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1.求婚 ダメ。王子の魅力は破壊力があり過ぎ。抵抗は難易度高な模様。
03 美人は厄介ですねえ
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井草の香が爽やかに漂う広くて立派な座敷に通された。ここは王子の邸宅である城。
城から迎えにやってきたオオワシの背中に乗ってきて、城の門の前で下ろされたのだ。衛兵に囲まれたまま城門を抜けて城内を歩き、大きなご立派な座敷に通されたところだ。
わたしは大きく息を吐いて覚悟を決めた。引けない。心臓の音が高鳴る。しつこく言いよる王子の本音は知っている。王子がわたしのことを好きなわけでは決してない。間違えてはならない。
どんなに顔が良くて財力を誇る相手が一時的な打算で自分に近づいてきていても、こういう場合は気を確かに持たなければならない。
父はすでに破産しているが、負の状態には代わりがない。なおさらわたしは誘惑に負けぬようシビアにならなければならない。
御簾の向こうに王子がいた。わたしの到着を待ち構えていたようだ。せっかちなタイプなのだ。
「断る!」
わたしは王子が口を開く気配を感じ取って、王子が何か言いかける前に言った。
ジョンは正座して頭を下げている。わたしは頭を上げて、ただ畳の上に正座しているだけ。冷や汗が背中をつたう。緊張感で震えそう。
王子が御簾を払い抜けてやってきた。現実感がまるでない。王子とわたしが対面していること自体が夢を見ているよう。
「まだ何も言っていない。どちらか選びなさい。わたしに殺されるのか。わたしのお妃候補なるか。今すぐにどちらかを選びなさい。」
「はい、どちらもお断りします。」
王子は究極の二択を出してわたしにつめよったが、わたしは即座に言い返した。王子の無駄に凛々しい顔は怒りで歪んだ。
その瞬間、王子は刀を抜いてわたしの首の数ミリのところに刃を置いた。わたしはカッと力を集めて承継門前を発動した。この最強魔術ができる者は少ない。王子の目を見て呪文を唱えた。
「ホッカーターター、エイトートー」
一瞬王子の目が赤く光ったが、わたしの術に負けて刀を力なく下ろした。わたしは魔法寺小屋学校の選抜特選クラスの卒業生だ。王子は帝王学を叩き込まれただろうが、特殊な魔術や忍術が使えるとは限らない。わたしは使える。
「分かりましたか。王子が私を殺せるはずないのです。私は最強魔術と最強忍術が使える珍しいタイプです。」
「ね、なんでそんな礼儀知らずなの?一応俺は王子なんだけど?」
王子はガラッと態度を変えてしゃがみ込んでいる。なんなのもう……と小さくつぶやいている。
わたしは右手の指3本を、王子の顔の前に差し出した。
「王子の方が学年で言えばわたしより2つ年下です。今この瞬間で言えば3つも違います。生活のためにわたしが働いている職場にいきなり呼び出しをかけるなんて非常識でしょう。王子の権限で突然呼びつけておいてどちらかを選べなんて、王子の方が礼儀しらずではないですか。王子はお金の心配なんてしたことないでしょうが、わたしは働かないと生きていけないのです。」
「だーかーらー、俺のお妃候補になればその苦しい生活も楽になるでしょう?」
王子は腕組みをして真っ直ぐに私を見ている。ジョンはその横で正座していた。頭を畳につけそうなぐらいの姿勢のままで、ピクリとも動かない。
「屈辱です。」
「あなたにとっては、俺のお妃候補がそんなに屈辱なことなわけですか。こちらは守ってやろうとしているのに。」
「だから、別に守ってもらわなくても結構ですって。」
「ジョン、もう頭を上げて。」
わたしはジョンがひれ伏したままなことに、やっていられなくなった。ため息をついて、隣で頭を畳にすりつけんばかりのジョンに頭を上げてもらった。
「美人は厄介ですねえ。」
ジョンは顔を上げるとニヤッとした。邪気のない様子でわたしと王子のやりとりを面白がっていた。
「いやみですか。王子はわたしが美人だからという理由でお妃候補になれと言っているわけではないんです。」
――まあ、ちょっと美人なのは認める。いや、わたしがほんの少し美人なのとこの話は全く別だろう。今は話しに集中するのだ。
「では、お妃候補というご大層なものになってくれと、なぜ王子は沙織に言っているの?その理由を沙織はどう考えているの。王子が相当沙織に気がある以外に、何があるの?」
「王子はタイムリープのゲームに参加したいだけなのです。わたしをそばに置いて自分をあの危険極まりないゲームに呼び込めと言っているだけです。王子の目的はわたしではなく、タイムリープゲームなのです。」
わたしは王子を指差して説明した。
「失礼な。指さすな。あ、でもバレた?」
王子は髪をかきあげながら、フフッと笑った。
――本当にもうふざけている
「うちは貧乏なので、王子との婚姻に向けた婚約を奥奉行が許すはずありません。」
「だーかーらー、その沙織の家の借金は俺が全部返してやる。それは条件の1つ。」
王子は禁句を言ってしまった。
――はあっ?お金で買えると思うなっ!
わたしは袂から短剣を出して畳に刺そうかと思った。しかし、頭に血がのぼった途端に、一瞬くらっときた。わたしはそのまま力が抜けて畳に倒れこんだ。さっき最強魔術をいきなり発動したことで力を使い過ぎたのだ。さらに今の王子の発言で興奮しすぎたのかもしれない。すっと気が抜けてしまった。
***
「プルプルプルー」
――まずい
駅の電車が出発する時のお知らせ音。
「ドアが閉まります。お気をつけください。」
わたしはゆっくりと目をあけた。
――しまった
――令和にきてしまった
電車の座席に座ったわたしはすっと目をつぶる。身体中の気を抜いた。
――お願い、戻って魔歴に!
***
「沙織!」
ジョンが叫んでわたしの肩に手を触れた。よかった。戻ったようだ。
「今の何?一瞬だけ、沙織の姿が薄く見えたきがしたんだけど。目の錯覚か。それともゲームに召喚されかけていたの?」
王子のあっけにとられた様子だ。令和に行きかけたのがバレたかと思ってわたしの顔は真っ赤になった。一応、私の生態は秘密だから。
「大丈夫。とにかく断るっ!ごめん!」
わたしは畳に突っ伏した状態から体を起こした。立ち上がって踵を返して座敷を後にした。足がしびれている……。わたしはかなり格好悪い千鳥足で、よろよろと座敷を出て行った。
「ねー、命を狙われてんの、知っているよねえ?」
王子ののんびりした声が背中から追ってきたが、無視した。
――狙われているのは知っていますとも。お金持ちの苦労知らずの坊っちゃま。だからって、あなたのお妃候補なんて死ぬほど嫌なの。
「今度職場に呼び出しかけたら、ゲーム召喚はあきらめたまえっ。ハハ!若君よっ!」
わたしは振り返って大声で叫んで強がった。うーん、自分でも可愛くない性格だとつくづく思う。
ジョンは急足でやってきて、わたしに追いついた。
「綺麗なうちに結婚はしておいた方がいいけどね。」
またセクハラ発言をしたので、恨めしさをたっぷり込めた表情でジョンをにらんだ。
――当分ずーっと綺麗なままでいるから黙って見ていてください。
「ね、さっきの何?」
ジョンはわたしにささやいてきたが、わたしは黙って城の廊下を歩き続けた。
――さっきの座敷は、令和では二子玉の駅のホームだった。となると、このあたりは川のど真ん中だ。ここで気を失ったら令和側では川に流される。
わたしは素早くと城の廊下を歩き続けた。
――ここから早くおいとませねばならない。
多分、これはもうダメだ。王子に抵抗するのは難易度が高すぎる。王子の魅力は破壊力がありすぎた。
城から迎えにやってきたオオワシの背中に乗ってきて、城の門の前で下ろされたのだ。衛兵に囲まれたまま城門を抜けて城内を歩き、大きなご立派な座敷に通されたところだ。
わたしは大きく息を吐いて覚悟を決めた。引けない。心臓の音が高鳴る。しつこく言いよる王子の本音は知っている。王子がわたしのことを好きなわけでは決してない。間違えてはならない。
どんなに顔が良くて財力を誇る相手が一時的な打算で自分に近づいてきていても、こういう場合は気を確かに持たなければならない。
父はすでに破産しているが、負の状態には代わりがない。なおさらわたしは誘惑に負けぬようシビアにならなければならない。
御簾の向こうに王子がいた。わたしの到着を待ち構えていたようだ。せっかちなタイプなのだ。
「断る!」
わたしは王子が口を開く気配を感じ取って、王子が何か言いかける前に言った。
ジョンは正座して頭を下げている。わたしは頭を上げて、ただ畳の上に正座しているだけ。冷や汗が背中をつたう。緊張感で震えそう。
王子が御簾を払い抜けてやってきた。現実感がまるでない。王子とわたしが対面していること自体が夢を見ているよう。
「まだ何も言っていない。どちらか選びなさい。わたしに殺されるのか。わたしのお妃候補なるか。今すぐにどちらかを選びなさい。」
「はい、どちらもお断りします。」
王子は究極の二択を出してわたしにつめよったが、わたしは即座に言い返した。王子の無駄に凛々しい顔は怒りで歪んだ。
その瞬間、王子は刀を抜いてわたしの首の数ミリのところに刃を置いた。わたしはカッと力を集めて承継門前を発動した。この最強魔術ができる者は少ない。王子の目を見て呪文を唱えた。
「ホッカーターター、エイトートー」
一瞬王子の目が赤く光ったが、わたしの術に負けて刀を力なく下ろした。わたしは魔法寺小屋学校の選抜特選クラスの卒業生だ。王子は帝王学を叩き込まれただろうが、特殊な魔術や忍術が使えるとは限らない。わたしは使える。
「分かりましたか。王子が私を殺せるはずないのです。私は最強魔術と最強忍術が使える珍しいタイプです。」
「ね、なんでそんな礼儀知らずなの?一応俺は王子なんだけど?」
王子はガラッと態度を変えてしゃがみ込んでいる。なんなのもう……と小さくつぶやいている。
わたしは右手の指3本を、王子の顔の前に差し出した。
「王子の方が学年で言えばわたしより2つ年下です。今この瞬間で言えば3つも違います。生活のためにわたしが働いている職場にいきなり呼び出しをかけるなんて非常識でしょう。王子の権限で突然呼びつけておいてどちらかを選べなんて、王子の方が礼儀しらずではないですか。王子はお金の心配なんてしたことないでしょうが、わたしは働かないと生きていけないのです。」
「だーかーらー、俺のお妃候補になればその苦しい生活も楽になるでしょう?」
王子は腕組みをして真っ直ぐに私を見ている。ジョンはその横で正座していた。頭を畳につけそうなぐらいの姿勢のままで、ピクリとも動かない。
「屈辱です。」
「あなたにとっては、俺のお妃候補がそんなに屈辱なことなわけですか。こちらは守ってやろうとしているのに。」
「だから、別に守ってもらわなくても結構ですって。」
「ジョン、もう頭を上げて。」
わたしはジョンがひれ伏したままなことに、やっていられなくなった。ため息をついて、隣で頭を畳にすりつけんばかりのジョンに頭を上げてもらった。
「美人は厄介ですねえ。」
ジョンは顔を上げるとニヤッとした。邪気のない様子でわたしと王子のやりとりを面白がっていた。
「いやみですか。王子はわたしが美人だからという理由でお妃候補になれと言っているわけではないんです。」
――まあ、ちょっと美人なのは認める。いや、わたしがほんの少し美人なのとこの話は全く別だろう。今は話しに集中するのだ。
「では、お妃候補というご大層なものになってくれと、なぜ王子は沙織に言っているの?その理由を沙織はどう考えているの。王子が相当沙織に気がある以外に、何があるの?」
「王子はタイムリープのゲームに参加したいだけなのです。わたしをそばに置いて自分をあの危険極まりないゲームに呼び込めと言っているだけです。王子の目的はわたしではなく、タイムリープゲームなのです。」
わたしは王子を指差して説明した。
「失礼な。指さすな。あ、でもバレた?」
王子は髪をかきあげながら、フフッと笑った。
――本当にもうふざけている
「うちは貧乏なので、王子との婚姻に向けた婚約を奥奉行が許すはずありません。」
「だーかーらー、その沙織の家の借金は俺が全部返してやる。それは条件の1つ。」
王子は禁句を言ってしまった。
――はあっ?お金で買えると思うなっ!
わたしは袂から短剣を出して畳に刺そうかと思った。しかし、頭に血がのぼった途端に、一瞬くらっときた。わたしはそのまま力が抜けて畳に倒れこんだ。さっき最強魔術をいきなり発動したことで力を使い過ぎたのだ。さらに今の王子の発言で興奮しすぎたのかもしれない。すっと気が抜けてしまった。
***
「プルプルプルー」
――まずい
駅の電車が出発する時のお知らせ音。
「ドアが閉まります。お気をつけください。」
わたしはゆっくりと目をあけた。
――しまった
――令和にきてしまった
電車の座席に座ったわたしはすっと目をつぶる。身体中の気を抜いた。
――お願い、戻って魔歴に!
***
「沙織!」
ジョンが叫んでわたしの肩に手を触れた。よかった。戻ったようだ。
「今の何?一瞬だけ、沙織の姿が薄く見えたきがしたんだけど。目の錯覚か。それともゲームに召喚されかけていたの?」
王子のあっけにとられた様子だ。令和に行きかけたのがバレたかと思ってわたしの顔は真っ赤になった。一応、私の生態は秘密だから。
「大丈夫。とにかく断るっ!ごめん!」
わたしは畳に突っ伏した状態から体を起こした。立ち上がって踵を返して座敷を後にした。足がしびれている……。わたしはかなり格好悪い千鳥足で、よろよろと座敷を出て行った。
「ねー、命を狙われてんの、知っているよねえ?」
王子ののんびりした声が背中から追ってきたが、無視した。
――狙われているのは知っていますとも。お金持ちの苦労知らずの坊っちゃま。だからって、あなたのお妃候補なんて死ぬほど嫌なの。
「今度職場に呼び出しかけたら、ゲーム召喚はあきらめたまえっ。ハハ!若君よっ!」
わたしは振り返って大声で叫んで強がった。うーん、自分でも可愛くない性格だとつくづく思う。
ジョンは急足でやってきて、わたしに追いついた。
「綺麗なうちに結婚はしておいた方がいいけどね。」
またセクハラ発言をしたので、恨めしさをたっぷり込めた表情でジョンをにらんだ。
――当分ずーっと綺麗なままでいるから黙って見ていてください。
「ね、さっきの何?」
ジョンはわたしにささやいてきたが、わたしは黙って城の廊下を歩き続けた。
――さっきの座敷は、令和では二子玉の駅のホームだった。となると、このあたりは川のど真ん中だ。ここで気を失ったら令和側では川に流される。
わたしは素早くと城の廊下を歩き続けた。
――ここから早くおいとませねばならない。
多分、これはもうダメだ。王子に抵抗するのは難易度が高すぎる。王子の魅力は破壊力がありすぎた。
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