ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第六話 どんどん食え、おかわりもいいぞ

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 軍艦、特に戦艦とは一種の工芸品だ。一朝一夕には建造出来ず作って動かしてみないと正確な性能も分からない。芸術品とも言えるだろう。ともかくも安価な量産品とはわけが違う。

 

 だから、彼らが顎を外すのも無理はない。

 

 東洋一の軍港 呉で海軍大臣米内光政は顎を外していた。



 後ろに控える海軍次官山本五十六も同じ顔をしている。







 陸軍がやらかした226事件から一月余り。

 

 スマートがモットーの帝国海軍は。顔には出さないが心の内では喝采を上げていた。予算分捕り合戦相手の不幸はわが身の幸せである。これだから海軍は……陸軍も同じか。

 

 そんな有頂天にいた海軍にも天より雷が落ちてきた。もっと言うと、やんごとなき方からの剛速球。

 

 「陸軍はこの度の事で、徴兵制度の取り止めと予算大幅削減を受け入れた。海軍は如何に?」



 である。



 反乱がおきるわ、軍閥同然の関東軍は制御できないわ、政治家は癒着と腐敗塗れだわ、何か起きると暴動を起こす国民しかいないわで、およそ成熟した近代国家とは言えない大日本帝国であるが

一応は法治国家である。(まあ、それも怪しいが。)



 近代国家云々は脇に置くとしても、法治国家たる大日本帝国。政治的手続きを踏まない陛下の要求は拒否すべきではある。



 した。



 「国会の審議も内閣総理大臣のハンコもない要求は海軍は聞けません。」



 そうか、そうか、君はそう言う奴なんだね。お忘れではない無いかね?海軍さん。



 この国は最早、狂気のAIが半分ほど支配する国なのだよ。政治的手続きはスピードでついた。

 

 陛下のご下問、臨時国会、衆議貴族両院の賛成多数。暴れる海軍大臣を陸軍大臣と大蔵大臣の高橋さん、それにメイドさんのマッスルドッキングが抑え込み。



 ニヤニヤ顔の中島今朝吾憲兵司令官が、完全武装の憲兵隊一個連隊を引き連れて海軍省を包囲する。



 海軍に反乱の兆しあり。根も葉も無けりゃ火もないが、いわきの煙はボウボウと。出した相手は誰でしょう。



 横須賀、呉、佐世保、舞鶴、各鎮守府に意気揚々と戦車連隊が突撃し、これまた嬉しそうな機械化師団が後に続く。



 「「俺らも、不幸になったんだ!お前も不幸になれ!」」



 なんと美しき同胞愛であることか。



 訳が分からないが、自分たちが賊軍になりかけている事は分かる。



 燃料貯蔵施設も目ざとい陸軍部隊が差し押さえ、海軍航空基地には空挺降下。



 連合艦隊旗艦長門の上空を爆装した九三式重爆撃機がブンブン飛び出す。陸軍の奴ら殺る気だ。

 

 白旗を上げた海軍に突きつけられた要求は以下の通り。



  1、予算は人件費を除いて大幅減額。

 

 2、既存の戦艦は一律解体、代艦は建造。大和級の建造は中止。

 

 3、今後、補給、整備の一切は民間に委託。

 

 4、横須賀海軍工廠、呉海軍工廠、舞鶴海軍工廠は民間企業へ移行、要員は出向。

 

 5、今後、陸上、海上の如何に関わらずメイドさんを雇用する、艦船乗員の半分はメイドさんとする。

 6、航空部隊は水上、艦載を除き陸軍へ接収、新設される空軍へ移管。

 

 7、機関科は廃止、要員は民間職員として再雇用。

 

 「死ねと言うのか!海軍を壊滅させるつもりか!」



 一部の血気盛んな者たちが、抗議の腹切り未遂でメイドさんに羽交い絞めされる。



 暴発しようにも



 「俺は殺るぜ、俺は殺るぜ」



 と殺る気旺盛な陸軍がこちらを見ているのだ、黙って受け入れる他はない。



 今まで国防の為だと、押し切られていた大蔵官僚もこれにはニッコリである。



 そんなこんなで、海軍の誇り長門を筆頭に戦艦群は、メイドさんによりドナドナされて行く。



 涙を流して見送る海軍士官たち。一部水兵は体罰地獄の戦艦が居なくなって内心喜んでいたが。

 

 戦艦に続き巡洋艦、空母、駆逐艦ですら順次解体、新造すると言う。



 これから日本の国防はどうなってしまうのだろうか。



 そして話は冒頭近くに戻る。失意の海軍大臣は、心労で十歳は老けた海軍次官を連れて、呉海軍工廠、現メイドさん造船所へ赴いていた。

 

 「可哀そうな、海軍さんにとっておきのプレゼントをご用意いたしました。どうぞお越しください」

 そんな呼び出しを受けたのだ。

 

 「栄光の帝国海軍が小娘たちの無礼な呼び出し一つ跳ねつけられんとは」



 背中が煤けている海軍大臣がメイドさん運転のリムジンを降りてくる。そして見た。



 「あれは、何かね?」



 外れていた顎を何とか戻し、震える声で尋ねる海軍大臣に、案内のメイドさんが胸を張って答える、その胸は薄かった。



 「プレゼントです、ご主人様。気に入ってもらえましたか?」
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