ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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第三十六話 悪役令嬢日本ちゃん

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 1941年12月8日 大日本帝国は正式に日独伊三国同盟から離脱した。始めは威嚇、最後は足に縋り付いて同盟維持を主張するドイツであったが、大日本帝国の意思は固かった。



 国民が最早戦争を望んでいないのだ。



 支那を我が物にし、ソ連を惨殺した今、大日本帝国の安全保障を脅かす存在は無くなった。



 太平洋の向こう側に気に食わない相手は居る者の、あいつは我が海軍力に恐れをなしたか死んだように静まり返っている。貿易状況も順調そのもの無視しても大丈夫。



 だからもう良いじゃないか。1937年から向こう帝国は戦争ばかりだ。経済が発展したからと言って。毎朝毎朝、血の出るような話題を新聞で読まされるのは正直飽きた。



 戦争したい国はすればいい。



 我が国は一抜けするのだ。さらば闘いの日々よ!



 



 

 1942年に入り英独の争いは千日手に陥っていた。



 日本の大規模支援の切れたドイツは独ソ戦での傷を癒しきれておらず。



 英国上空での制空権を獲得しきれない。海軍力では英国にかなうはずもなく。其の上、日本参戦の可能性を潰したと見た英国が。東洋艦隊を本国に回航し、地中海の制海権支配に打って出る。



 これではアフリカ攻撃どころではない。陸上においては無敵でも戦うべき敵がいないのだから宝の持ち腐れもいい処だ。



 だからといって英国が有利になったかと言えばそうではない。



 依然としてダンケルクの後遺症は尾を引き続けている。武器は米国から来たとしてもそれを扱う兵士がいない。



 英国本土を襲うドイツ軍機の対応に貴重なリソースを食われ続ける。



 何時まで経っても地上軍の編制が進まない。幸いな事があるとすればドイツの自爆でやる気を無くした日本が物資輸出を再開した事くらいだろう。



 大日本帝国は枢軸各国には、日朝トンネルを通る大陸鉄道、連合国には海上輸送と使い分けて両方に適正価格で資源を売りつけて大きな利益を上げている。



 「あたくし参加はご遠慮しますが、戦争するならもっとやれ」



 明治建国いや幕末以来、煮え湯を飲まされ散々な目に合わされて来た列強諸国が資源と物資を売って下さいお願いしますと跪く。



 「なんかゾクゾクしてきた。こんな気持ち初めて」

 

 シベリアの彼方では傀儡国たちの支配も順調順調。



 愛玩動物赤熊君の飼育権を譲渡された各国は、事実上の不可触賤民であるロシア人をうまく使っている。

 

 特別飼育地で基本的熊権を制限された彼らを憐れみと侮蔑で眺めるのはガス抜きに最適。



 人は自分より下がいると安心できる悲しい生き物である、あいつらよりは俺たちの方が上等な生き物だそう思えるから明日を希望を持って生きていける。



 もし日本に逆らおうものならああなるぞとの警告にも使える。



 熊の飼育は簡単です。毎日規定量の五倍日本製ウォッカとキャビアを与えましょう。



 ご覧あのブクブクに肥え太り明日も昨日もなく飲んだくれる産業廃棄物達を、ああならなくて本当に良かったね。



 支那支配も又順調。



 嘗て心ある少女が心配した通り支那の大地は快楽で埋め尽くされている。



 蒋介石の努力も実りやたらとポップアップしてきた野良英傑も近頃は下火。



 都市に居るのは贅沢品の配給を待つ豚の群れ。農村には祭りを楽しむ純朴な村民たち。



 鼓腹撃壌世は事もなし。老子先生あなたが理想とした社会が来ましたよ欲塗れですが。何とか尊厳を保つ人々は蒋介石の親衛隊が吸収合併、支配強化に有難く使わせて貰います。



 「経済軍事全てが最強。地球上に敢えて逆らう国家等いやしない。見なさい私の姿、世界最強一等国!オホホホ」



 1943年12月 高笑いを続ける悪役令嬢は一発かまされる。



 V2ミサイルの実戦投入である。



 戦局が一向に動かぬ事に業を煮やした総統閣下の厳命で、世界最初の弾道ミサイルは急ピッチで開発されたのだ。



 開発に当たり、如何ほどのロシア人が犠牲になったか定かでないが開発責任者の親衛隊少佐は毛ほども気にしないだろう。



 V1登場には何よあの玩具と笑っていたお嬢様も、成層圏の上より降り注ぐこのロケットには度肝を抜いた。



 慌ててメイドさんに私も欲しいと泣きつくも「完成品もしくは設計図がない事には作れません」と断られる。

 

 「いいもん。家にも技術者は居るもん糸川さーん」



 





 

 「駄目ですね」



 「なぜだね博士!帝国の技術は最早欧米に負け取らん筈だぞ!」



 理化学研究所のオフィスへアポもなしに飛び込んできた陸海空のお偉方にロケット開発の第一人者糸川英夫はにべもなく答える。



 「我が国の科学力は所詮メイドさん頼み。模造品は一級でも基礎がなっとりません。ですからソ連を征服した際モスクワ大学の研究者を拉致してきてでも招聘すべきと上申しましたが皆さん聞く耳持たなかったではありませんか」



 「ぐっ、では今からでも収容所から連れてくる其れで良かろう!」



 「それこそダメですよ。ドイツの学会誌で読みましたがみーんなドイツが連れて行きました」



 「何を他人事の様に帝国の危機なんだぞ!」



 「それを言うなら何故もっと早く予算を付けて頂けなかったのですか?いいですか、先進技術と言う奴は多方面の分野の基礎が必要なんです。戦車や飛行機だけに予算を付けて、そういう言う所が疎かになっていたんですよ。我が帝国は」



 「ではどうするんだ!出来ないだけ話にらんぞ!」



 「今からでも予算と人を寄越して下さい。幸い我が国には金が有るんですから。基礎研究から始めても何とか猿真似ぐらいは出来る様になるでしょう」



 失礼する!と怒りながら帰っていくお偉方。それを見送る糸川は独り言ちる。



「ロケットだけじゃない。全てが一歩遅れとるんだ我が国は。無ければ奪えば良い、そう言う思考では今後どんな目に会うか分からんぞ。皆それが分からんのか」



 窓より目を外に向ければ其処には数年前から見違えるような大都会。



 (我々は最早猿真似ばかりやって良い国ではないんだがな)



 糸川英夫はそう思うと急ぎ研究スタッフを集める為メイドさんへ指示を出した。
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