17 / 17
17 一生そばにいて
しおりを挟む
ヨナンを見送って宮殿の裏門にいる私とイザークの所に、たっぷりと国王と王妃から釘を刺されたノーザント子爵家のクリフがよろよろとやってきた。
「リジー、リジーと別れたから俺、散々なん……」
クリフが言いかけた所で、イザークことヨナン妃にバシッと割って入られた。
「あろうことか、第二妃に向かって軽々しく名前を呼ぶとは何事ですか!?」
低いながらも女性の声に聞こえる中性的な声だ。
あぁ。
いざとなればこういう声も出すんだ。
美女にしか見えないイザーク。
クリフはハッとした顔でイザーク扮するヨナン妃を見つめた。叱られたのに、惚れ惚れしている表情だ。
「ほんものすげーっ色気、やっぱ違う……俺なんで間違えた?」
あぁ、バカだクリフ。
私はなんでこんなチャラい若者と婚約して初めてを捧げるつもりだったんだろう?
これはないわ。
断じてないわ。
「……ないわ。リジー、正解だわ。アランの方が数千倍いい」
イザーク扮するヨナン妃に囁かれた。
私は思わず嬉しくて、少し気分が晴れて、イザーク扮するヨナン妃に抱きついた。
「あら?その気になった、俺と?」
私たちは笑い合いながら、イザーク扮するヨナン妃に目がハートになったクリフをそこに置いて戻った。
部屋に戻ると、マリーがヤキモキした表情で待っていた。
「お嬢様ぁっ!大変です。国王陛下と王妃様がお待ちですっ!」
バレた?
嘘でしょう?
そんなはずある?
ヨナンは今迎えの馬車に乗って帰った。
どうしよう?
私は身代わり政略結婚の件がついにバレたのかと冷や汗が出た。
もはや、私も知って騙した側の人間だ。
覚悟を決めて部屋の外に出ると、初めて見る従者が待っていた。彼に付いて黙って歩いて行く。私の後ろからマリーも付いてきた。
マリーは何事か分かっていない。
ただ、雰囲気的にただならぬ事が起きたと思っているらしく、青ざめて両手をしきりと握りしめて祈るようなポーズをとっている。
マリー、今回ばかりはだめかもだ。
私は隠してはならぬことを隠した。
国家間の利権が絡むとあれば、何らかの罪に問われる可能性があるかも?
そんなっ!
ドアを開けると、厳しい顔をした国王と王妃が椅子に座っていた。そばにはアラン王子がいる。
3人だけだ。
3人の前には、契約書のようなものが広げられていた。
な……なんでしょう?
「エリザベス、あなたに聞きます」
王妃がまず口を開いた。
「は……はい」
ゴクリと唾を飲む。
話の行先がまるでわからない。
怖い。
「あなたには覚悟がありますか?」
な……なんのでしょう?
何の覚悟かおっしゃってくださいましっ!
罰せられる覚悟でしょうか?
まさか、島流し的な……っ!?
ひぃっ
息を飲む私に、厳しい眼差しで王妃が私を見つめた。
「エリザベスっ!」
「はいっ!」
王妃のあまりの剣幕に条件反射で返事をする私。
「我が国の未来の王妃になる覚悟があなたにありますかっ!?」
「はいっ!」
へ……?
今なんと!?
「あるのね。いいわ」
静かに厳しい声で王妃は言った。そして、国王に向かって伝えた。
「陛下、エリザベスは既に覚悟を決めているようですわ。問題ございません」
待って。
待って待っ……!
横でアランが首を縦に振っているのが見えた。
何をっ!?
何を勝手に……?
「側妃は、アランが選んだ。本来ならば、厳重な審議が行われて未来の王妃は決められるものだが、エリザベスは側妃ではなく、第一妃としてアランの生涯の伴侶となり、我が国の未来の王妃となってもらうことになる」
国王はスラスラと喋った。
はぁっ!?
いたしただけですが、ご……ご冗談をっ!?
「エリザベス、ペジーカから正式な申し入れがあった。利権の共有はこのままとし、ヨナンを第二妃に降格し、できれば自由にして欲しいと」
私は口がぱくぱくと動くだけで、言葉を発せない。
余計なことは言えない。
イザークをヨナン妃から解放するための、最良の方法だというのは分かった。
だから嫌とは言えない。
言っちゃだめ、私!
「わかりました」
私はそれだけ言葉を搾り出した。
「よしっ!これでいいな?ヨナンも幸せだし、アランも幸せ。エリザベスも幸せなんだな?」
国王が突然砕けたモードで言った。
もしかして、アランの軽さは陛下譲りですか……?
「私はアランとエリザベスなら、この国を支えていけると思う。ヨナンも時々力を貸してくれると約束してくれている」
「そうでございますわね。アランとエリザベスは……なんと言いますか、相性がその……良いようですからね」
国王と王妃が何を話しているのか耳に入らない。
煌めく瞳を私に向けた背の高いイケメンが、美しい笑みを浮かべて私の方に歩いてきた。
「だからさぁ、リジー、俺リジーを本気で愛しているって言ったでしょ。守るから」
私はぎゅっと抱きしめられて、耳元で囁かれた。頭がクラクラとする。
何でそうなるの、王妃ですかっ!?
「今晩もこれからもずーっと、俺はリジーだけを愛するから。一生そばにいて……」
温かくて柔らかい唇が私の唇に落ちてきて、舌が入ってきた。
あぁっんっ
陛下の前で何をっ!?
酔って散らした挙句、予期せぬ展開で幸せになったかも……?
私のワンナイトは、良きせぬ展開へ。
完
お読みいただきまして、本当にありがとうございます。感謝申し上げます。
出来心で大変申し訳ございません。
お楽しみいただけたら幸いでございます。
「リジー、リジーと別れたから俺、散々なん……」
クリフが言いかけた所で、イザークことヨナン妃にバシッと割って入られた。
「あろうことか、第二妃に向かって軽々しく名前を呼ぶとは何事ですか!?」
低いながらも女性の声に聞こえる中性的な声だ。
あぁ。
いざとなればこういう声も出すんだ。
美女にしか見えないイザーク。
クリフはハッとした顔でイザーク扮するヨナン妃を見つめた。叱られたのに、惚れ惚れしている表情だ。
「ほんものすげーっ色気、やっぱ違う……俺なんで間違えた?」
あぁ、バカだクリフ。
私はなんでこんなチャラい若者と婚約して初めてを捧げるつもりだったんだろう?
これはないわ。
断じてないわ。
「……ないわ。リジー、正解だわ。アランの方が数千倍いい」
イザーク扮するヨナン妃に囁かれた。
私は思わず嬉しくて、少し気分が晴れて、イザーク扮するヨナン妃に抱きついた。
「あら?その気になった、俺と?」
私たちは笑い合いながら、イザーク扮するヨナン妃に目がハートになったクリフをそこに置いて戻った。
部屋に戻ると、マリーがヤキモキした表情で待っていた。
「お嬢様ぁっ!大変です。国王陛下と王妃様がお待ちですっ!」
バレた?
嘘でしょう?
そんなはずある?
ヨナンは今迎えの馬車に乗って帰った。
どうしよう?
私は身代わり政略結婚の件がついにバレたのかと冷や汗が出た。
もはや、私も知って騙した側の人間だ。
覚悟を決めて部屋の外に出ると、初めて見る従者が待っていた。彼に付いて黙って歩いて行く。私の後ろからマリーも付いてきた。
マリーは何事か分かっていない。
ただ、雰囲気的にただならぬ事が起きたと思っているらしく、青ざめて両手をしきりと握りしめて祈るようなポーズをとっている。
マリー、今回ばかりはだめかもだ。
私は隠してはならぬことを隠した。
国家間の利権が絡むとあれば、何らかの罪に問われる可能性があるかも?
そんなっ!
ドアを開けると、厳しい顔をした国王と王妃が椅子に座っていた。そばにはアラン王子がいる。
3人だけだ。
3人の前には、契約書のようなものが広げられていた。
な……なんでしょう?
「エリザベス、あなたに聞きます」
王妃がまず口を開いた。
「は……はい」
ゴクリと唾を飲む。
話の行先がまるでわからない。
怖い。
「あなたには覚悟がありますか?」
な……なんのでしょう?
何の覚悟かおっしゃってくださいましっ!
罰せられる覚悟でしょうか?
まさか、島流し的な……っ!?
ひぃっ
息を飲む私に、厳しい眼差しで王妃が私を見つめた。
「エリザベスっ!」
「はいっ!」
王妃のあまりの剣幕に条件反射で返事をする私。
「我が国の未来の王妃になる覚悟があなたにありますかっ!?」
「はいっ!」
へ……?
今なんと!?
「あるのね。いいわ」
静かに厳しい声で王妃は言った。そして、国王に向かって伝えた。
「陛下、エリザベスは既に覚悟を決めているようですわ。問題ございません」
待って。
待って待っ……!
横でアランが首を縦に振っているのが見えた。
何をっ!?
何を勝手に……?
「側妃は、アランが選んだ。本来ならば、厳重な審議が行われて未来の王妃は決められるものだが、エリザベスは側妃ではなく、第一妃としてアランの生涯の伴侶となり、我が国の未来の王妃となってもらうことになる」
国王はスラスラと喋った。
はぁっ!?
いたしただけですが、ご……ご冗談をっ!?
「エリザベス、ペジーカから正式な申し入れがあった。利権の共有はこのままとし、ヨナンを第二妃に降格し、できれば自由にして欲しいと」
私は口がぱくぱくと動くだけで、言葉を発せない。
余計なことは言えない。
イザークをヨナン妃から解放するための、最良の方法だというのは分かった。
だから嫌とは言えない。
言っちゃだめ、私!
「わかりました」
私はそれだけ言葉を搾り出した。
「よしっ!これでいいな?ヨナンも幸せだし、アランも幸せ。エリザベスも幸せなんだな?」
国王が突然砕けたモードで言った。
もしかして、アランの軽さは陛下譲りですか……?
「私はアランとエリザベスなら、この国を支えていけると思う。ヨナンも時々力を貸してくれると約束してくれている」
「そうでございますわね。アランとエリザベスは……なんと言いますか、相性がその……良いようですからね」
国王と王妃が何を話しているのか耳に入らない。
煌めく瞳を私に向けた背の高いイケメンが、美しい笑みを浮かべて私の方に歩いてきた。
「だからさぁ、リジー、俺リジーを本気で愛しているって言ったでしょ。守るから」
私はぎゅっと抱きしめられて、耳元で囁かれた。頭がクラクラとする。
何でそうなるの、王妃ですかっ!?
「今晩もこれからもずーっと、俺はリジーだけを愛するから。一生そばにいて……」
温かくて柔らかい唇が私の唇に落ちてきて、舌が入ってきた。
あぁっんっ
陛下の前で何をっ!?
酔って散らした挙句、予期せぬ展開で幸せになったかも……?
私のワンナイトは、良きせぬ展開へ。
完
お読みいただきまして、本当にありがとうございます。感謝申し上げます。
出来心で大変申し訳ございません。
お楽しみいただけたら幸いでございます。
96
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
靴屋の娘と三人のお兄様
こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!?
※小説家になろうにも投稿しています。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
メイウッド家の双子の姉妹
柴咲もも
恋愛
シャノンは双子の姉ヴァイオレットと共にこの春社交界にデビューした。美しい姉と違って地味で目立たないシャノンは結婚するつもりなどなかった。それなのに、ある夜、訪れた夜会で見知らぬ男にキスされてしまって…?
※19世紀英国風の世界が舞台のヒストリカル風ロマンス小説(のつもり)です。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
『婚約破棄されましたが、孤児院を作ったら国が変わりました』
ふわふわ
恋愛
了解です。
では、アルファポリス掲載向け・最適化済みの内容紹介を書きます。
(本命タイトル①を前提にしていますが、他タイトルにも流用可能です)
---
内容紹介
婚約破棄を告げられたとき、
ノエリアは怒りもしなければ、悲しみもしなかった。
それは政略結婚。
家同士の都合で決まり、家同士の都合で終わる話。
貴族の娘として当然の義務が、一つ消えただけだった。
――だから、その後の人生は自由に生きることにした。
捨て猫を拾い、
行き倒れの孤児の少女を保護し、
「収容するだけではない」孤児院を作る。
教育を施し、働く力を与え、
やがて孤児たちは領地を支える人材へと育っていく。
しかしその制度は、
貴族社会の“当たり前”を静かに壊していった。
反発、批判、正論という名の圧力。
それでもノエリアは感情を振り回さず、
ただ淡々と線を引き、責任を果たし続ける。
ざまぁは叫ばれない。
断罪も復讐もない。
あるのは、
「選ばれなかった令嬢」が選び続けた生き方と、
彼女がいなくても回り続ける世界。
これは、
恋愛よりも生き方を選んだ一人の令嬢が、
静かに国を変えていく物語。
---
併せておすすめタグ(参考)
婚約破棄
女主人公
貴族令嬢
孤児院
内政
知的ヒロイン
スローざまぁ
日常系
猫
義兄様と庭の秘密
結城鹿島
恋愛
もうすぐ親の決めた相手と結婚しなければならない千代子。けれど、心を占めるのは美しい義理の兄のこと。ある日、「いっそ、どこかへ逃げてしまいたい……」と零した千代子に対し、返ってきた言葉は「……そうしたいなら、そうする?」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる