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第十五話 戦場のハッピーニューイヤー2
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先ほどの少年、楊文理は夕闇迫る街角を走っている。
ちなみに文理と言う名前で気づく方は居ると思うが彼ではなく彼女だ。
彼女の母が用心のためと男装させているのだ。
いつ何時、日本軍が気を変えて略奪に走るかなど誰にも分からない。
用心に越したことは無いと言うのが彼女の母の言い分だ。
年少ながら賢い文理は、そんなこと、まず起こらないだろう踏んでいる。
日本軍がばら撒く物資の量たるや、この町を占領した時にバラまいた量だけで、町の全世帯が一冬越せるだけの分量があったと、女将さん連中が井戸端会議で話しているのを聞いていたし。
門衛の日本兵の恰好は毎日ピカピカで、捕虜になった中国兵のヨレヨレの恰好とは比べの物にならないのを見ているからだ。
「隣の、謝おじさんなど日本兵にずっといてもらいたいなど、無責任なことを言っていた。」
なにしろ日本軍が来てから町は毎日がお祭りの様だからだ。
日本軍はゲリラ発見の為、密告を奨励している。
町長など戦争が始まったころは、東洋鬼を追い出すと、積極的に抗日ゲリラに協力していたくせに、今では密告の急先鋒だ。
報奨金で新しい家を建てるは、前の女将さんを追い出して若いお嫁さんを貰うはと随分羽振りがいい。
「大人たちは勝手だ」
文理はそう思っている。つい先日まで東洋鬼だの蝗軍だのと言っておきながら、報奨金で酒浸りになる男、耳飾りやら洋服やらに血眼の女。
どいつもこいつも欲に浮かされ踊り狂っている。文理の父も、毎日毎日、宴会と賭け事に夢中だ。
(これで日本軍が居なくなったら皆どうするつもりだろう?)
そんなこと事を考えていると、いつの間にやら目的地に付いていた。
暗くなって来た町の中で煌々と明かりを灯す一件のお店。そこが文理のお目当てだ。
「こんびにえんすすとあ」生まれてこの方、街を出た事の無い彼女には、夢のような場所。
遊び狂う大人を馬鹿にしている物の、そこはまだ幼い少女、メイドさんの作り出す未来の製品に目をキラキラさせている。
(おっと、忘れてはいけない、私には目的が有るんだった。)
そう思いだすと彼女はお目当ての商品を引っ掴み店番の女性の前に突き出した。
「これ頂戴、お姉さん、お代はこれで足りる?」
品物とお代を受け取った女性の手は真っ白で、まるで雪の様、自分の擦り傷だらけの手や、母の苦労を重ねた皺のある手とは大違いだ。
「なんて綺麗な人だろう」
女性を見上げる文理はそう思う。まるでこの世の者ではないようだ。
(でもなんかお人形のよう)
(動いて喋る人形なんて聞いたことない。)変な事考えたと可愛く首を振る文理に、女性、メイドさんは話しかけた。
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ文理さん。お母さんに宜しくね」
お目当ての物、母の薬を渡され謝謝と礼を言う文理。
(あれ?何でこの人、私の名前を知ってるんだろう?お母さんのことも?)
聞き返して見たいと思ったが外の日はもうすぐ沈みそうだ。
早く家に帰らなければ。
わざわざ店の外まで見送りに出てくれたメイドさんに、もう一度礼を言うと文理は家路を急いだ。
(早くお母さんにお薬を届けなきゃ。)
日本の薬はとても利くのだと言う。
(肉屋の趙おばさんは三年痛んでいた腰が直ぐ治ったと大騒ぎしていた。)
「これでお母さんも元気になると良いな」
大好きな母はこの所ずっと寝たきりになっている。
もし日本軍の物資のおこぼれに預かれていなかったら一家揃って飢え死にしていたかもしれない。
でも、そのせいで真面目だった父は変になってしまった。
「禍福は糾える縄の如しか」
良い事と悪いことは裏表。どっちが来るか分からない。家の場合一緒に来た。
「世の中はうまくいかないなあ」
文理がそんな事を考えているといつの間にやら家の前だ。
(何だかいい匂いがする、何だろう?)
文理が家の扉を開けると、竈の前で母が料理を作っていた。
(お母さん急にどうしちゃったの!寝たきりだった母が急に家事なんて!)
「お母さん!大丈夫なの、料理なんて良いから寝てなきゃ!」
慌てて母に噛り付く文理、ませていても矢張り子供、母を心配する彼女の目には涙が浮かんでいる。
そんな彼女に母は優しく語り掛けた。
「ええ、もう大丈夫よ、文理。今まで心配させてごめんなさいね。お母さん元気になったのよ。日本のお医者さんがお薬をくれたの、もう迷惑はかけないわ」
そう言うと母は文理の頭を白く美しい手で優しく撫でた。
(良かった、お母さん元気になったんだ。)
ホッとした文理は大切に抱えていた物を思い出した。
(お薬無駄になっちゃったな。まあいい母が元気になったのだから。)
「お腹すいたでしょ、ご飯にしましょうか。お父さんはまだ戻ってきてないけど、しょうがないわね」
仕方がないわねあの人と言いたげな母の顔。文理が久しく見ていない白く美しい笑顔だ。
(本当に良かった、母が元気になってくれて。)
こうなってくると、日本軍が来たことは禍福で言うと福になる。飢え死にすることもなく、母も元気になった。福が連続で来たことになる。ムムムと唸る可愛い文理。
「まっ良いか、昔の人も当てにならないなぁ」
(そうさ、私に取ってはドッチモ福だ。)
久しぶりの母の手料理なんだから、難しい事は考えない!気持ちを切り替えた彼女は、母を手伝う為に炊事場に向かっていった。
1938年1月1日 旧正月にはまだ早い、ある日の出来事である。
ちなみに文理と言う名前で気づく方は居ると思うが彼ではなく彼女だ。
彼女の母が用心のためと男装させているのだ。
いつ何時、日本軍が気を変えて略奪に走るかなど誰にも分からない。
用心に越したことは無いと言うのが彼女の母の言い分だ。
年少ながら賢い文理は、そんなこと、まず起こらないだろう踏んでいる。
日本軍がばら撒く物資の量たるや、この町を占領した時にバラまいた量だけで、町の全世帯が一冬越せるだけの分量があったと、女将さん連中が井戸端会議で話しているのを聞いていたし。
門衛の日本兵の恰好は毎日ピカピカで、捕虜になった中国兵のヨレヨレの恰好とは比べの物にならないのを見ているからだ。
「隣の、謝おじさんなど日本兵にずっといてもらいたいなど、無責任なことを言っていた。」
なにしろ日本軍が来てから町は毎日がお祭りの様だからだ。
日本軍はゲリラ発見の為、密告を奨励している。
町長など戦争が始まったころは、東洋鬼を追い出すと、積極的に抗日ゲリラに協力していたくせに、今では密告の急先鋒だ。
報奨金で新しい家を建てるは、前の女将さんを追い出して若いお嫁さんを貰うはと随分羽振りがいい。
「大人たちは勝手だ」
文理はそう思っている。つい先日まで東洋鬼だの蝗軍だのと言っておきながら、報奨金で酒浸りになる男、耳飾りやら洋服やらに血眼の女。
どいつもこいつも欲に浮かされ踊り狂っている。文理の父も、毎日毎日、宴会と賭け事に夢中だ。
(これで日本軍が居なくなったら皆どうするつもりだろう?)
そんなこと事を考えていると、いつの間にやら目的地に付いていた。
暗くなって来た町の中で煌々と明かりを灯す一件のお店。そこが文理のお目当てだ。
「こんびにえんすすとあ」生まれてこの方、街を出た事の無い彼女には、夢のような場所。
遊び狂う大人を馬鹿にしている物の、そこはまだ幼い少女、メイドさんの作り出す未来の製品に目をキラキラさせている。
(おっと、忘れてはいけない、私には目的が有るんだった。)
そう思いだすと彼女はお目当ての商品を引っ掴み店番の女性の前に突き出した。
「これ頂戴、お姉さん、お代はこれで足りる?」
品物とお代を受け取った女性の手は真っ白で、まるで雪の様、自分の擦り傷だらけの手や、母の苦労を重ねた皺のある手とは大違いだ。
「なんて綺麗な人だろう」
女性を見上げる文理はそう思う。まるでこの世の者ではないようだ。
(でもなんかお人形のよう)
(動いて喋る人形なんて聞いたことない。)変な事考えたと可愛く首を振る文理に、女性、メイドさんは話しかけた。
「はい、大丈夫ですよ。どうぞ文理さん。お母さんに宜しくね」
お目当ての物、母の薬を渡され謝謝と礼を言う文理。
(あれ?何でこの人、私の名前を知ってるんだろう?お母さんのことも?)
聞き返して見たいと思ったが外の日はもうすぐ沈みそうだ。
早く家に帰らなければ。
わざわざ店の外まで見送りに出てくれたメイドさんに、もう一度礼を言うと文理は家路を急いだ。
(早くお母さんにお薬を届けなきゃ。)
日本の薬はとても利くのだと言う。
(肉屋の趙おばさんは三年痛んでいた腰が直ぐ治ったと大騒ぎしていた。)
「これでお母さんも元気になると良いな」
大好きな母はこの所ずっと寝たきりになっている。
もし日本軍の物資のおこぼれに預かれていなかったら一家揃って飢え死にしていたかもしれない。
でも、そのせいで真面目だった父は変になってしまった。
「禍福は糾える縄の如しか」
良い事と悪いことは裏表。どっちが来るか分からない。家の場合一緒に来た。
「世の中はうまくいかないなあ」
文理がそんな事を考えているといつの間にやら家の前だ。
(何だかいい匂いがする、何だろう?)
文理が家の扉を開けると、竈の前で母が料理を作っていた。
(お母さん急にどうしちゃったの!寝たきりだった母が急に家事なんて!)
「お母さん!大丈夫なの、料理なんて良いから寝てなきゃ!」
慌てて母に噛り付く文理、ませていても矢張り子供、母を心配する彼女の目には涙が浮かんでいる。
そんな彼女に母は優しく語り掛けた。
「ええ、もう大丈夫よ、文理。今まで心配させてごめんなさいね。お母さん元気になったのよ。日本のお医者さんがお薬をくれたの、もう迷惑はかけないわ」
そう言うと母は文理の頭を白く美しい手で優しく撫でた。
(良かった、お母さん元気になったんだ。)
ホッとした文理は大切に抱えていた物を思い出した。
(お薬無駄になっちゃったな。まあいい母が元気になったのだから。)
「お腹すいたでしょ、ご飯にしましょうか。お父さんはまだ戻ってきてないけど、しょうがないわね」
仕方がないわねあの人と言いたげな母の顔。文理が久しく見ていない白く美しい笑顔だ。
(本当に良かった、母が元気になってくれて。)
こうなってくると、日本軍が来たことは禍福で言うと福になる。飢え死にすることもなく、母も元気になった。福が連続で来たことになる。ムムムと唸る可愛い文理。
「まっ良いか、昔の人も当てにならないなぁ」
(そうさ、私に取ってはドッチモ福だ。)
久しぶりの母の手料理なんだから、難しい事は考えない!気持ちを切り替えた彼女は、母を手伝う為に炊事場に向かっていった。
1938年1月1日 旧正月にはまだ早い、ある日の出来事である。
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