃない。
私、にやけるのをやめなさいっ!
はしたないっ!
「なーに、にやけちゃって。アラン、そんな事になってたなんて……」
へーっとヨナン妃改めイザークは、ぼんやり宙を見つめて考え込んだ。
だが、突然色っぽい顔で私を見つめて、私の耳に息を吹きかけたヨナン妃。
いやっんっ
私は思わず悶えたけれど、はしっと胸を両手で抱えて防御した。
「この身はアラン王子の身なのっ」
私がヨナン妃を嗜めると、一瞬真顔になったヨナン妃は、フッとつぶやいた。
「ますますリジーが欲しくなること言うんだから。俺じゃだめ?」
「だーめ」
「可愛いなぁ。でも、リジー。俺が降りるってことは、本物のヨナンと入れ替わるってことだから。用心しなよ」
へ?
今なんて?
本物のヨナンと入れ替わる……。
「流石にバレるっしょ。子はできないし。第二妃に夢中って噂が本国に届いて、ヨナンが俄然アランに興味を持ったと言うわけ。アランにちょっかいを出したいらしい。俺もそろそろ騙しきれない限界だしねぇ」
妖艶な微笑みを浮かべたイザークにそう言われて、私は呆然とした。
アラン王子の初めての相手が、こちらにやってくる?
第一妃として?
ちくりどころではない、嫉妬の痛みが私を猛烈に貫いた。
「リジー、もっと……」
むにゃむにゃと寝ぼけて呟きながら正体もなく寝入るアラン王子は、神々しいまでのイケメンだった。
寝言はまあ、間抜けだけど。
2人でなんとかヨナン妃のソファまでアラン王子を運び、私はそのままフラフラと自分の部屋のベッドまで戻った。
早くも失恋の気分だ。
太刀打ちできない美女が襲来する。
ヨナン妃が女だったら、多分、アランはいちころだ。
そんな気持ちでいっぱいだ。
どうする、私?
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。
遠くから私を呼ぶ声がする。
あれ?
誰……?
誰の声?
私は全力で走って声の方に行く。
追いつかない。
目を開けると、心配そうな顔で覗き込むマリーと目が合った。
あの声は何?
ガバッとベッドから飛び起きた私は、横でマリーが心配そうに言うのを聞いた。
「お嬢様、ひどくうなされていましたよ」
胸騒ぎがする。
ガリエペンとの会合は大成功だった。
互いにメリットのある取り決めがされて、国王もガリエペンの宰相も大臣たちも大満足だった。
そうだ。
ヨナン妃が第一妃を降りたいと言い出すまでは、平和だったのだ。
宴の後、「降りる」とアラン王子にこっそり申し出たらしい。
ヨナン妃を説得するために、今晩はアラン王子は私とは過ごさなかった。
今は深夜だ。
辺りは寝静まっている。
私は飛び起きた。
ネグリジェの上にガウンを羽織る。
ランプに火を灯してそっと廊下に出た。
マリーは黙ってついてきた。
アラン王子の部屋まで行ってみよう。
胸騒ぎの元を確かめたい。
アラン王子の部屋には誰もいなかった。
夜は従者が立つのだが、その従者もいなかった。
まだ、ヨナン妃の部屋にいるの?
私は胸元のガウンをギュッと握りしめた。
自分が何が怖いのか分からない。
しっかりして、私。
踏み込んで確かめるのよ。
「お嬢様?」
マリーが私にささやいた。
「ヨナン妃のところに行くわ」
「お待ちくださいっ!」
忠実なマリーは、私を必死で止めようとした。小声で「やめた方がよろしいのではないでしょうか」と言っている。
ヨナン妃が第一妃だから。
第二妃は夜の邪魔をしてはならない。
『死ぬほど好き』
確かにヨナン妃は私にそう言ったのだ。
アラン王子のことが好き。
私は見てはならぬものを見ようとしているの?
ふざけた気分には全然っならない。
知ってはならないことがあるのではないかしら?
そう思っている。
私はマリーが押し留めようとするのを遮り、ズンズンとヨナン妃の部屋まで歩いて行った。
なんとなく場所は知っていた。
「マリー、仲良くなったヨナン妃の侍女の名前は何だったかしら?」
「ルーシーでございますわ」
ヨナン妃の部屋の前には、従者がいた。
アラン王子の部屋の前の夜番たちだ。
ビンゴ!
やっぱりここにアラン王子がいる。
こんな夜更けまでヨナン妃の元に。
私の心はチクチクを通り過ぎて、宿代も払えない金ナシ既婚者が、いつの間にか私の中で、身を焦がす恋の対象になってしまったことを自覚した。
どうしよう。
ヨナン妃はアラン王子が好き。
アラン王子は?
私の心臓は飛び出しそうだ。
ドキドキが止まらない。
手が震える。
嫉妬でどうにかなってしまいそう。
「うわっ!負けた!」
「はーい!罰ゲームぅぅ」
部屋の中から突然馬鹿げた声が聞こえてきて、「いやーん!」とヨナン妃の楽しげに叫ぶ声がした。
えっ!?
罰ゲーム?
私は深呼吸をして、王子の従者を押し除けて、扉をそっと開けた。
ベッドの前の床の上に誰か座り込んでいる。
ヨナン妃とアラン王子と、ヨナン妃の侍女だ!
全員服を着ている!
ほっとして、ツカツカと3人のすぐそばまで近づいた。
私ったら、何を想像していたの?
やだーっ!
「おっ!リジー。一緒にやる?」
「あら、一緒にやる?」
ヨナン妃とアラン王子が私を振り向いて笑いかけた。
床の上に広げられていたのは、トランプだった。
酒瓶とグラス。
2人とも相当酔っている。
かなり酒臭い。
「ルーシー、あなたはもう寝なさい」
ヨナン妃はルーシーにひらひら手を振って、下がらせた。
どうやらお酒を飲みながらトランプに興じていた?
「マリー、もう寝ていていいわ。私はここでトランプに混ぜてもらったら、適当に寝るから」
私はマリーも下がらせた。
「お嬢様、かしこまりました」
マリーはほっとした表情をしていた。
修羅場を想像していたに違いない。
愛し合う王子と第一妃の間に突撃する第二妃とか?
私だって、そうなると覚悟したくらいだ。
マリー、私も心底安心した。
「あのね。俺たちの初夜は、これ」
ヨナン妃がひらひらとした手でトランプの札を私に振ってみせた。
へ?
初夜がトランプ?
何かの隠語ですか?
「私たちのに間はなーんにもなかった。うん。少しはあったけど。でも、男だってバラした時のアランったら、すごかったのよぉ。ベッドから転がり落ちたんだから」
うふふっと妖艶に笑うヨナン妃。
真っ赤になるアラン王子。
「リジー、俺とアランが関係持ったと疑っていたでしょ?まぁあながち……」
「ヨナン!」
バシッとアラン王子がヨナン妃の口を手のひらで押さえた。
「……」
「それはなかったってことですか?」
私は意外にも、いや、嬉しくて、声が裏返って聞いた。
コクコクとヨナン妃がうなずき、アラン王子もキッパリと「ない!」と叫んだ。
よかったー。
なんだ、そうなんだ。
2人の間には何もなかったんだ……。
「ま、いい。俺は降りる。リジーに譲る」
降りるって。どういう?
「俺はイザークとして仕える」
「は?今なんて?」
私は意味が分かって、次の瞬間には絶句して黙り込んだ。
「アランの初めての相手はヨナン。俺の従姉妹」
部屋がシンと寝り返ったその瞬間、アラン王子がヨナン妃に飛びかかって口を塞ごうとした。でも、私にはその言葉がしっかり聞こえていた。
初めての相手はヨナン?
従姉妹?
私は奈落の底に落ちたように、ひゅっと息を飲んだ。
「俺は本物のヨナンの代わり。本物のヨナンは実在するからねぇ。これは隠しても、リジーにはいつかバレるんだから、アラン諦めなって」
諭すようにヨナン妃が言った。
私は絶句した。
本物のヨナンがいて、アラン王子の初体験の相手はヨナン?
「アラン王子の初めての相手は、本物のヨナン妃ということですか?」
「うーん。結婚はしていなかたから、ただのヨナンの時かな。俺と違って女性。イザークは俺の本名」
私は泣きたくなった。
「俺とヨナンは瓜二つなんだよね。政略結婚だったんだ。でも、アランがヨナンに惹かれて前向きになり、結婚が予定より早まった」
「政略結婚?」
私の耳が少し遠くなったのだろうか。
なんだか聞きたくないような、耳がふわふわする感じだ。
急激なストレスで聞こえにくい。
「イエスだ、リジー。元々、利権が絡む複雑な国家間の問題を解消するための政略結婚が仕組まれていた。ヨナンがアランとの結婚を嫌がって、仕方なく俺が身代わりになった」
「本物のヨナンが結婚を嫌がった?ほんと?」
初夜のベッドインの時、いざことをしようとしたアラン王子は、嫁いだのは男だと種明かしされて、そう告げられたようだ。
突然のことで、アラン王子も相当に戸惑ったようだ。
「でも、ヨナンとアランは先に結ばれていたってところがポイント。結婚する前にヨナンはアランを弄んだ」
はぁっ!?
ヨナンはアランを弄んだ?
なんちゅー女だ。
婚前合体か。
もしかしてその時処女喪失?
「あぁ、ヨナンの初めての相手は、別にいるから。アランがただ弄ばれただけ」
アラン王子は赤くなったり青くなったり、やけ酒を煽るようにグラスの中の酒をかっくらうように飲んでいる。
いつの間にかベッドからピローを1つ持ってきて、大人しく抱いている。
こんなイケメンが切ない初恋の果てに、どうしようもなく傷ついたという図なのだろうか。
「俺は振られたの」
アラン王子は煌めく瞳で言った。
「俺は情けない王子なの」
アラン王子は私の方を見つめて、切ない調子で言った。
「リジー、俺はリジーがいないとダメな奴なんだ」
アラン王子はしかめた顔で言った。
「リジーにしか勃たない」
「は?」
「え?アランなんて!?」
これにはヨナン妃も驚いた顔をしてアラン王子を見つめた。
「もー、だめ。リジーじゃなきゃだめ」
呂律がまわらなくなってきたアラン王子は、私にそうささやくと、後ろにひっくり返って、気を失うように寝入ってしまった。
今、私じゃないとたたないって言った!?
今、言ったよね!?
そういうことだよね……?
あの最初の夜、ことの最中に「愛している」って何度も言われたような気がしたけれど、こんなに軽い男なら、絶対に気のせいだと思っていたけれど、そういうことなの?
私としかできなくなってたってこと!?
きゃーっ!?
責任重大じゃない。
私、にやけるのをやめなさいっ!
はしたないっ!
「なーに、にやけちゃって。アラン、そんな事になってたなんて……」
へーっとヨナン妃改めイザークは、ぼんやり宙を見つめて考え込んだ。
だが、突然色っぽい顔で私を見つめて、私の耳に息を吹きかけたヨナン妃。
いやっんっ
私は思わず悶えたけれど、はしっと胸を両手で抱えて防御した。
「この身はアラン王子の身なのっ」
私がヨナン妃を嗜めると、一瞬真顔になったヨナン妃は、フッとつぶやいた。
「ますますリジーが欲しくなること言うんだから。俺じゃだめ?」
「だーめ」
「可愛いなぁ。でも、リジー。俺が降りるってことは、本物のヨナンと入れ替わるってことだから。用心しなよ」
へ?
今なんて?
本物のヨナンと入れ替わる……。
「流石にバレるっしょ。子はできないし。第二妃に夢中って噂が本国に届いて、ヨナンが俄然アランに興味を持ったと言うわけ。アランにちょっかいを出したいらしい。俺もそろそろ騙しきれない限界だしねぇ」
妖艶な微笑みを浮かべたイザークにそう言われて、私は呆然とした。
アラン王子の初めての相手が、こちらにやってくる?
第一妃として?
ちくりどころではない、嫉妬の痛みが私を猛烈に貫いた。
「リジー、もっと……」
むにゃむにゃと寝ぼけて呟きながら正体もなく寝入るアラン王子は、神々しいまでのイケメンだった。
寝言はまあ、間抜けだけど。
2人でなんとかヨナン妃のソファまでアラン王子を運び、私はそのままフラフラと自分の部屋のベッドまで戻った。
早くも失恋の気分だ。
太刀打ちできない美女が襲来する。
ヨナン妃が女だったら、多分、アランはいちころだ。
そんな気持ちでいっぱいだ。
どうする、私?
私のワンナイトは、予期せぬ展開へ。
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