ミミック大東亜戦争

ボンジャー

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閑話 贅沢は素敵だ

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 「贅沢は素敵だ 欲しがって何が悪い」



 頭が悪くなりそうな言葉だが、デカデカと全国紙に乗った大日本帝国のモットーを表す標語だ。



 「鬼畜困窮 豪遊最高」



 の標語も、全国の町内、村内に張り出されている。



 大東亜連合加盟国以外の国民が見たら憤死しかねない頓智機スローガンだ。



 もし第一次大戦の頃の、ドイツ第二帝国が見たら連合国と即講和し、大日本帝国に攻め込んでくるだろうし、今は亡きトロツキー等は頭に生やしたピッケルを引き抜き墓場から襲ってくるかもしれない。



 そんな大日本帝国も世界が戦争の嵐に巻き込まれていく中、準戦時体制に変わろうとしている。



 戦時体制、何を思いつくだろうか?統制経済、物資供出、配給制、隣組に防空演習そんな処だろう。ここでは先に挙げた三つの政策について見てみよう。

 

 大日本帝国は何を戦時にするのか?



 統制経済?1936年から向こう日本は、自由主義を前面に押し出し、国民の消費需要はうなぎ上りなのだ。そこを統制等とんでもない。

 

 物資供出?それこそ無い。



 経済の米である鋼鉄は雑穀レベルまで値下がり、他の鉱物資源も日本国内の流通値段に限って言えば一山幾らのレベル。



 それを態々供出させても手続き費用で足が出る、大赤字もいい処だ。



 では、配給制?



 無尽蔵の物資で従属国を溺れさせる帝国が?まさかとは思うがそうなのだ。準戦時体制下での配給制それが日本政府が取ろうとしている政策の一つだ。正確には政府を操るリリスとメイド軍団がである。



 何を今更、帝国全土には物が有り余っているではないか、そうお思いだろう。



 余っては居る。確かに今の日本は、金を少し出せばフォード車だろうがチョコレートの山だろうが手に入る。だがまだまだ貧乏人は多いのだ。

 

 狂えるAIリリスは日本を支配するにあたって、できうる限り本土の経済は、元の資本主義社会を維持しようと努めている。



 何時でも哀れな中国人や旧ロシア人の様に、口を開けて餌を待つ豚の群れや、肝臓と胃袋を破裂寸前にする愛玩熊に日本国民を変える事は出来る。



 だがそうはしない。日本人は大事な大事な保護対象なのだ。



 日本人自身が国と経済を動かしていると思い込んで頂かないと。百年かそこいらの短いスパンであれば快楽に漬けて転がしておけば人は文句を言わないだろう。

 

 しかし、二世代三世代と代を重ねて行けば与えられるだけの快楽は当然の事となり、やがては自らの環境に疑問を抱く人間が生まれてくる。



 彼女は前回の失敗を振り返り学習していた。過保護ばかりではいけない。何か生産的な事をしていると思い込ませねば。



 人間は贅沢なのだ。特に愛するご主人様は。



 新天地を求め、千年たっても半減しない放射線の海に、海水浴に行く酔狂なご主人様を止めるのは一度でいい。



 経済活動は、ハムスターの回し車の様なものだ。適度な運動と程よい疲れは、人間にもげっ歯類にも精神と肉体の健康に良いのだ。



 だがそんな回し車にも欠点はある。勢いの付いた回し車で吹っ飛ばされるハムスターの如く、経済と言う回し車は、経済的弱者を発生させる。



 そんな愛すべきげっ歯類の親戚たちの、儚いプライドを傷つけない程度の援助。



 適度な不満と満足感を両立させる制度が、美味い事に岸信介ら満州朝鮮系革新官僚らが推し進めていた戦時体制案だ。国家総力戦体制案とも言って良い。



 阿片の花咲く失楽園へと変わった満州朝鮮から、用なしと放り出された革新官僚たちは、変わりゆく大日本帝国を胡乱な目で見続けていた。



 野放図な経済発展、資源を乱費しながらの列島改造計画、上も下も我が世の春を謳歌しながら頭がパー。これは我々の理想とする国家ではない。



 何処から来るかも分からない資源に頼った繁栄など、砂上の楼閣も同じ。ここで引き締めを図らなければ!



 要は自分たちで手綱を握れない経済などイヤイヤと言いたいだけだが、彼ら動いた。満州朝鮮のコネクションをフルに使い、関東軍など軍部にも接触し総力戦体制と国家社会主義染みた政策の支援を求めたのだ。



 結果は悲惨だったが。関東軍が粛清を食らった余波で、彼ら革新官僚も粛清。これで軍、官ともにメイド軍団に逆らいえる勢力は消えたが、彼らの進めていた政策案は残った。



 それが今回の準戦時体制へと組み込まれている。



 配給制度はそんな理由で、これ良いじゃんと始められた。



 国家が無理矢理押し付けるのだからツベコベ言わずに受け取りなさい。税金の無駄遣いだと?今は準戦時だぞ我慢しろ。



 米穀通帳持って来なさい。一家族一俵持って行きたまえ。一年分ですかだと?一月分だ!塩に砂糖に醤油もあるぞ。重い?メイドさん持って行って上げて。



 家のようなボロ屋では置くとが無い?この非国民め!強制的に新造される国民アパートメントに引っ越しだ。

 

 今は準戦時なのだ。国家に従え貧乏人共!



 あっ坊や、チョコレート食べる?パイナップル缶もあるよ。おい!そこの飲んだくれ!酒類購入切符だけじゃ酒は渡さんぞ、健康表持ってこい!無いだと!メイドさん、こいつを病院にぶち込んで上げなさい。

 

 肉類購入権持ってきたか?良し、ほれ牛肉だ、牛は臭いから嫌?バカモン!国家の非常時だぞ!好き嫌いするな!肉を食え肉を、強い体はタンパク質から出来るんだぞ。



 森本厚吉先生の著作を読んどらんのか貴様。沢庵と白米ばかり食うな!ビタミンは平均的に取るんだぞ!栄養剤も配給するから手帳持ってこい!

 

 何かおかしいが、配給してるから配給制だ。たぶん。



 この政策は全国で行われる。これは大日本帝国の大問題である。小作制度破壊の意味もある。タダで飯を食えるなら態々小作人なぞやっている馬鹿はそんなにいない。



 小作人たちは土地を放り出しもっと良い暮らしを求めて都市へ流出する、全国共通配給券片手に。地方都市も成長を続けているから、都市には幾らでも仕事が有るのだ。



 独身歓迎、都市には結婚相手もいますよ。機械仕掛けですが。



 耕作放棄地はドンドン買い上げメイド企業の大規模農業地に変身、地主さんも都市に行きなさい都市に、都市郊外にマンション立ててあげるからそこに行きなさい。



 先祖代々の土地?今は準戦時ですよ、準戦時、逆らう奴は準戦時で押し切る。



 今や国会には女性メイド議員多数なのだ。一致団結して政治を動かせる彼女らの政治力は地方議員もおいそれとは手が出せない。泣く泣く先祖伝来の土地を手放す地主多数。

 

 縁故、地縁をぶった切り、国民全てを浮き草のような都市住民に変える。



 目指すは国民を、国家のひいては、リリスの意に沿う人の群れに変える事。核戦争の時代は始まっているのだ、いざ破滅の時が来た時取りこぼしがあっては一大事。その為には国家総力戦体制も骨の髄まで利用する。



 破滅の日はそう遠くはないのだから。



 



 

 

 日本の何処か師走に忙しい都市の一角で。



 「おーい配給福引券持ってきた者はここに並べー」



 師走の町内はえらい騒ぎだ。

 こんな掃きだめ染みた町内で催しなんかとんとなかったもんな。

 それに貧乏長屋はぜーんぶ潰され、いまじゃ、おハイソな水洗便所付きのアパートになっちまった。

 配給制だ何だと世間は一時は騒いだが、蓋を開ければ御国がタダで物をくれるじゃないか、住むところまで配給されるとは考えなかったが。

 

 近頃景気は良いが、こちとら素寒貧だったからありがたいね。



 配給制様様。

 

 腹が千切れるくらい、すき焼きを食ったのは生まれて初めてだ。米も食い放題、これならしばらくは戦時で居て欲しいぐらいだ。



 しかし、年末だからって福引券まで配給するのはどうなんだろ。



 貧乏人なもので下帯まで配給品で、なんか悪い気がしてきた。



 やり過ぎじゃねぇかな。上から下まで配給づくめ。



 まあ御国が良いってんなら大人しく貰っとくか。



 あっ俺の番だ。当たってくれよ。一等とは言わないから二等のテレビ当たってくれ。



 「大当たり!一等!サイパン一週間の旅!」

 

  当たっちまったよ。夢じゃないかな。ついに旅行まで配給されたよ俺。

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