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2ー解毒術の権威

43 別れと渇望の抑止法

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 木の実、キノコ、王子が捕まえてきた魚、元気になったミキが捕まえてきたカニ。それらを炭火で焼いていた。

 辺りには香ばしい匂いが漂っていた。先ほどジョンとわたしがかわりばんこに背中に乗せて空を飛んだ子供たちが、遊び疲れて眠そうな様子で料理ができるのを待っていた。オオワシになったわたしとジョンは、ミキとミキの奥さんも背中に乗せて飛んだ。

 別れが近づいていた。ネアンデルタール人は温厚で賢かった。

 ジョンは泣きながら、元気になったミキとその家族を抱きしめて別れの挨拶をしていた。

「ミキ、元気でね。」
「泣かないでジョン。こっちまで泣いてしまうだろう。」

 王子はそう言いながらも、ポロポロ涙をこぼしながら子供たちを抱きしめていた。
 ナディアもそっと涙を拭っていた。

 彼らの生活は、平成に生きるナディアから見ても、最新種である魔女忍から見ても危険と隣り合わせだ。明日も明後日も、彼らが元気に生きていけているとは分からない。

 わたしたちは、泣きながらお礼を言うネアンデルタール人の家族に別れを告げた。わたしと王子とジョンは固く抱き合い、ナディアはミキの奥さんがくれた貝殻のビーズにカメラを向けた。

「カメラアプリミッションクリアしました。」

 爽やかな機械音がして、焚き火の前にたたずむネアンデルタール人家族が消えた。


***


 戻ってきたのだ。

 ナディアはいつものアジトに戻ったのだろう。わたしと王子とジョンだけが、王子の隠れ家に戻ってきていた。

「ひいッ!」

 王子の側近は、わたしたちの毛皮を着た原始人スタイルを見ると悲鳴をあげてびっくり返った。

「あ!納豆とニンニクある!」

 わたしは王子が頼んでいた納豆とニンニクが大量にあるのに気づいた。側近が集めて運んできたらしい。

 わたしは疾走して隠れ家のシャワールームに飛び込んだ。毛皮を脱ぎ捨ててシャワーを全身に浴び、タオル一枚で浴室から飛び出した。

「納豆ッ!」
「沙織!なんだよ、何してる!?」

 王子とジョンが叫ぶ声を無視して、わたしはひたすら納豆を手づかみで食した。

「ごめんなさい。お見苦しいところを。血えの渇望を抑えるには納豆がベストなようですッ!」

 納豆を頬張って幸せに浸るわたしに、王子の側近は悲鳴をあげて逃げて行った。

 誰も襲っていないのだから、許してー

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