【完結】美人悪役公爵令嬢はループで婚約者の謀略に気づいて幸せになって、後悔させる

西野歌夏

文字の大きさ
20 / 71
第一章 破綻と出会い フランと王子Side

褐色のパン 王子Side

しおりを挟む
◆◆◆

 食事の間中、フランは輝くような笑顔を振りまいて、皆とおしゃべりしながら食べていた。しかし、よく食べていた。公爵令嬢とは思えぬ逞しさを示した彼女だったが、今日は食欲も旺盛のようだった。

 それを見ていると、なぜか俺まで幸せな気分になった。ヘンリード校に通うことはイヤイヤだったけれども、今は楽しいとすら思い始めていた。生まれて初めて誰も自分の正体を知らないという状況の快感に目覚めたからかも知れない。

 フランが褐色のパンを見た時の目の色の変わりようといったらなかった。大興奮しているのが傍目からも分かったが、なぜ公爵令嬢の彼女が褐色のパンの山に興奮するのかが俺にはさっぱり分からなかった。彼女はご丁寧に綺麗なレースの刺繍のついたハンカチを2枚広げて、パンを少しずつ包んでいた。部屋に持ち帰るらしい。

 ――一体、何を考えているんだ?

 食事の後、少しでもフランと話したいと思って声をかけたが、彼女は俺が思っても見なかった行動に出た。

 魔力の話をしようとしたら、例の綺麗に包んだハンカチの包みからいきなり褐色のパンを俺の口に差し込んだのだ。俺は褐色のパンをかじるというか、口にくわえるはめになり、衝撃のあまりに体が固まった。

 彼女は真っ赤な顔で俺にささやいた。

「そのパン、生まれて初めて食べたけれど、さいっこーに美味しいと思ったのよ!あなたもおひとつどうぞ」

 彼女が身を翻して一目散に廊下を走っていく姿を俺は呆然と見つめながら、くわえたパンを少しかじった。生まれて初めて食べたライ麦と大麦のパンの味が口いっぱいに広がった。素朴な味だ。

 俺は窓から見える夕暮れ後の空に広がった一番星を見つめながら、その素朴な味をしばらく味わっていた。

 空気には春のライラックの香りが漂っていて、ふわふわとした温かい気持ちにさせた。

 ――俺も散歩に行こうかな。

 俺の背後に誰かがすっと立った。
 
「女王陛下がお呼びです」
「母上が?」

 ウォルター・ローダン卿が俺に声をかけてきたのだ。俺はビクッとした。

 俺はため息をついて髪をなでつけた。陛下の前では王子然とする必要がある。きっと今日のフランの能力のことで俺の口からも報告を聞きたいのだろう。

 俺はウォルターと一緒に陛下に会うために、フォーチェスター城の中でも許された者しか入れないエリアに向かった。

 ――散歩はまたにするしかないな。残念。

 どうやら春の庭を夜に散歩する機会を俺は逸したようだ。フォーチェスター城の庭の夜の散歩は心地良い。フランと散歩するのは少しときめくと思ったのだが。

 ――また『ときめく』と思ったか!?

「王子、ときめくとは、何にでしょう?」

 ウォルターに聞き返されて、俺はハッとした。また心の声をただ漏れしていたようだ。

 時々、この自分の脳力の扱いに混乱する。

「春のフォーチェスター城にときめく。ウォルターもそう思うだろ?」
「全然。毎年見慣れた春です」

 ウォルターのそっけない返事に俺は無言で陛下が待つ部屋に向かった。

 母の前で心の声を出す訳にはいかない。



 


 
 ※次の更新は07:10頃です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。

Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。 彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。 そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。 この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。 その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──? (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)

あなたへの愛を捨てた日

柴田はつみ
恋愛
公爵夫人エステルは、冷徹な夫レオニスを心から愛していた。彼の好みを調べ、帰宅を待ちわび、献身的に尽くす毎日。 しかし、ある夜会の回廊で、エステルは残酷な真実を知る。 レオニスが、未亡人クラリスの手を取り囁いていたのだ。 「君のような(自立した)女性が、私の隣にいるべきだった」 エステルは悟る。自分の愛は彼にとって「重荷」であり、自分という人間は彼にとって「不足」だったのだと。その瞬間、彼女の中で何かが音を立てて砕け散る。

お義兄様に一目惚れした!

よーこ
恋愛
クリステルはギレンセン侯爵家の一人娘。 なのに公爵家嫡男との婚約が決まってしまった。 仕方なくギレンセン家では跡継ぎとして養子をとることに。 そうしてクリステルの前に義兄として現れたのがセドリックだった。 クリステルはセドリックに一目惚れ。 けれども婚約者がいるから義兄のことは諦めるしかない。 クリステルは想いを秘めて、次期侯爵となる兄の役に立てるならと、未来の立派な公爵夫人となるべく夫人教育に励むことに。 ところがある日、公爵邸の庭園を侍女と二人で散策していたクリステルは、茂みの奥から男女の声がすることに気付いた。 その茂みにこっそりと近寄り、侍女が止めるのも聞かずに覗いてみたら…… 全38話

処理中です...