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2ー解毒術の権威

48 抑えきれぬ欲望に抗って

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 王子の唇がゆっくりとわたしに迫る。わたしと王子しかいない薄暗い部屋の中で、わたしは目をつぶる。

 ――待って待って待って!
 ――ちょっと待って!

 性急ではないだろうか。欲望に身を任せても良いのだろうか。そんな思いで頭の中はパニックになる。頭が熱い。顔から火がでるほどほてりを感じる。わたしの肩に置かれていた王子の両手がわたしの両頬を包み、いよいよー




 ――ダメだー!
 ――無理だー!
 ――無理無理無理無理!


「ああん、だめ」
「うん?」

「王子、身体がいうことを聞かないので、一度だけ言わせていただきます。今ここでキスをしたら止まりません。わたしの心のストッパーは外れます。おそらく今一番問題なのは、わたしが吸血鬼度85パーセントを超えた体になった点だと思います。抑えが効かない欲望の中に、吸血鬼としての欲望をわたしは認めています!」


「王子もご自身の欲望に流されずに踏みとどまった方がよろしいかと思いますっ!申し訳ございませんわっ!」

 わたしの両頬を包んだ温かい手が一瞬だけ怯んだ。

 その隙にわたしは王子を抱きしめて、そのまま首筋にガブリと行きたい心を必死に抑え込んで、走って王子の部屋を飛び出した。


 王子が後ろから追ってきたが、わたしはそれには応じず、一目散に自分の小さな部屋目掛けて走った。贈り物のセグウェイに飛び乗って、空を飛んで急いで自分の小さな部屋まで空を飛んだ逃げ帰った。

 私は自分の欲望にうちひしがれた。



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