ミミック大東亜戦争

ボンジャー

文字の大きさ
24 / 58

第二十二話 フューリーエンペラー3 粛清のデスロード

しおりを挟む
 「御免んさい。また戦争始めちゃいました。許して。あと援軍お願いね。怒っちゃやーよ」

 

 概ねそんな内容の大馬鹿報告が日本政府に届いたのは5月15日になってからの事であった。



 「おい誰が陛下に報告するんだよ」



 と揉めに揉めた末に陛下に上奏されたのは5月16日早朝。



  これを受けた陛下は、静かに対応を指示したという。



 陛下、眉間がピクピクしてる。凄い青筋だ。噴火直前のマウント富士。



 上奏を終えた平沼首相は顔面蒼白で官邸に戻ると善後策を急ぎ会議に掛ける。



 陛下大激怒。



 平沼首相に告げられた言葉に、板垣征四郎陸軍大臣、米内光政海軍大臣も顔面蒼白。陛下は昔日の陛下では最早ない。

 

 近衛師団での226鎮圧より、神武天皇以来の覇王の血が蘇ったかの様に積極的な政治への干渉を始めているのだ。

 

 まごまごしていてはどの様な目に会わされるか分からない。



 日中戦争当事者連中の様にエリートキャリアから叩きだされるならましな方だ。

 

 「これだよ君これ」



 平沼首相は腹切りの真似をする。



 冗談ではない。実際に一部の元皇道派や、筆頭の石原莞爾などは怒れる民衆に切腹に追い込まれている。



 世論は完全に陛下の味方だ。



 明治帝の再来、神武天皇が天孫降臨なされた、民衆の陛下人気は留まる事をしらない



 。空前の好景気はどの様な無茶も許容される。其の好景気をもたらした神君には大日本帝国の誰もが逆らえない。



 腹切りもするのも獄門台の露と消えるのも御免蒙る。



 海軍は本土に残る連合艦隊を全力出撃、ウラジオストク攻撃に取り掛かる。



 陸軍も支那での治安維持任務に当たっている部隊を全て引き上げ、満州に急ぎ再配置を開始。

 

 「余計な事しやがって馬鹿野郎ども」



 陸海の心は珍しく一致していた。

 





 5月31日 関東軍司令部の混乱にも助けられ、初戦では勝利を飾れたソ連極東軍であったが後が続かなかった。



 立ち直った日本陸軍が戦線を押し上げ、頭上には爆弾の雨が降らせ始めたのだ。

 

 昼夜関係なくメイドさんを乗せた観測機と襲撃機が後方を飛び回り列車砲弾と機銃掃射をお見舞いしていく。



 ソ連軍、春の淡雪と化す、そう思われたがそう簡単には事は運ばない。



 堅牢なる陣地に籠り、ソ満国境から騎兵を繰り出して前線をすり抜けようと仕掛けてくる。

 

 支那戦線とは違い、ここは人口希薄な満州原野である。褒美を餌に民兵にゲリラ狩りをさせることもできない。



 いたずらに戦線を広げて、初戦で戦車師団に大損害を与えた新鋭戦車がいつ飛び出して来るかもわからない為、日ソ両軍は国境線での睨みあいを始める事になる。



6月1日 満州国 哈爾濱



 「凄い戦車ですよこれ。一式が勝てない訳だ」

 

 日本戦車開発の父、原 乙未生大佐は鹵獲されたT32を見上げて驚きの声を上げていた。



 初戦の戦闘で一式中戦車の47ミリをこれでもかと浴びせられた彼女は擱座。回収にでた日ソ両軍の大激戦の末、ここ哈爾濱のメイドさん工廟に運び込まれたのだ。

 

 「見ましたか辻少佐、この戦車砲。76ミリもある。これじゃイチコロになるのも無理ない。まあ装甲がボルト止めされるのは玉に傷ですが」



 子供が新しい玩具に夢中になるように、T32を弄りまわす原大佐は、横でイライラしている辻参謀に朗らかに話しかけた。



 「その様な事わかっとります大佐殿、吾輩が知りたいのはどうやったら此奴を撃破できるかと言う事です!」



 ソ連に無血で打撃を与えるはずが大損害を出しているのだ。



 (なんで吾輩がこんな目にあわにゃならん)



 とプリプリしている辻参謀。



 「まあまあ、そうカッカしないで、メイドさんが我々を呼んだんですから何とかなりますよ」



 「メイドが吾輩たちを?てっきり大佐殿が此奴の撃破方法を教授されると思っとりましたが」



 「あれっ?そうでしたか?私はメイドさんに、ソ連の戦車を今後の本邦戦車開発に役立てて欲しいと呼ばれたんですよ」

 

 何だ、何だ、要領をえない。どうなっとるんだと、お付きのメイドさんを怒鳴りつける参暴殿。

 

 「おいコラ、メイド一号どうなっとるんだ。しっかり説明せんか!吾輩は無駄足を踏みに来たんじゃないんだぞ。なりばかり美しくとも、仕事が出来んじゃ、しょうがないじゃあないか!」

 

 これだから女はいかん。そもそも何で軍に女なんぞ入れるんだ。どいつもこいつも尻の毛まで抜かれ居ってからに。遂に軍の方針まで批判し始めた。あーうるさい。





 「お待たせいたしました。原大佐様、辻少佐様こちらにどうぞ」



 暫くして、五月蠅いドサンピンの後ろから、メイドさんが現れわれ声を掛けてきた。彼女に導かれ工廟の外に出た二人は目を丸くする。

 

 「いやはや、やはりメイドさんは凄いですねぇ」

 

 「よーし、これで勝てる。行くぞメイド一号!これでソ連なんぞ一息だ!一息!」



  そこにはT32、いや、大日本帝国日本陸軍、正式採用、二式中戦車と今後呼ばれる事になる戦車が、ズラリと並んでいた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

対ソ戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
1940年、遂に欧州で第二次世界大戦がはじまります。 前作『対米戦、準備せよ!』で、中国での戦いを避けることができ、米国とも良好な経済関係を築くことに成功した日本にもやがて暗い影が押し寄せてきます。 未来の日本から来たという柳生、結城の2人によって1944年のサイパン戦後から1934年の日本に戻った大本営の特例を受けた柏原少佐は再びこの日本の危機を回避させることができるのでしょうか!? 小説家になろうでは、前作『対米戦、準備せよ!』のタイトルのまま先行配信中です!

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

もし石田三成が島津義弘の意見に耳を傾けていたら

俣彦
歴史・時代
慶長5年9月14日。 赤坂に到着した徳川家康を狙うべく夜襲を提案する宇喜多秀家と島津義弘。 史実では、これを退けた石田三成でありましたが……。 もしここで彼らの意見に耳を傾けていたら……。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...